平成18年12月21日

千葉県教育長  佐藤 健太郎 様

「千葉県特別支援教育推進基本計画(仮称)」に対する要望

 

千葉県自閉症協会 

会長 大屋 滋

 

拝啓

 時下ますますご清祥のこととお慶び申し上げます。日頃は千葉県自閉症協会(社団法人日本自閉症協会千葉県支部)の活動にご理解とご支援を賜り、誠にありがとうございます。

 さて、私ども千葉県自閉症協会は、「発達障害者支援法」の制定と「特別支援教育」の実施は、「自閉症」という障害が社会の理解と支援が必要な障害であることが認知され、具体的な支援システムが構築される糸口となる重要な機会であると捉えております。特別支援教育につきましては「千葉県特別支援教育推進基本計画(仮称)」が策定されるとのことでありますが、本計画におきまして、私ども自閉症協会は、高機能自閉症・アスペルガー症候群を含む自閉症をもつ児童生徒に対し、「自閉症に特化した適切な教育」が行われるよう規定されることを要望いたします。今まで教育関係者、福祉関係者を含む多くの人が、自閉症者の社会適応を困難にする「問題行動」や「強度行動障害」を、「自閉症の障害の特徴」と考えておりましたが、これらは自閉症の障害特性そのものではなく、自閉症への誤った対応による「二次障害」であり、学齢期においてこのような状況が発生するのは、学校や家庭における「自閉症に対する不適切な教育」によるものであると強く考えられます。そこで、このたびの特別支援教育の実施に当たりまして、教育に関わる人すべてに自閉症への知識と理解を求めることは、自閉症を持つ児童生徒が、「自閉症に特化した教育」を受けることによって、二次障害に陥ることなく、自閉症特有の困難を持ちながらも、「地域社会の一員として尊厳をもって生きる」ことが可能になる、ということが信じられるからです。

本要望書の内容につきましては千葉県自閉症協会会員より寄せられました要望をもとに作成したものでございます。なにとぞご検討を賜りますよう心よりお願い申し上げます。

敬具

 

                

 

T 基本計画策定について

 

1.「計画策定の趣旨」において平成17年に施行された「発達障害者支援法」への言及がありません。平成17年4月1日付け文部科学事務次官及び厚生労働事務次官通知に基づき、発達障害者支援法第一条「目的」、第二条「定義」以下各条文に述べられている同法の趣旨及び概要について、県内各市町村教育委員会及び県内すべての小中高等学校・特別支援学校に周知徹底を図ってください。

2.「特別支援教育」を行うにあたっては、「強度行動障害」は自閉症の特徴ではなく、不適切な教育など、自閉症に対する誤った対応の結果発症する「二次障害」である、との研究報告等を真摯に受け止め認識してください。

 

 

U 本県における障害児教育の現状と課題

 

*骨子案に述べられた7つの課題について申し上げます。

1.(課題1)関係機関のネットワーク作りにおいて、教育現場からの自閉症児への教育的支援の相談に対するCASの果たす役割の大きさを認識し、CASの体制充実について教育の側からも支援をしてください。具体的には自閉症及び発達障害を持つ子どもへの教育的支援に対するCASの指導を、学校現場が速やかに実行する体制をとるよう、現場の意識改革を図ってください。

2.(課題2)地域でともに学ぶためには、社会全体に自閉症及び発達障害に対する知識と理解を深めてもらうよう要望するとともに、自閉症及び発達障害の児童生徒が、その障害によって不利益を生じないよう、教育現場から迅速に対応するよう体制を整えてください。

3.(課題3)小中学校における校内支援体制については、TEACCHプログラムなど世界的に評価の高いシステムを、自閉症を持つ子どもが通うすべての学校で採用するよう指導してください。教育環境整備を行うにあたっては、構造化された施設整備の推進を行ってください。

4.(課題4)教員の専門性の維持・向上以前の取り組みとして、小中高等学校・特別支援学校の校長、教頭などの管理職以下すべての教員に対し、自閉症をはじめとする発達障害に関する継続的な研修を義務付けてください。

5.(課題5)特別支援学校の教室不足と遠距離通学の問題を解決するために、また地域において障害に対応した教育を受けるために、特別支援学校の分校化、分教室化を実現してください。

