ドラマの書庫−『チープ・ラブ』 21:00〜(TBS)


キャスト、脚本家紹介

キャスト

柳瀬純一(反町隆史)
琴塚七海(鶴田真由)
真鍋克明(沢村一樹)
青山樹理(黒坂真美)

脚本

林誠人

あらすじ

 キャバクラのスカウトマン純一(反町隆史)と、私立中学で音楽教師を務める七海(鶴田真由)。二人の出会いはチープな始まりだが、そこからラブストーリー紡ぎ出される・・・。チープな出会いから恋愛へと発展する、ドラマにありがちな非現実的なラブストーリーを、現実的(?)に捉えた作品。

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第1話(1999/10/15)

あらすじ

 柳瀬純一(反町隆史)は風俗のスカウトマン。弟分の加賀屋良(吉沢悠)とはいいコンビだ。ある日、良は29歳の音楽教師琴塚七海(鶴田真由)に声をかけた。純一は七海の歳が高すぎると良を叱るが、それを聞いていた七海は憤慨する。

 七海は、平凡な自分の人生に倦んでいた。自作の曲で海外の音大に留学するのが夢だが、恩師には年齢的に無理だと言われてしまう。結局、両親が薦める見合いをすることになっていたのだ。その夜、七海は牛丼屋で純一と再会し、パチスロのコインをもらった。

 翌朝、純一たちはスカウトした青山樹里(黒坂真美)が給料を前借りしたまま逃げ出したことを知る。なんとか樹里を捕まえた二人だが、すでに樹里は男に騙され金を巻き上げられていた。ヘルスの前で泣き崩れる彼女を見て、二人は彼女を逃がしてしまう。

 ヘルスの店員に袋叩きにされる純一。傷だらけの彼の前に偶然あらわれた七海は、自作の曲を聴いてほしいと頼む。演奏後、彼女は純一に「抱いて」と頼むのだった。

寸評

 最初の出会いは風俗のスカウト。男は女に「彼女は歳を取りすぎている」と酷評したことを聞かれてしまう・・・。

 番組のキャチフレーズにしたがえば、確かに「二人の出会いは最悪」だ。だけど、TBSさんには悪いが、商売柄モニターした今秋の新番組の中では、ずっと真っ当な出会いと言える。少なくとも、砂漠で恋人を轢いた轢かれたの騒ぎはないし、「ひょっとして保険金殺人しませんでした?」という不躾もない。「鶴田さん老けてるね」ぐらいじゃ、フジと比べると紳士的すぎると言わざるを得ないだろう。

 この控え目さが『チープ・ラブ』というタイトルの由縁なのかどうか不明だ。確かにこのタイトルは開き直りにも聞こえる。実際、チープな作りだと思う。だけど、誤解しないで欲しい。私はこれは結構いい作品だと思うのだ。

 適度に御都合主義を利用しながらテンポよくドラマは展開する。反町君演ずるスカウトマンは、らしくないファッションで飛び回る。おかげで彼には矢沢の永ちゃんのようなカリスマすら感じる。

 お嬢様・鶴田真由もいい感じだ。わざとらしいセリフで彼女は自分を過不足なく説明するが、不思議と不自然じゃない。多分、沢村一樹演じる区役所エリートの真鍋(わが研究会の今廣そっくり!)を振っちゃうんだろうが、その展開すら納得できる。

 意外な濡れ場で終わったのに、このドラマはコミカルで純粋に楽しめた。ドロドロした作品が多い秋の連ドラの中で、結構人気を集めるのではないか?と期待するのである。

執筆者

伊佐(isa_s@anet.ne.jp

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第2話(1999/10/22)

あらすじ

 純一(反町隆史)が目覚めたのは七海(鶴田真由)の部屋だった。朝食の席でも舞い上がるが、七海の「忘れて欲しい」の一言に憮然とする。

 出勤した純一に、上司の赤羽(内藤剛志)がヘルスの騒動で100万円を請求してきた。純一は、返済のために再び弟分の良(吉沢悠)と街に繰り出すのだった。一方、樹里(黒坂真美)もキャバクラで働きはじめた。彼女は純一たちのアパートにも押しかけてくる。

そのころ、七海は見合い相手の真鍋(沢村一樹)と交際し始めていた。真鍋は実直だが退屈な男である。ある日、七海はスカウト中の純一に出会う。退屈な人生を変えたくてあなたに抱かれたと告げる七海に純一は「俺は退屈しのぎの道具じゃない」と怒鳴った。

借金の返済期限がせまる。純一と良は自分たちでビデオを撮影することになる。純一は七海を部屋に呼びつけ、良が七海に襲いかかった。必死に抵抗する七海を見て、純一はカメラを投げ捨てる。彼は、雨の中泣きじゃくる七海を送り帰すのだった。

寸評

 まず同僚の名誉挽回から。先週、七海の見合い相手・真鍋がドラ研の今廣に似ている旨を書いたが、友人として付け加える。今廣は真鍋氏よりもいい男である。ただ、今廣もヤコブソンの記号論あたりを論じる癖があり、やっぱり似ている。

さて、先週は深窓の令嬢が、唐突にスカウトマンを誘惑する衝撃的な展開だったが、今週は比較的リアルな筋の運びだった。ドラマ全体としてもいい感じの仕上がりになっている。それに、ヒロインの行動は動機も含めて共感できなかったが、ちゃんと反町君が叱ってくれた。溜飲の思いである。

それにしても、このドラマはスカウトマンという知られざる職業への好奇心も満足させてくれる。テレビ局は、非凡な職業人を主人公としたドラマをもっと創って欲しい。公安調査庁の調査官・空自の情報将校・海底油田の採掘技術者などなど・・・。

 ただ、『チープ・ラブ』において筆者が最も驚いたのはヒロイン・七海についてである。私立中学の音楽教諭というのは、なんて優雅な生活なんだろう!

