2001.3.3 up

自閉症者たちと共に生きるために

東京福祉専門学校 社会福祉科 3年  2000年度卒業研究

和泉典孝 江口哲人 相川直樹  渡辺貴史 内藤麻沙子

(指導教官 中村 克子)

 

1.はじめに

 最近では映画やテレビなどで自閉症が話題になることが多いようです。
 実際,自閉症者は1,000人に1人から2人の割合で存在すると言われています。
 そう考えると自閉症者に出会う機会は多いと考えられます。
 では自閉症の正しい知識を持っている人が多いかと言うとそうではありません。
 むしろ少ないのが現状です。それは一般の方々が自閉症がどういうものかわからなく,同時に親御さんの苦労というものを分からないからではないでしょうか。
 その為に誤解や偏見が生じると考えられます。

 そこで実際に自閉症者を持つ親御さんの声と一般の方々の理解と認識を得ることを目的として,このテーマに取り組もうと思いました。

 


 

2.仮  説

 街で一見すると不思議な行動をする人がいても,自閉症という障害が分からないため自閉症者やその家族を傷つけでしまうことが多くあるように思います。
 だから正しい知識を身につけ,心のバリアフリーを実現することが必要であると思います。

 


 

 3.研究方法

(1) 自閉症者の親へのヒアリング

日本自閉症協会千葉県支部の中学生から成人までの自閉症児・者を持つ親御さん22名へのヒアリング

(2) 一般の方々へのアンケート

船橋・千葉・横浜周辺の男女20代から50代の方々134名へのアンケート

(3) 情報の収集

自閉症を把握するために情報として自閉症の専門家の方の意見,インターネット,ホームページ及び文献の調査をしました

 


 

4.研究結果

(1)自閉症の特徴

 自閉症の特徴ですが一般には対人関係や社会性の障害,コミュニケーション障害,興味の範囲が狭い,理由不明と思われるかんしゃく,危険が分からない,こだわりが強いなどがあります。
 またわずかな環境の変化にも対応できず大変な苦痛を感じることもあります。こう言ったことから家族にとって自閉症者と接して行くことは通常では考えられないほどの大きな困難が伴っています。

 


 

(2)アンケート結果

A.保護者意見 「社会との関りの中で特に困ったこと」

まず,親へのヒアリングの結果ですが「社会との関わりの中で困ったことは?」という質問に対して,

兄弟の友人や,主人の会社の知人を家には招待する事が少なかった。
困った事はないが本人の姉弟には同じ小学校内で辛い思いをさせた。
言語がないので奇声を発しまわりの人を驚かせてしまった。
祖父母が高齢者の為介護のお手伝いをする時非常に苦労した。
母親が病気の時は学校に送迎できないので欠席し,子供がいれば私は家にいても休めなかった。普段からついつい無理してしまった。
落ち着きがなく声も出したりするので,結婚式や葬儀が一番の悩みであった。
親戚等に何事があっても連れて行けない場面があり不義をしたり,預かってくれる場所を探し四苦八苦し,家や公園で大声を出して警察に通報された。
家族は本人の障害を受け入れるが,社会の理解がないのが一番辛かった。

 しかしこの結果を見て,あることに気付きました。それは自閉症者の行為ではなく親自身の困ったことが大半であるということです。自閉症者の行為ばかりに目をとらわれず「親の苦労」もわかって欲しいと言うことが親御さんの願うことなのです。

 ところがなかなか周囲の人からは理解されず,ひいては一般社会からも理解されなくなってしまうのです。

 しかし,社会の理解が得られ何らかの援助が出来れば解決できることだと思います。

 


 

B.街角調査

 続いて一般の方々へのアンケートです。ここでは,一般の方々に対して行った質問のうち,特徴的な回答を得た3つの質問について説明いたします。

 


 

B1.街角調査1 「自閉症を知っていますか?」

 「自閉症を知っていますか?」という質問に対して,「知っている」と答えた方は50%,「名前は聴いたことがある」と答えた方は46%,合計96%もいました。これによると「自閉症」という言葉自体はほとんどの方が知っていると言えます。


