平成16年  5

千葉県 教育長 清水 新次 様 

社団法人 日本自閉症協会 千葉県支部

支部長 大屋 滋

 

要 望 書

 

時下ますますご清祥の段、お慶び申し上げます。日頃より(社)日本自閉症協会千葉県支部(以下「千葉県支部」という。)の活動に様々なご助力ご指導いただき、感謝申し上げます。

 

また、教育庁に平成15年度より特別支援教育課の創設、強度行動障害支援事業など、私たちの要望に応える改革を行っていただいたことを深く感謝申し上げます

 

千葉県における自閉症児者を取り巻く社会環境は依然厳しいものがあります。さらに、長崎での幼児殺傷事件等のいくつかの事件において、加害者が自閉症もしくはアスペルガー症候群であるとの報告が報道された結果、自閉症児者に対する新たな差別が生じております。私どもは、自閉症児者が関与したとされる犯罪に対して深い悲しみと怒りを感じるとともに、千葉県における自閉症児者に対するよりいっそうの理解と支援を強く希望します。

 

私たちは、まず障害を持つ人が地域で活き活きと暮らすことが出来る街でなければ、全ての人々の幸せがありえないと考えます。いかなる障害を持った人でも、本人が選択した場で教育を受け、自分らしい生活をすることが、当然の権利であると確信しております。しかし、自閉症は、その教育や支援方法が圧倒的に困難であると考えられている障害です。身体障害などいくつかの障害に比べて、一般社会における自閉症に関するバリアフリーの試みはハード面、心理的な面を問わず極めて少なく、その必要性すらほとんど認識されていません。さらに千葉県内には、自分が自閉症という障害を持っていることを診断されずいる人が多数います。この人たちは受けるべき支援を受けていないだけでなく、本来配慮されるべきバリアフリーのための支援があることすら認められないまま、しばしば周囲の人から不適切な対応や不当な差別を受けています。千葉県には自閉症児者が住む場所、働く場所、楽しむ場所、相談する場所、移動する方法など地域生活を送る為の基本的な支援や、自閉症の特性に合わせた教育、いずれもが不十分であり、多くの自閉症児者にとって人間らしい生活をする為の環境がまだまだ整っていません。このような状況の下では、ともすればノーマライゼーションの理念が形式のみに陥る危険性をはらんでいます。一人ひとりが地域で活き活きと自分らしい生活をするという目的を真に達成するためには、自閉症を持つ人に対して個々の障害特性に応じた合理的な教育や、就労や生活などの支援が必要です。

 

  昨年(2003)3月に文部科学省から「今後の特別支援教育の在り方について(最終報告)」が出されました。その後2004130日に「小・中学校におけるLD(学習障害),ADHD(注意欠陥/多動性障害),高機能自閉症の児童生徒への教育支援体制の整備のためのガイドライン(試案)の公表について」が出されました。

 

その基本的方向と取り組みには、『障害の程度等に応じ特別の場で指導を行う「特殊教育」から障害のある児童生徒一人一人の教育的ニーズ に応じて適切な教育的支援を行う「特別支援教育」への転換を図る』ということが言われています。これは私たち保護者にとって、障害児教育の大きな転換であると受け止めています。

 

自閉症を持つ人は、コミュニケーションと社会性に顕著な障害を抱えていることから、家族にとっても、彼らと接し、育てていくことは 、通常では考えられないほど大きな困難が伴っています。私たちは、すべての学校教育に携わる方々による「正しい理解と支援」を得ることが、成人した時の豊かな社会生活につながる重要な役割を持っていると認識しています。

 

なお、この要望事項は、20038月に会員に対しておこなった「特別支援教育についてのアンケート

調査」の結果に基づき取りまとめたものです。私たち保護者の「生の声」です。本要望を関係部局、関係出先機関及び関係審議会にご配布されるとともに、広く関係者の方々にご検討いただけますよう配慮方お願い申し上げます