執筆者

伊佐(isa_s@anet.ne.jp

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第3話(1999/10/29)

あらすじ

 借金の期限が明日にせまり、純一(反町隆史)と良(吉沢悠)は、なんとか金を作ろうとしていた。そこで、樹里(黒坂真美)も入れて三人で競馬場へ出かけていく。すると、良が買った馬券が大穴を当てた。ちょうどその時、七海(鶴田真由)も交際相手の真鍋(沢村一樹)と競馬を見物していた。真鍋はギャンブルは嫌いだが、サラブレットが走るのを見るのが好きなのだ。

 払い戻し窓口で偶然にも七海を見つける純一。七海は何となく真鍋の存在を言い出しにくく、「友達ときた」と嘘をつく。純一は一方的に彼女を食事に誘った。だが、その後、純一と良は勝算のない馬券に賭け、オケラになってしまう。その上、待ち合わせ場所に七海は現れなかった。

 樹里は、純一が七海に声をかけている現場を見ていた。良から七海の事を聞き出した樹里は、七海の中学まで押し掛け、「純一の前に現れるな」と言い渡す。

 とうとう、借金の取り立て人が純一たちのアパートにもやってきた。良は人質として拉致されてしまう。金策に走り回る純一だが、まったく当てがない。その時、樹里の話から純一たちが借金を抱えていることを察知した七海が現れ、借金を清算した。

 釈放された良から、事情を知った純一は、七海のアパートへ行くが、彼女はいない。その時、彼女は実家で両親や真鍋と過ごしていた。父(井川比佐志)から、真鍋との結婚を楽しみにしていると聞かされる七海。帰りのタクシーで真鍋は七海にプロポーズした。

ドアの前で彼女を待っていた純一は、手書きの借用書を渡した。ふと、七海は「競馬場での約束を果たして」と頼む。牛丼屋で楽しいひとときを過ごす二人。その帰り道、純一も七海への愛を告白し、七海の唇を奪うのだった。

寸評

 今回、七海の両親である井川と高林由紀子演じる琴塚夫婦が登場した。そして、この夫婦と沢村演じる真鍋が一同に会し、典型的な家庭団欒のシーンが演じられた。それは、今までこの作品を貫いてきた数々のシーン―風俗業界・反町たちのアパートなど―と鮮やかなコントラストを見せた。

 そして、そのコントラストはこの恋愛ドラマの主題であろうヒロインの葛藤も象徴している。つまり堅実だが退屈な真鍋か、不良だが魅力的な純一か、の選択だ。

 真鍋氏はカリカチュアされすぎているが(少なくとも今のところ)善人である。しかも、大半の視聴者は、彼のような価値観で人生を送ってきたのではないだろうか?つまり、彼は視聴者の共感を得やすいキャラクターだと考えられる。しかし、同時に純一が非常に魅力的なキャラクターであるということも否定できない。

 今回鮮やかに映し出されたコントラストは、今後のヒロインの葛藤を、よりリアルに見せてくれるだろう。この作品は、決してチープな作りではないようだ。

執筆者

伊佐(isa_s@anet.ne.jp

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第4話(1999/11/05)

あらすじ

 七海(鶴田真由)とのキスで舞い上がって帰宅した純一(反町隆史)を待っていたのは酔って大荒れの樹里(黒坂真美)と彼女にいじめられている良(吉沢悠)だった。樹里は純一に迫るが、彼は取り合わない。酔いつぶれた樹里と良を裸にし、一緒にベッドに押し込んで、純一は出勤する。そして、その日のスカウトは絶好調の成績をおさめるのだった。

 そのころ、七海は中学校で婚約者の真鍋(沢村一樹)と純一の問題で悩んでいた。同僚のあゆみ(茂森あゆみ)が七海の様子に気がついて声をかける。一緒に校門を出た二人の前に、純一と良が現れた。結局4人でレストランに出かけることになる。

 食事中、無邪気にスカウトマンの実態を喋る良。純一はそんな彼の口を封じようと、躍起になる。それでも、食事は和やかに進んでいた。だが、二人でトイレに立ったとき、あゆみは七海に「婚約していること教えなよ」と忠告する。それを良は聞いていた。

 食事後、4人は2組に別れて帰ることになった。良は七海の婚約の事を純一に告げるチャンスもなくあゆみと出発することになる。七海も嬉しそうな純一の様子に婚約中だと言いだせない。そして、純一は七海に愛を告白するのだった。

 翌日、良は昨夜聞いた七海の婚約を純一に教えるかどうか樹里に相談した。二人は、純一を傷つけないために、真相を黙っておく事にする。帰宅した良を待っていたのは、七海に贈る貝のランプを作っている純一だった。結局、良は本当の事を教えられない。だが、翌朝、樹里が喋ってしまう。

