2004年3月14日

 

関係者各位

 

TBSテレビ報道特集「自閉症の原因は水銀?」について

 

afd水銀と自閉症に関する調査委員会

 大屋滋 矢崎史郎 岡田稔久 木村隆 山川孔 工藤泉 竹元伸之 久保田潔 石川清隆
 古賀義孝 田中恭子 高木佐知子 井上かんな 
小澤武司 川谷正男 平木則子 市川宏伸

 

 私たちは、自閉症児者を家族に持つ医師・歯科医師の会(autism-family-doctor:afd)のメンバーです。

 

 3月7日にTBS系列で報道特集「自閉症の原因は水銀?」が放送されました。

この番組では学術的に不確実な情報が、誤解を招きやすい形で報道されていました。そのため放送終了後から自閉症児者を抱えるご家族の間で大変な混乱が起きています。私どもafdではこの事態を重くみて、緊急に『afd水銀と自閉症に関する調査委員会』を立ち上げました。医師・歯科医師であり、同時に自閉症児者を抱える家族でもある両面の立場から見解をまとめましたのでここに提言させて戴きます。

 

 今回の放送は『自閉症の原因は水銀であり、それはキレート治療によって治癒する』、という印象を強く与えるもので、番組編集、さらにキレート治療や自閉症の水銀原因説において次のような問題があると思われます。

 

1.       今回の番組編集について

24分間あった放送時間のうち、自閉症の説明などについて約5分間、残りのほとんどの時間はキレート治療の紹介及び有効性に関する内容であり、副作用についての説明はわずか約30秒ほどでした。さらに『水銀が自閉症の原因である』というような言葉をCMの直前直後に繰り返し使ったり、『キレート治療によって改善した』

というような言葉も数回にわたり使い、キレート剤投与を自閉症の治療として強く印象づける内容でした。

一般的に、幼児期〜学童期前半は適切な療育がなされれば特に伸びる時期です。番組では、発達クリニックでの検査場面やインタビューを部分的に組み込み、専門家の視点からみてもキレート治療の効果のみで伸びたと思わせる編集がなされているように感じられました。

 

2.       キレート「治療」について

放送されたキレート「治療」の効果については、これを実践している家族と推奨しているごく一部の学者による主観的評価であり、自閉症の治癒もしくは症状改善の評価基準はきわめて曖昧でした。

  仮に症状が改善したとしても、キレート剤投与による症状改善なのか、それとも個々の成長による症状改善なのか、似通った症状を持った自閉症児においてキレート剤を投与した群としなかった群での比較検討はなされたのかなど学術的・医学的な疑問が残ります。

  キレート剤投与は副作用が大きく、副作用を上回るほどの自閉症の症状改善効果が証明できない限り、治療ではなくまだ研究レベルであり、私たちはこれを推奨できません。

 

3.       自閉症の水銀原因説について

水銀が自閉症の原因であると断定する科学的根拠はありません。水銀と自閉症の関係を示唆する一部のデータがあるのは事実ですが、水銀と自閉症の関係を否定するデータが圧倒的です。たとえば水銀が自閉症発症の原因というのならば、水俣病などの水銀汚染地域において本人または次世代に自閉症児・者の数が突出するという疫学的データがあるはずですが、私どもが調べてみた限りそのようなデータはありませんでした。さらにイギリスやアメリカで行われた大規模な疫学調査の結果でも、チメロサール含有のワクチンを接種と、自閉症の発生率の間に関連はみられず、今のところチメロサール含有のワクチンが自閉症の原因であるとする仮説を支持する証拠はないのが現状です。これらの事実は、水銀と自閉症の関係を示唆する一部の研究結果は(a)偶然か、(b)調査方法に欠陥があったためか、(c)水銀との関係は「みかけ」上のもので真の原因は別にある、などによる可能性が高いことを示すものです。

 

私たちの知る限り、これまでも自閉症治療に関する様々な情報、特効薬の話題がありましたが、いずれも数年で下火になっています。将来、誰もが認める結論に行きつくかもしれませんが、なかなか難しいようです。いろいろな情報を横目に見ながら、焦らず、地道に療育に励むのが「急がば回れ」かもしれません。

 

テレビ、新聞などメディア関係者の皆様には、自閉症児者を抱える親や家族の立場や心情を十分に理解していただくと共に、より正確で客観性のある情報を、誤解の生じないような形で報道していただきますようお願いします。今回の報道特集でも、自閉症は親の育て方により生じるのではなく、何らかの原因による脳障害に起因する発達障害であることをしっかり説明をしている点では、評価出来ます。私たちは、自閉症児者の幸福に繋がるより良い報道がなされるために、可能な限り協力させていただく用意があります。

 

最近の参考文献

「関連無し」の文献です。

Madsen KM, Lauritsen MB, Pedersen CB, Thorsen P, Plesner AM, Andersen
PH,Mortensen PB.
Thimerosal and the occurrence of autism: negative ecological evidence from
Danish population-based data.
Pediatrics. 2003 Sep;112(3 Pt 1):604-6.

Verstraeten T, Davis RL, DeStefano F, Lieu TA, Rhodes PH, Black SB,
Shinefield H,Chen RT; Vaccine Safety Datalink Team.
Safety of thimerosal-containing vaccines: a two-phased study of computerized
health maintenance organization databases.
Pediatrics. 2003 Nov;112(5):1039-48.
Erratum in: Pediatrics. 2004 Jan;113(1):184.

Stehr-Green P, Tull P, Stellfeld M, Mortenson PB, Simpson D.
Autism and thimerosal-containing vaccines: lack of consistent evidence for
an association.
Am J Prev Med. 2003 Aug;25(2):101-6.

「関連あり」の文献です。
Geier DA, Geier MR.
A comparative evaluation of the effects of MMR immunization and mercury
doses from thimerosal-containing childhood vaccines on the population
prevalence of autism.
Med Sci Monit. 2004 Mar;10(3):PI33-9. Epub 2004 Mar 01.


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