 

1.             (個別教育計画(IEP)に基づく指導)


自閉症を持つ子どもが通う全ての学校で、自閉症を持つ子ども一人ひとりのためにきめ細かく、かつ一

貫した教育システムを構築してください。方法として、個別教育計画(IEP)を作成し、それに基づい

た指導を行うことを義務づけるよう指導してください。

また、卒業後の社会参加へ向けた移行計画(ITP)も含め学齢初期から社会人に至るまで一貫した教育

指導体制を確立して下さい。

(1)                  特殊学級教員を対象に個別教育計画(IEP)の作成と実践のための研修を行ってください。

 

<回答> (指導課)

・特殊学級を初めて担任した教員を対象に研修を行っている。

・幼・小・中・盲聾養護学校の教員・寄宿舎指導員等に対しては「自立活動実技研修指導」の中で、作成の研修を行っている。

 

(2)  一貫した教育システムを構築し継続的な支援を行うためにも、指導記録の書式を統一して、転校時や進学時に次の学校での指導に生かすようにして下さい。

 

<回答> (特別支援教育課)

・平成133月「個別支援計画の手引き」を作成、配布。活用を図っている。

 

2.             (教育現場における専門性の向上)

 

自閉症を持つ子どもが通う全ての学校で、教職員、管理職員ならびに介助員に対して、自閉症児教育の専門性を高めるための研修制度を確立して下さい。

(1)            教育職員の障害理解の促進のため、研修の義務化を推進してください。

 

<回答> (指導課)

・総合教育センターでは、新任管理職等の研修で取り上げている。

・幼・小・中・高・盲聾養護学校教員・寄宿舎指導員等への研修において自閉症のプログラムである、TEACCHプログラムや太田ステージなどを取り上げている。

 

(2) 普通学級教員を対象に高機能自閉症やアスペルガー症候群(LDADHD等の自閉症スペクトラムを含む)の障害理解・対応方法に関する研修を行ってください。

 

<回答> (指導課)

・幼・小・中・高・盲聾養護学校教員・寄宿舎指導員等を対象に研修を行っている。

・要請に応じて、校内研修会へ講師を派遣している。

 

(3)  市町村小中学校において「障害理解と啓発の推進」のための校内研修会を各校で行うように管理職

員に指導して下さい。

 

<回答> (特別支援教育課)

・平成15315日に各市町村を通じて通知済みである。

・特別支援コーディネーターの校務分掌への位置づけを通達

・特別支援コーディネーターの養成

 

(4)  高機能自閉症とアスペルガー症の診断・療育支援ができる専門家を養成して下さい。

 

<回答> (特別支援教育課)

・「診断、療育支援」に関しては県教育委員会の所轄外である。

 

3.             (外部機関との連携)

 

自閉症の子ども達の教育支援を充実させるために、外部専門家であるCAS及び医療機関等の療育機関及び教育研究所と積極的に連携を図り、状況に応じて外部専門家が教育の現場に介入できるような体制を整備して下さい。

 

(1)      研修に際しては、外部専門家であるCAS等を御活用いただけますようご検討下さい。

 

<回答> (指導課)

・総合教育センターで行う自閉症に関する研修では、県支部やCASと協力している。

 

(2)            国立特殊教育総合研究所、国立大学法人筑波大学附属久里浜養護学校及び研究実績の豊富な大学等の外部機関の専門家をスーパーバイザーとして教育現場への関与を義務付けて下さい。

 

<回答> (特別支援教育課)

・本年度から、コーディネーター研修等に外部機関から専門家を招へいしている。

 

(3)            障害の判断・根拠・教育内容・配慮事項・教育形態・留意事項等を分担する専門家の一員(構成メンバー)に、千葉県支部を含めて下さい。

 

<回答> (特別支援教育課)

・障害の判断・根拠・教育の内容・配慮事項・教育形態・留意事項等を分担する専門家の組織をどのような形で設置するかについては、現在文部科学省の「特別支援教育推進体制モデル事業」で検討中です。