 その晩、七海は真鍋と食事していた。結婚の話が具体的に進められていく。帰り道、七海のアパートの前で真鍋は七海にキスをした。そんな二人を純一が見ていた。アパートの入り口で七海に見つかる純一。彼はそのまま立ち去るのだった。

 傷心の純一は、池袋の街で喧嘩をし、袋叩きに遭う。そんな彼の様子をキャバクラの上司の赤羽(内藤剛志)が見ていた。とうとうへばってしまった純一の前に現れて、暴漢たちをなだめる赤羽。純一に、七海をあきらめて仕事に本腰を入れなよ、と忠告する。

 そのころ、七海はアパートから消えた純一を追って、純一たちの部屋を訪ねていた。そこで、良は純一を傷つけないためにも、二度と彼の前に現れないで欲しい、と頼む。帰ってきた樹里も七海を殴り、消えろ、と命令する。

 だが、七海はビルの前で純一を待っていた。「あんたの気持ちを考えていなかった。ごめんよ」と一方的に恋の終わりを宣言する純一。だが、七海も「あなたを好きになってごめんなさい」と純一への恋を告白する。だが、純一は毅然と七海を拒むのであった。

寸評

 今回特に印象的だったのは、オープニングシーンだった。いつものパターンだが、今回のオープニングは特にコミカルだった。特に黒坂と吉沢の二人がいい感じを出している。

 このドラマの主軸は、もちろん反町と鶴田の恋模様なのだが、スカウトマンコンビの、兄弟のような友情も見所らしい。実際、脚本段階から重視されている要素だ。だから、このようなコミカルなシーンも軽視できないというわけである。

 それから、細かいことだが、例の反町たちの部屋が今回のオープニングシーンだけ、いつもより明るく採光されて撮影されていた。ちょっとした演出だが、それが反町演じる主人公のハイテンションを見事に表している。

 このドラマは全体的にしっかりした作りだと思う。実際に、先週の視聴率もドラマ部門の上位につけている。

 だが、欠点もある。茂森あゆみ演じる七海の同僚・あゆみだけは、どうしてもしっくりいかない。今までも、彼女は七海の心境を説明する狂言まわしの役割だったのだが、今回初めて重要な役割を果たした。だが、セリフは不自然だし、演技も全体の流れとなじまない。端役に違いないが、作品全体が上質なだけに、彼女の存在は玉の傷になりかねないように思う。

 彼女の他に、今回初めて重要な役割を果たしたキャラクターがいる。反町の上司役である内藤剛志演じる赤羽だ。今までも。キャバクラの管理職として独特の雰囲気を出していたが、今回は裏社会の大物としての貫禄を巧みに演じていた。個人的には彼の存在が大いに気になるのである。

執筆者

伊佐(isa_s@anet.ne.jp

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第5話(1999/11/12)

あらすじ

 深夜の街。純一(反町隆史)が自転車を運んでいる。その頃、純一たちのアパートでは良(吉沢悠)と樹里(黒坂真美)が帰ってこない純一を心配していた。何しろ、純一は失恋による痛手をこうむっている。自殺説を唱える樹里に、良は喧嘩で人を殺してしまうシナリオを主張する。そこへ傷だらけの純一が帰ってきた。

 「殺してきた」とつぶやく純一に、焦る二人。「始末手伝え」と純一は盗んできた自転車で二人を明け方の海岸に連れていく。そこで、七海(鶴田真由)のために作った貝のオブジェクトを流すのだ。それは、七海への恋を殺した純一のけじめの儀式だったのだ。

 そのころ、七海は真鍋(沢村一樹)との結婚の準備を進めていた。だが、どうしても集中できない。下見の帰り道、七海は偶然スカウト中の純一を見つけた。彼を見つめる七海の様子に気付いた父親・琴塚豊彦(井川比佐志)は心配する。

 豊彦は七海の部屋の前にいた純一を覚えていた。そこで、思い切って純一と話し合ってみることにする。「あの子は私に取って宝なんだ」と言う豊彦の訴えを純一は神妙に聞き「あの女は金になると思ったから声をかけただけです」と答える。偽悪的な純一の言葉に、豊彦は彼を殴り倒した。そして、豊彦は七海とも話し合った。私は平凡な幸福を送ってもらいたいんだ、と豊彦は娘に語る。そして、純一と会見したことも明かした。

 しかし、七海は再び純一のアパートを訪ねるつもりになったしまう。だが、扉の前で樹里と鉢合わせてしまい、彼女から、純一が七海との恋を忘れようと努力しているのに、また蒸し返す気なのか、と言われてしまう。

 純一の上司赤羽(内藤剛史)が純一を飲みに誘い、学歴や地位など何もない人間にとって、唯一の自信の根拠は金だ。という哲学を語り始めた。そして、純一に運び屋の仕事を依頼する。

 駅のロッカーから小型のトランクを、取り出した純一と良は、好奇心から車の中でその鞄を開けてしまう。中身は怪しそうな大量の旅券だった。だが、いまさら引き下がるわけには行かない。二人は取引先のホテルに入っていった。ちなみに、偶然にも、そのホテルでは七海のウェディングドレスの仮縫いが行われていて、純一は花嫁姿の七海に鉢合わせしてしまう。