6.(課題6)特別支援学校が「地域の学校」であるためには、現状のような「交流学習」では不十分であり、ニーズがあればすべての障害においても「二重学籍」などの日常的相互交流が可能なシステムを構築してください。

7.(課題7)就労においては、「学校おける就労準備の不足」「情報提供の不足」「就職後のフォロ−の不足」といった、一般企業および授産施設、福祉作業所等の受け入れ側の不満に対して、真摯に耳を傾け具体的対応を行ってください。

 

 

V 本県の特別支援教育の目指す方向と望ましい仕組み

 

1.個々の児童生徒の個性(特性)(障害)を理解して、教育環境を可能な限り本人が許容できる(主体的に参加できる)よう整備し、そのために必要な支援を行ってください。自閉症児者にとって、本人を無理に環境に適応させることは耐えがたい苦痛となることもありえます。名目的な「インクルージョン」の推進を優先させて、子どもの教育上の権利や必要性を二の次にするようなことは、あってはならないことです。

2.すべての小中高等学校・特別支援学校において、自閉症などの障害を持つ児童・生徒に対する他の児童生徒からのいじめ、及び教職員による人権侵害、虐待、性的嫌がらせを予防するとともに、そのような事態が発生した場合には、毅然とした処置をとってください。

 

 

W 早期の教育相談体制の整備

 

1.発達障害者支援法第五条「児童の発達障害の早期発見等」、第六条「早期の発達支援」の条文に定められた各事項が県内各市町村の施策で実行されるよう、強力に指導してください。

2.障害児の保護者は障害の受容に苦しんでいることがあるので、不安感を増大させないよう、心情に配慮した適切な相談支援体制を取るように指導してください。

3.保護者が早期の障害受容のできない段階において、特別支援学校が直接の相談にあたる可能性は低いので、市町村保健センター、医療機関、子育て支援組織との日常的な連絡支援体制を確立しておいてください。

4.「個別の教育支援計画」は、保護者側の協力がなければ策定できないので、相互の信頼関係の確立・双方の当該児童の障害に対する正しい認識と、保護者の願いを汲み取る必要があります。単なる「書式の指導」であってはならない、腰をすえた支援指導が出来るような体制を作ってください。

5.就学相談についてはこのたび成立した「障害のある人もない人も共に暮らしやすい千葉県づくり条例」の趣旨を理解し、実現するよう自治体教育委員会へ指導してください。

 

 

X 小中学校における特別支援教育の整備充実

 

1.一人ひとりの教育的ニ−ズに対応できるよう、学級定員の大幅な削減もしくは教員の加配を行ってください。

2.必要に応じて介助員を付けられるよう、各市町村に強く働きかけてください。

3.高機能自閉症やアスペルガ−症候群の診断及び療育支援のできる専門家と教育現場が、密接な連絡が取れるよう体制を整えてください。この要望を実現するためにも、自閉症をはじめとする発達障害に関わる医師及び専門家の養成の必要性を教育の側からも訴えてください。

4.市町村、健康福祉センタ−、児童相談所、医療機関(県立病院、中核病院など)が連携し、自閉症及び発達障害を専門とする医師を頂点とする自閉症早期診断システムを構築してください。特に県立子ども病院には高機能自閉症、アスペルガー症候群を含む自閉症及び発達障害に詳しい医師を増員するよう教育の側から働きかけてください。

5.検診の場に置いて親の訴えを聞き、要望があれば経過観察や療育につなげられるシステムを構築してください。高機能系の子どもは、発達もアンバランスなため、親が「育てにくさ」に気がついて相談しても、「もっとスキンシップを」とか「おかあさんの動揺が子どもに伝わるからあまり心配ばかりしないで」と言われてしまうケースが多いときいております。

6.特別支援教室設置支援においては、特別支援学級(固定級)も維持した上で行ってください。

7.高機能自閉症、アスペルガー症候群を含む自閉症を持つ児童生徒が、障害に特化した教育を受ける場を保障するために、全ての公立の小中学校に情緒障害特別支援学級を設置する努力をしてください。保護者の要望があれば「自閉症学級」を開設してください。

8.自閉症児が「放課後児童健全育成事業」を円滑に利用できるよう市町村を指導してください。特に高機能自閉症、アスペルガー症候群の児童は障害者自立支援法の対象外のことが多いので、通常の学童保育を利用しなければなりません。