 

4.             (個に応じた教育の充実)

 

実績を挙げている教育方法(TEACCH(ティーチ)プログラム、認知発達・太田ステージ、応用行動分析(ABA)など)を調査・検討して、子どもの障害に適した指導を行うよう指導してください。

また、児童生徒一人一人の教育的ニーズに対応するために、地域に存在する教育資源を最大限活用するよう努めてください。例えば小中学校における普通級、知的級、情緒級、言語級の相互交流級をより円滑化能動化するだけでなく、養護学校、医療機関、福祉施設などでの学習機会を常設化できるよう保障する環境を整備して下さい。多様な手段の存在を積極的に容認しなければ、一人一人のニーズへの対応は不可能であると思います。
 

(1)      選択したそれぞれの場において、充実した教育や支援が受けられるよう、施設・設備の整備を図るとともに専門性を身に付けた教職員を配置して下さい。

 

<回答>

・内容を吟味し、必要に応じて整備を図っている。(施設課)

・文部科学省「学校施設バリアフリー化推進指針」にもとづいて、整備するよう市町村にはたらきかけていきたい。(企画財務課)

・「熱意のある教員」を当てている。(教職員課)

・特殊教育の免許の無い教員には単位修得の講習会等を受講させ、免許を取得させている。

(教職員課)

 

(2)      養護学校と地域の小中学校の間で、児童生徒一人一人の教育的ニーズに応じた専門学習の機会を保障するための通級(養護学校と小中学校)を制度化して下さい。

 

<回答> (特別支援教育課)

・現在聾学校でのみ実施している。

・養護学校等については教員の配置等、受け入れのため法制度を整備する必要がある。

・県教育庁の「ノーマライゼーションの進展に対応した障害児教育検討会議」を参考に、国の動向を見ながら検討していきたい。

 

5.             (教育現場の支援体制の確立)

 

 各校の特別支援教育をサポートするため,「発達障害専門のスクールカウンセラー」を設置の上、各小中学校に派遣して下さい。

(1)                   地域に1校、自閉症支援級を設置して下さい。(柔軟性のある特別支援級)

 

<回答> (教職員課)

・学級編制は本県の学級編制基準に基づき市町村がおこなうものである。

・市町村教育委員会の方針を尊重して対応していく。

 

(2)                   将来地域で就労できる能力を培う後期中等教育制度を充実させてください。高等養護学校の新設が困難な状況にあるのであれば、既存の県立高校、養護学校の中に職業自立を図る教育と、卒業後の就労ケアを中心にした自閉症児の職業教育・就労プログラムを導入する等工夫してください。また、そのプログラム導入においては、自閉症児の社会適応の困難性を十分に理解したスーパーバイザーの関与を義務付けてください。

 

<回答> (特別支援教育課)

・現在の養護学校の後期中等教育課程でも、就労に向けた教育活動を実施している。

・一人一人の能力に応じた就労支援に努めている。

・企業とのネットワークを拡げるべく、進路指導担当の教員が中心になり、実習先の確保や、その先の就労支援に努めている。

・県のキャリアセンターとの連携を図り、ジョブコーチの利用や、スーパーバイザーの関与も検討していく。

 

6.             (自閉症協会千葉県支部との連携)

 

(1)                   特別支援教育」に関して、教育委員会から積極的に千葉県支部へ情報を提供して下さい。

 

<回答> (特別支援教育課)

・県民、各機関との連携は大切にしていきたい。

 

(2)                   自閉症に関する各種施策を立案されるときは、私たち千葉県支部から直接ヒアリングして決定してください。自閉症や障害福祉、特別支援教育に関する審議会等に、千葉県支部会員を加えて下さい。

 

<回答> (特別支援教育課)

・これまでも自閉症協会の意見はお伺いしてきたので、今後とも連携していきたい。

・検討会議の説明については、検討する。

 