 取引場所のスイートルームで、二人を待っていたのは、いかにも怪しい中国人と用心棒の怖いお兄さん達だった。一応、和やかな雰囲気だが、彼らの脇の下に吊された拳銃を見て、良は震え上がってしまう。ようやく取引がすんで安心したのもつかの間、帰りの車の中で、良が旅券を一冊見つけてしまった。

 翌日、赤羽に問いつめられた純一はおとなしく旅券を差し出す。それであっさりとその件は不問になり、赤羽から純一は100万円をもらう。それは、これからも裏の世界の仕事をする契約金の意味でもあった。

 純一はその金で七海に借りた100万を返済しようと思い、彼女のアパートの前で待つ。そのころ、真鍋は七海の様子から、彼女が何かを悩んでいることに気がつきはじめた。

 いつものように、七海を送る真鍋、いつものように彼女の部屋の明かりがつくのを待つ。だが、七海は部屋の前で純一に会っていた。金を返して、これで完全に俺達は無縁だと宣言する純一に、七海は「私の結婚を止めないの」と聞く。そんな彼女に「自分の人生は自分で考えろ」と背を向ける純一。二人の会話を物陰で真鍋が聞いていた。

寸評

 この作品では四人の男達の人生観が示されている。すなわち柳瀬純一・琴塚豊彦・真鍋克明・赤羽哲也のそれである。

 筆者はそのいずれの個性も、控えめに主張されているところを評価したい。もちろん、真鍋のようなカリカチュアもあるが、おおむねこの作品では、テレビドラマにありがちなヒステリックな台詞は、ほとんどない。

 その例としてあげられるのは、今回の純一と豊彦の会見シーンだ。脚本家は、純一にあえて偽悪的な態度をとらせることによって、彼に不良でありながら大人の態度を持たせることに成功している。

 全体の流れも悪くない。何度も触れているように、この作品の主軸はラブストーリーである。だが、そのメインの話の流れを損なわずに、コミカルなシーンやサスペンスな流れを巧みに含んでいる。

 たしかに、今回の怪しげな中国人の登場や、赤羽の存在などは漫画的である。したがって、いわゆる「リアリティー」には欠けているのかもしれない。だが、そもそもドラマと言うのは虚構である。この作品はリアルなドラマではないかもしれないが、しっかりしたドラマだとは言えるだろう。

 そして、その脚本を俳優陣が適切に演じていることも評価できるのである。

執筆者

伊佐(isa_s@anet.ne.jp

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第6話(1999/11/19)

あらすじ

 朝、樹里(黒沢真美)と良(吉沢悠)は自分たちの荷物が片付けられていることに気がつく。純一(反町隆史)が、ままごとのような共同生活を終わらせようとしたのだ。あくまで、純一の部屋に残りたがる二人、険悪な雰囲気の中、一人の婦人が訪ねてきた。

 婦人は良の母親だった。とっさに樹里は純一の新妻を演じ、良は純一を大学院生の先輩だと偽る。「就職先は?」という質問には「ハングリー・ハート、外資系の証券会社」とごまかした。母親の上京に気を使って、良は久しぶりに在籍中の立教大学に出校する。当然、授業は居眠りするだけだが、そんな彼をからかいに樹里がやってきた。

 キャンパスで、樹里は良に、これからキャバクラ嬢として本腰を入れて働くつもりであること、そして純一との距離感を保つためにアパートを出て自立する決意を伝える。そのころ、街でスカウトしている純一は、良の母親に会っていた。彼女から、良のことをくれぐれもよろしくと頼まれた純一は、深く考え込んでしまう。

 そのころ、真鍋(沢村一樹)は七海(鶴田真由)との婚約パーティーを企画していた。だが、七海はそれほど乗り気ではない。真鍋はそのことに気がつき、いつものように七海を自宅まで送らず、彼女をつけた。七海は真鍋の尾行に気付くはずもなく、純一のアパートに行く。そこで、樹里に純一から返してもらった百万円を渡すが、樹里も何故純一がそんな大金を持っているのか心当たりがないという。

 樹里は帰宅した良に、その金のことを聞くが良にとっても突然のことである。もちろん、良は偽造パスポートの運び屋代だと気付くが、樹里には言えなかった。スカウトに失敗して事務所に帰ってきた純一に上司の赤羽(内藤剛史)が手品を見せるという。簡単なマジックだったが興味を示す純一。だが、二度目にでてきたタネはコインロッカーの鍵だった。

 二度目の裏の仕事を渋々引き受ける純一。ただ、仕事から良をはずすことを条件とした。「あいつは足手まといだからな」と言う純一。だが、その会話を良が聞いていた。一緒に仕事させてくれという良を純一は冷たくあしらう。それでも、しつこく食い下がる良に、ついに純一は殴りかかる。少しは母親のことを考えろ。しかし、それでも純一についていくという良に、純一は折れる。泣き笑いながら良は母親が持ってきた葡萄を純一と食べる。「主任、今度は分け前くださいよ」

 翌朝、良は樹里がキャバクラ紹介の記事に載ったということで、急いで新聞店に行った。だが、彼の目に飛び込んできたのは、例の中国人のボディーガードが死体で見つかったという記事であった。うろたえる二人の様子に樹里は二人が、やろうとする仕事を察する。必死で止める樹里を振りきって、純一と良は出かけていった。