 


 

 そこで,「自閉症を知っている」と答えた方に「自閉症はどういう障害ですか?」と尋ねてみました。

B2. 街角調査2 「自閉症はどういう障害ですか?」

 「自閉症を知っている」と答えた人であっても,「コミュニケーション障害」や「こだわり」と言った自閉症の特徴を表わす解答をした方が必ずしも多くいるわけではありません。
 さらに,「自分の殻に閉じこもる」や「精神障害」といった,明らかに誤った意見も多かったのも事実です。

 この結果から,「自閉症を知っている」と回答した人であっても,多数の人が実はほとんど自閉症のことを正確に知っていない,人によってはとんでもない誤解をしているということが知られました。

 自閉症は「自分の殻に閉じこもる病気」でも「精神障害」でもありません。

 これにより一般の方々は「自閉症」という言葉のニュアンスから間違ったイメージを持っていることが想像されます。

 


 

B3.街角調査3 「自閉症になる理由は?」

 さらに,「自閉症を知っている」と答えた人,「名前を聞いたことがある」と答えた人双方に,「自閉症になる理由」を尋ねてみました。

 

 「自閉症を知っている」と答えた人においても,2割前後の人が「家庭環境の悪化」や「いじめ」といった誤った認識をもっていることが知られました。「自閉症の名前だけ知っている」と答えた人では,自閉症に対するイメージは「家庭環境の悪化」や「いじめ」が最も多いことも知られました。「自閉症」という名称による影響が無視できません。

 こう言った誤った知識が自閉症者やその親御さんを傷つけているのです。

 今日では誤った知識を無くすために,専門家の講演や親同士の意見交換,親の会などのシンポジウム等が各地で行われています。

 しかし,それでも一般の方々の理解度は低いままである事が知られました。それはやはり一般の方々のこうした会合への参加や理解が少ないからであると思います。

 


 

B4.街角調査のまとめ

街角調査をまとめてみると,

●自閉症という言葉は知っていても正確に理解している方は少ない。

●たくさんの人が「自分の殻に閉じこもる」と思っている方も多い。

●自閉症者と接する機会がない。

●自分から接するのは面倒くさい。

●自分の仕事が忙しくて関係ないと思っている。

という結果になりました。

これにより自閉症はいかに誤解されているかと言う事が明らかになりました。

 


 

5.まとめ

 では,自閉症だけ特に知らなかったり誤解している方が多いのかと言うとそうではありません。世の中には様々な障害や病気を持った人がいます。
 私達はそういった人達と一緒に生活しています。自閉症の研究を通じて明らかになった一般の方々の「障害」に対する誤解や偏見は障害者すべてに対してのものである事を知っておくべきです。また,社会においては誰もが平等であって障害を持っている事も決して特別な事ではなく,ごく普通の事だと言うことも知っておくべきです。
 誤解や偏見を軽減するためにはこの考え方をいかに一般の方々が受け入れ実践するかにかかってくると思います。そして自閉症者への配慮として次の事を提案します。

 

 

 提案 自閉症者たちと共に生きるために

1)自閉症への正しい知識を理解し広めるよう努めてください。
  例えばこういった枝折りを造り公共施設においてください

2)テレビや映画などで正しい自閉症を伝えてもらえれば良いとおもいます。

3)「自閉症」という言葉は誤解を与えてしまいます。誤解を招かないような名前に変えられればよいと思います。

 

 


 

 自閉症者に出会ったら次のように接してください。

●おかしな事をしたり,言っても笑ったり,指差したりジロジロ見ないで下さい
● 社会的ルールに従わないときは「お金を持って買いに行きなさい」「列に並んで待ちなさい」とか,はっきり具体的に教えてあげて下さい。抽象的な言葉では伝わりません。
●話し掛けてきたら,聞いてあげてください。
●困っている様子が見えたら放っておかないで声をかけて手伝ってやって下さい。

 1人1人の理解が多数の理解に繋がります。とにかく毅然とした態度,そして温かい目で接してあげてください。そうする事が自閉症者達と共に生きるための第一歩になってくれればと私達は願います。