7.             (自閉症児者および家族の支援体制)

 

(1)                   自閉症を持つ子どもに対して、要望に応じて積極的に介助員や市町村独自のサポート教員を配置出来るよう指導して下さい。

 

<回答> (教職員課)

・各市町村の介助員などの配置に関して、県教育委員会が指導する事は現状では困難である。

 

(2)                   普通学級で学ぶ自閉症児のために、複数担任制(TTまたは担任補助)を採用して下さい。

 

<回答> (教職員課)

・国が担任等の配置標準を制定し配置人数を措置している。

・大幅な職員増を必要とすることから、現状では困難である。

 

(3)                   思春期の子どもに対して、必要に応じて同性教員(介助員を含む)による支援体制を確立して下さい。

 

<回答> (特別支援教育課)

・引き続き各学校の実情に応じて助言を続ける。

 

(4)                   子供が就学後に集団での不適応行動が顕在化し、相談・診断を受ける子どもと親に対して、心情面に配慮した支援体制を整えて下さい。

 

<回答> (特別支援教育課)

・平成163月、各小中学校に「指導の手引きQ&A」を配布

・校内委員会の設置を通達

・コーディネーターの校務分掌への位置づけ

 

(5)                   すべての盲聾養護学校及びすべての小中高等学校において、自閉症などの障害を持つ生徒に対する教職員の人権侵害、虐待、性的嫌がらせを予防するともに、そのような事態が生じた場合には、毅然とした処置を執って下さい。

 

<回答> (教職員課)

・平成162月、不祥事防止リーフレットを改訂して配布し、研修を実施するよう指導し、研修報告書の提出を求めている。

・不祥事が起きた場合厳正な対応をしている。

 

(6)                   自閉症を持つ子どものため、学校、家庭に続く第3の活動の場として、障害児放課後活動を支援して下さい。

 

 

<回答> (生涯学習課)

・県では「子どもの居場所作り新プラン」として、県内35の市町村で、学校や公民館などを利用した「地域子ども教室」を推進している。

 

(7)                   自閉症児が地域の学校に通う権利を保証するとともに,教員や学友、PTA、隣人などから、障害を持ち、問題を起こしそうな子どものあぶり出しや排斥が起こらないよう本人や家族を守ってください。

 

<回答> (特別支援教育課)

・広報紙「夢気球」でLD,ADHD,高機能自閉症の特集記事を掲載し、県民の理解と啓発を図っている。

・県のホームページでは、相談窓口を公開している。

 

(8)                   学校と家庭の関係を繋げるためにも、定期的に専門の教員やスクールカウンセラーが家庭訪問するなどの配慮をするよう市町村を指導して下さい。

 

<回答> (指導課)

・平成17年度から県内全ての中学校にスクールカウンセラーを配置

・小学生も、学区の中学校に来室すれば相談が受けられる体制になっている。

 

8.             (学校{教育機関{教育委員会も含む} に対する第3者機関による評価体制構築)


 特別支援が必要な子どもに対して適切な教育システムが適切に遂行されているか否かを、第三者機関が評価、監視するシステムを構築して下さい。

 

<回答> (教職員課)

・外部評価については、学校評議員制度の活用も視野に入れている。

 

(参考資料)

 

2004. 7. 5 「要望書」提出  参加者  大屋・白水・坂本・菊池・吉川・井原

               県    荒木田課長・加藤主幹・井口主任指導主事

(特別支援教育課)

 

2004.11. 9 「回 答」    参加者  大屋・竹蓋・菊池・富永・井原

県    池田・釜井(企画財務課)

吉野(施設課)

石井(生涯学習課)

川名(指導課)

井口・中川(特別支援教育課)

金子・岡田(教職員課)

石田・酒井(総務課・司会)

 

2004.11.26 「最終整理」  千葉県教育庁各課確認済(酒井氏よりFAX) 井原(受)