 七海の中学校に名前も名乗らず、ただ泣きじゃくる電話がかかってきた。すぐに切れたが、七海はそれが樹里からだと気づく。七海は純一のアパートに急行した。そのころ、純一と良は取引場所のホテルに到着した。事前に赤羽に警告されていたせいもあるのか、緊張した二人は警戒中の警察にすぐに怪しまれ、追われる身になってしまう。しかも、二人を心配してホテルまで来た七海と樹里も巻き込まれて一緒に逃げる羽目になる。

 良は樹里と逃げ、純一は七海と逃げた。接近してきたパトカーの目を誤魔化すため、純一は七海を抱き寄せキスをする。身を隠すために潜り込んだ車の下で、七海は純一に愛を告白した。

 真鍋と七海の婚約披露宴で、七海はこの縁談の取り消しを申し出る。だが、真鍋は純一と七海が抱き合っている写真を見せ、あくまで結婚をせまる。七海は純一に電話して心境を相談する。「自分の好きに生きろ」という純一の言葉に、七海は結婚解消を一同の前で宣言するのだった。

寸評

 今回は短く感じた。それだけ、テンポが良く楽しめたということだろう。本編の反町隆史演じる主人公・純一の性格設定には実に好感を覚える。彼は分別臭すぎない程度に大人な不良だ。今回の良を説得するシーンは今シーズンに観たドラマの中でも屈指の名場面のように思える。あいにく音楽全般に疎いので、BGMの名前はわからなかったが、あのBGMの効果もあって、粋なアメリカ映画のような雰囲気を感じた。

 一方、沢村一樹演じるエリート・真鍋には哀れみを感じる。感情移入すれば、彼の人生が努力と忍耐の成果だと実感することが出来るだろう。苦労して一流大学に入り、苦労して公務員になった。女には縁がなかった違いない。だが、冬に食物にありつけるアリのように、彼には七海という素晴らしい妻を得る資格を得た。だが、不条理にも彼女はキリギリスのような男に奪われてしまう。もし、愛情を脅迫によって得ても、それは本質的に愛情ではない。だが、彼がそれを承知の上で、脅迫という愚行に走るのも理解できるような気がするのだ。

 この二人の男に比べて、鶴田真由演じるヒロイン・七海の行動にはちょっと共感を得られなかった。だが、それは筆者の感受性に問題があるのかも知れない。実は、私は『嵐が丘』を読んだ時も、ついにキャサリンに共感できなかったのだ。

 原則的に筆者にとって女性心理は不可解のようである。実を言えば今回のドラマでも最も楽しめたのは、少しだけ描写された裏の世界のエピソードだったのだ。

執筆者

伊佐(isa_s@anet.ne.jp

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第7話(1999/11/26)

あらすじ

 深夜帰ってきた樹里(黒坂真美)が目にしたのは、アパートの入り口でたたずむ良(吉沢悠)だった。実はその時、純一(反町隆史)の部屋では、婚約披露宴を逃げ出した七海(鶴田真由)が純一に愛を告白していたのだ。自分のことを自分で決めたと喜ぶ七海。二人は抱き合い口づけを交わそうとした。すると、樹里が打ち上げた花火が炸裂する。樹里も七海の気持ちを認め、二人を祝福することにしたのだ。4人は、新しい門出を花火で祝うのだった。

 翌朝、七海は両親にも顔を合わせづらいし、学校にも噂が立っているだろうから、しばらく純一の部屋に置いていてくれないかと頼む。だが、純一の逃げ隠れするようなことじゃない、という言葉に、七海は中学校へ出勤した。職場に着くと、同僚のあゆみ(茂森あゆみ)が昨夜のパーティーの顛末を語る。その上、父親の豊彦(井川比佐志)も訪ねてきて、母親の滋子(高林由紀子)が寝込んだことを伝えた。

 そのころ、純一の部屋では樹里と良が、七海と付き合う以上、裏の仕事から手を引くべきだと説得していた。そこへ、上司の赤羽(内藤剛史)がやってきた。彼は二匹の金魚を持参してきた。何でも中国では伝統的に囚人への土産とされるらしい。喜ぶ良と樹里を尻目に、純一は「なんの用だ?」と赤羽に尋ねる。彼の用件は、預けたパスポートだった。とたんに青くなる良。実は、警察に追われた時に失くしていたのだ。二人は、パスポートを回収するために街に飛び出した。

 二人は、良が覚えていた青果市場で、鞄を拾ったという男に出会う。ところが、その鞄は既に交番に届けられていた。中身を確認しようとする警官をどうにか振り切って、二人は無事に赤羽に品物を届けることが出来た。赤羽は、もう一回この仕事をやってくれと命令した。

 そのころ、七海は実家で両親に会っていた。父から真鍋(沢村一樹)が正式に結婚を断ってきたことを聞かされ、さらに、あの男だけはどうしても認められないという言葉に直面する七海。だが、彼女にとって純一は初めて心から好きになった人だった。もちろん、両親とも納得できない。彼女はしばらく実家で暮らすことになった。

 しばらくたったある日、七海の学校のパソコンに、純一と七海が抱き合っている写真が流れた。純一のことは、風俗のスカウトマンとして書かれている。あゆみに写真を見せられた七海には、すぐにそれが真鍋の仕業だとわかった。一方、あゆみは純一のアパートを訪ね、七海のことを諦めてくれと頼む。このままでは、七海は何もかも失ってしまうかも知れないのだ。