9.高機能自閉症、アスペルガー症候群の児童への対応に苦慮している学童保育所も多いと思うので、学童保育所も巡回指導の対象にしてください。

10.本計画案には不登校児童生徒への支援について言及されておりません。発達障害を持つ児童生徒の不登校の問題について、具体的支援策を検討してください。

 

 

Y 今後の特別支援学校の新たな機能の構築

 

1.特別支援学校の教室不足と遠距離通学の問題を解決するために、特別支援学校の分校化、分教室化を実現してください。

2.特別支援学校の分校化、分教室化は、障害がある児童生徒一人ひとりが、自分の住んでいる地域で障害に応じた適切な指導と必要な支援を受ける権利を確保するために必要であることを理解してください。

3.特別支援学校における教育機能の付加は、必ず、十分な人的資源増強を行うことを前提に実行してください。

4.教育部門と教育機能を併せ持つ、幼稚部、小学部、中学部、高等部を一貫させた全県型自閉症特別支援学校を設置してください。

5.すべての地域拠点型特別支援学校においても、自閉症に対応した教育部門と教育機能を設置してください。

6.すべての地域型特別支援学校に自閉症に対応した教育部門を設置してください。

7.特別支援学校における専門性の高い自閉症教育に必要な環境確保のために、言語聴覚士や作業療法士、心理士等専門家の学校現場への導入と、構造化された施設整備の推進を行ってください。

 

 

Z 学校と教員の専門性の維持向上

 

1.特別支援教育コ−ディネ−タ−の資格について、自閉症をはじめとする発達障害についての研修を受けた上に、特別支援学校と普通学校双方での指導経験があることが望ましいと思われます。

2.教員の研修に当たっては自閉症児者の地域生活に必要な教育のあり方、医療・福祉・労働等の分野との連携、人権についての研鑽を深めるよう指導してください。

3.上記の研修効果を上げるために、自閉症に対する指導方法の体系化を確立し教員が事例研究も含めた実践的な指導方法を学べる「体験」による研修等を行ってください。

4.小中学校や自治体教育委員会において教員を配置する立場にある担当者自身が、自閉症や発達障害への専門的知識を持つことが、教員の適切な配置と指導に必要であると認識してください。

 

 

[ 後期中等教育の充実と卒業後の自立支援

 

1.自閉症を持つ生徒の後期中等教育への選択肢を大幅に増やすため、県立高校においても普通科、職業科、芸術科を問わず「自閉症に特化した教育」を実現してください。

2.後期中等教育の期間は、一人ひとりの個別移行支援の進捗を勘案し、充分な就労への準備を整える目的のため、「専攻科」のような3年間以上の在学が可能となる制度を作ってください。

3.発達障害者支援法第十条「就労の支援」に基づき、自閉症を持つ人の就労に対する相談、フォロ−する体制を作り、就労を促進してください。

4.特別支援学校中等部・高等部や普通学校における特別支援教育では、就労施設等と連携を深め、一人ひとりの個別移行計画ならびに個別就労計画を作成してください。

5.民間企業における雇用拡大や職域の拡大を図るよう、学校と企業が連携して能力開発に取り組んでください。

6.ジョブコ−チと学校進路担当者が緊密に連携して、一般企業における就労支援を行ってください。

7.特別支援学校は、千葉県障害者就労支援キャリアセンタ−での教員の研修、同センタ−への教員の出向などの人事交流を行うことにより、学校における就労に向けた教育の専門性を高めてください。

8.引きこもり、ニートに対する就労支援の中に、高機能自閉症、アスペルガー症候群への対応について盛り込むよう教育の側からも働きかけてください。

 

 

 

 

\ 卒業後の豊かな生活や生涯学習の支援

 

1.自閉症児者が教育委員会管理施設を利用した際、担当者から不当な差別を受けたり、無理解な言動をされた経験があります。生涯学習支援以前の問題です。教育委員会全職員及び所轄施設を委託されている従事者に、障害に対する基本的な理解の研修を義務化してください。

2.生涯学習支援において、ボランティアを含む指導者が、参加した自閉症を持つ人が楽しみ理解できるような指導を行えるよう、支援してください。