 七海は謹慎処分になった。純一は原因となった写真をばらまいた真鍋に会うために、真鍋の勤める区役所に行く。真鍋を殴る純一、そんな彼を役所の上司でもある豊彦が制止した。七海が毎日両親を説得して、二人に祝福されるような恋をしたいと努力していることを聞かされる純一。「それなのに君は何故七海の期待に応えるようなことをしないのか?」と毅然と話す豊彦に、純一は何も答えられなかった。一方、殴られた真鍋は、偽造パスポートの容疑で純一のことを警察に通報する。

 真鍋の通報を受けて、警察が純一たちを拘束した。樹里から電話を受けた七海は母が必死で止めるのも聞かず、実家を飛び出し警察署へ行く。待合室では樹里が泣きじゃくっていた。「先生、どうして純一の側にいてやんないの?欲張りだよ。親とか学校とかも失いたくないなんて」という樹里。七海は中学校を退職することを決意した。

 結局、二人は証拠不十分で釈放された。どうやら、純一も良も背後関係を自白しなかったらしい。警察署の駐車場では樹里が待っていた。樹里は、純一に赤い糸をわたす。糸を手繰っていったその先には、七海がいた。

寸評

 何となく、好感の持てる展開だった。筆者の感想の原因には、都合良く真鍋が悪者になったせいもあるだろう。ただ、少し物足りなかった。事前情報では、彼の「異常行動」がエスカレートするということだったが、実際には中傷メールの他には、携帯で偽造旅券の件を通報しただけ。ちょっと工夫がないように感じられ、残念である。

執筆者

伊佐(isa_s@anet.ne.jp

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第8話(1999/12/03)

あらすじ

 純一(反町隆史)との生活を始めた七海(鶴田真由)は良(吉沢悠)や樹里(黒坂真美)たちとも仲良く愉快にやっていた。だがある時、、純一は4人が尾行されていることに気がつく。そして、彼らの前に現れたのは七海の元婚約者・真鍋(沢村一樹)だった。彼は4人の行為を逐一デジカメに記録していたのだ。七海は彼と二人だけで話し合うことにする。そして、純一が七海を幸せにできるはずはないと言う彼を残して立ち去るのだった。

 事務所に出勤してきた純一に、上司の赤羽(内藤剛志)が裏の仕事を持ちかけてきた。だが、純一はすぐに断り、スカウトに出かける。だが、全然仕事に身が入らない。気乗りしないまま街を歩く純一は、七海がスカウトをしている姿を見つける。別にそれで純一は怒りだしたわけではないが、考え込んでいるような表情で、七海と帰宅する。アパートで彼は、スカウトマンをやめようと考えていることを七海に告げた。

 七海は自分の部屋を引き払って、純一のアパートで暮らすことにした。引っ越しの日、ほとんど荷物を運び出した部屋で、七海はピアノを愛おしむように眺める。ピアノだけは運び出すのを諦めるのだ。床を掃除し始める七海の所に、大家から事情を聞いた父親の豊彦(井川比佐志)がやって来た。
 豊彦は静かに七海に語りかける。純一との生活に出発する娘の決意を認め、だが、もう七海は死んだ者と見なす。つまり、七海を勘当すると告げた。そして、全てを話し終えると、彼は七海の手から雑巾を取り床を磨き始める。たった一言「行きなさい」とだけ言った。扉の外で、純一は一部始終を聞いていた。

 外で待っている良たちの車に戻った時、七海は父親との対面を、全然表に出さなかった。だが、純一はバックミラーに映る豊彦の姿に気がつく。「手ぐらいふれよ」と言う純一。だが、七海は悲しそうに首を振った。その晩は七海の引っ越し祝いということで、4人は大騒ぎする。盛り上がりがピークに達したとき、純一の携帯に赤羽から呼び出しが来た。

 通常のトラブルのつもりで事務所に来た純一に、赤羽は運び屋の仕事を依頼する。断ろうとする純一に、赤羽はこの仕事が終われば自分も裏の仕事から足を洗うつもりでいることを話し、土下座して純一に頼んできた。純一も、仕方なく引き受けることにした。

 アパートに帰ると、七海が待っていた。二人は屋上に出てみる。純一は、帰りに見つけた玩具のピアノを彼女に贈る。彼女の曲を弾いてくれと頼んだ。七海の演奏を聴きながら、彼はいつか豊彦に認められる男になる決意を七海に誓った。その時、部屋の中では樹里が良にホテルに行こうかと誘っていた。素直に喜ぶ良だが、少し真顔になって「それって、主任の代わり?俺にもプライド持たせてよ」とやんわり断るのだった。

 最後の仕事の日、事務所を出た純一は良に見つかってしまう。そして、二人で受け渡し場所の埠頭に出かけた。しかし、事務所の中では、純一が全面的に信頼している赤羽が、秘書の由紀(長嶺尚子)と陰謀を企んでいた。

 埠頭の倉庫で待っていたのは例の中国人だった。なんの疑いもなく荷物を渡す純一。だが、その中身は紙屑だった。実はその時、赤羽と尚子はロシア人と二重取引していたのだ。二人は逃げ出すしかない。倉庫の外に飛び出した二人に、尾けていた真鍋が現れた。

 彼は全てを写したと喜んでいたが、たちまち流れ弾に当たってしまう。どうにか彼を物陰に引きずり込んだ純一たちは、屋上に追いつめられた。覚悟を決めて海に飛び込む二人。その二人に中国人が発砲する。だが、純一は無事だった。「ちょろいもんだな」と喜ぶ純一。だが、良の反応はない。水中で良を探す純一。すると、血を流しながら良が浮かび上がってきた。

寸評

 今回も見ていて面白いと感じた。特に、私の未熟な筆力では味気ない描写になったが、井川比佐志演じる琴塚豊彦が娘のアパートを訪ねるシーンは、名場面だった。堅苦しい役所勤めのサラリーマンで、伝統的な価値観を重視し、ヒロインの恋を否定したがる中年。連ドラの世界では、このような人物像は嫌われ役のはずある。なのに、どうしてこの男は魅力的なんだろう?

 彼の存在で、我々視聴者は、毎日仕事に追われ、冒険をしたくてもできない、一般庶民としての堅実な生活にプライドを持てる(大半の視聴者がそんな生活をしているはずだ)。そして、主人公の純一も彼に認められることを恋の最終目標とした。そのために、二人の恋は応援しやすいものになった。

 このドラマも残りわずかとなっている。テンポのいい展開、適度なユーモア、今回の衝撃的なラストシーンなど、この作品の魅力は多い。だが、この作品の魅力の要素として、堅実な人生の価値観を肯定していることは、特に重要だと思うのである。最終回まで一気に見せてくれそうだ。

執筆者

伊佐(isa_s@anet.ne.jp

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第9話(1999/12/10)

あらすじ

 明け方の埠頭。良(吉沢悠)を探す純一(反町隆史)の声が虚しく響く。だが、良は岸壁のどこにもいない。倉庫の中に入ると、そこに銃撃のショックで震えている真鍋(沢村一樹)がいた。真鍋は、うわごとを繰り返すだけで良の行方は知らない。彼は負傷していたが、すでに携帯電話で救急車と警察を呼んでいた。

 警察が到着する寸前に純一は港を離れる。駆けつけた警官に、真鍋は偽造パスポートの取引現場を撮影したデジタルカメラを差し出す。一方、純一は裏切った赤羽(内藤剛志)を探して、事務所へ行ってみる。だが、そこは空っぽだった。実は、その時、赤羽は秘書の由紀(長嶺尚子)と空港ホテルでいちゃついている最中だった。と、彼の携帯に純一から電話が入る。赤羽は、一言も答えずにそれを切った。

 すぐに切れてしまった電話を片手に焦る純一。すると、そこに中国マフィアの陳(篠井英介)からの電話が入った。すぐに品物を届けないと、良の命が危ないという。呆然とする純一の目に、壁に貼られたトロピカルリゾートの宣伝ポスターが映った。「赤羽は南のリゾートに高飛びする」と確信した純一は、自分のアパートに戻り、七海(鶴田真由)や樹理(黒坂真美)と協力して、赤羽の行方を探すことにした。

 七海は、かつての職場である中学校へ出かけ、元同僚のあゆみ(茂森あゆみ)から車を借りる。彼女と純一は成田を探すことにしたのだ。成田への車中、七海は「どうして何も言ってくれなかったの?」と聞いた。全てに片をつけ、一から出直すために、金が欲しかったと答える純一に、七海は「隠し事はこれで最後にして」と言い、微笑んだ。その時、羽田を捜していた樹理から、赤羽を見つけたという連絡が入る。二人は、直ちに車をUターンさせた。

 赤羽が出国ゲートに入る直前、純一は彼を捕まえることができた。赤羽を問いつめた純一は、彼から金を奪い返し、中国マフィアの連絡先も聞き出す。だが、反省したかのように見えた赤羽は、純一たちが去ると、すぐにマフィアの陳に連絡するのだった。純一に裏切られたので始末して欲しい、と。

 取引場所の貨物船に到着した純一は、心配する七海と樹理を残して、一人で陳と面会する。陳は日本人の嘘はすぐにわかると不気味に笑い、例のおみくじクッキーを取り出す。用心棒は懐に手を入れていた。と、陳の表情が緩み、純一を信用していることを告げた。そして、良が監禁されている船倉の鍵を渡してくれる。

 純一が、船倉で良を捜しているころ、陳は赤羽に射殺された。そして、赤羽は純一のところにも現れて、銃を突きつけ追いつめる。だが、赤羽が発砲する直前、七海が現れて赤羽を殴り倒し、銃を奪った。4人は良を見つけるとすぐに病院に搬送するのだった。

 良は直ちに手術室に回された。手術中、樹理は良を心配し、また純一を責める。純一は、良の母親にも電話して、頭を下げた。彼は、自分のために良や七海の人生が、めちゃめちゃになることで、自分を責める。だが、七海はそんな彼を優しく励ました。外は雪が降っていた。

 手術は成功し、良は一命を取り留めた。だが、銃による傷だったために、病院側は警察に通報することにする。また、赤羽も独自に彼らを捜していた。病院が通報するという情報を知った純一は自首することを覚悟する。良を犯罪者にするのは彼の母親に申し訳ない。純一の決意を聞いて何もいえない七海と樹理。だがその時、眠っていたはずの良が「ずるいっすよ、一緒に逃げましょうよ主任」と言い、起きあがった。躊躇する純一に七海が「行きましょ」と言い、4人は逃避行に乗り出すのだった。

寸評

 今までとはトーンの違う展開だったが、決して前回までの流れを消し去るようなストーリーではなかった。違和感なく、ラブコメからサスペンスに移行できたと思う。

 そして、完全にサスペンスタッチになったわけだが、これは筆者の個人的な好みに、すごくマッチする。今回非常に面白く楽しめた。アクションは控えめだが、昨今流行の謎解きの要素はあまりなく、このサスペンスは賑やかなハリウッド映画を思わせる無邪気さがある。それに、主人公柳瀬純一君の態度も気持ちいい。

 今回は、言及したい部分が幾つもあるが、きりがないので特に気にいったことを書く。筆者は、中国マフィアの陳さんが特に気に入った。演じる篠井英介のオーバーアクションは不思議に自然な感じがする。例のおみくじクッキーを出すパターンなど、いつも楽しい。今回、彼が射殺されて出番がなくなったことは実に残念だ。

 さて、残るは最終回だけである。この機会にこのことも触れておこう。ハングリーハートの事務所に掛かっている絵。『赤富士』のように見えるのだが、それはどこかのテレビ局を揶揄する意味があるのだろうか?その事務所の主が、実に胡散臭い人間だと証明されただけに、制作者側の意図が気になるのである。

執筆者

伊佐(isa_s@anet.ne.jp

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第10話(1999/12/17)

あらすじ

 純一(反町隆史)たちは、傷ついた良(吉沢悠)を連れて逃避行に乗り出した。七海(鶴田真由)は、借りた車を返すために、同僚のあゆみ(茂森あゆみ)の家に行くが、そこで純一と良が、中国人殺人容疑で指名手配されていることを知る。そして、あゆみも、彼らと関わりたくないと宣告した。

 樹里(黒坂真美)は警察に自首することを勧めるが、純一は警察が信用できない。彼らが自由になるのは、赤羽(内藤剛志)の犯罪を立証するしかない。コインロッカーに赤羽から奪った金を隠した純一は、とにかく良の手当ができる場所を探す。だが、街は警察と裏社会の捜査網で隠れる所はない。

 4人は、どうにか閉店中の酒場に潜り込むことができた。良の傷は思ったよりひどかった。どうにか応急処置をすました純一は、洗面所で血を洗い流す。と、そこに赤羽が現れた。赤羽は不気味に銃を突きつけている。そのころ、外では七海たちも暴漢に襲われていた。七海は凄惨な平手打ちをくらう。いよいよ赤羽の指が引き金にかかった時、樹里が配電盤のブレーカーを落とした。そして、暗闇のどさくさに4人は脱出することができた。

 だが、外でも警察が厳重な監視網を敷いていた。七海は思いきって、実家に助けを求める。母親の滋子(高林由紀子)は怪我をしている娘に心配するが、父親の豊彦(井川比佐志)は彼らを追い返そうとする。だが、純一は「七海とこいつらだけでもここに置いてくれませんか」と頭を下げ、滋子も豊彦を説得し、4人は家の中で休むことが出来るのだった。

 しかし、滋子は純一がいなくなれば七海が戻ってくれると考えていた。彼女は密かに警察に通報する。家に警官が踏み込んできた。そして、意外にも豊彦が純一たちを逃がしてくれるのだった。が、途中ついに彼らは警官隊に包囲される。その時、樹里と良が身体を張って純一と七海を逃がすのだった。

 二人は降り出した雨を避けるために教会の中に入っていった。翌朝、その教会では結婚式が行われていて、二人は思わず見とれてしまう。そして、純一も七海への愛を告白し、二人は神の面前で永遠の愛を誓いあうのだった。

 純一は携帯で赤羽に取引を持ちかけた。金を返す代わりに、純一と七海の生命の保証を求めたのだ。純一は取引の前に七海とデートすることにする。二人は、出会ってから初めて、遊園地で楽しい一時を過ごすのだった。そして、いよいよ赤羽との時間が近づいて来た。純一は七海に「俺を信じて待っていてくれ」と言い残し、赤羽に会いに行く。

 赤羽との会見場所は同じ遊園地の観覧車だった。二人は、ゴンドラの中で向かい合って座る。赤羽は「君は昔から詰めが甘いんだよね」と銃を突きつけた。既に、観覧車の舌には赤羽の部下もいる。金だけを奪うつもりなのだ。すると、純一は金を観覧車からまき散らすのだった。あまりのことに呆然とする赤羽。さらに観覧車は警察によって包囲され、純一と赤羽も逮捕される。

 一年後、純一と結婚した七海は、純一の子供を宿している診断を受けた。嬉しさのあまり、トラックの運転手をしている夫の携帯に電話を入れる七海。だが、彼女は直接、彼が帰ってから伝えることにした。

 その日はクリスマス・イヴ。アパートの一室でパーティーの準備をしている七海の所に、良と樹里もやって来た。そして、樹里も良の子を宿していることを発表する。喜びに沸く3人。そのころ、純一は特大のクリスマス・ケーキを買って家路についていた。

 そして、彼は真鍋(沢村一樹)に刺されてゴミ溜めの上に倒れる。「七海」と絶叫しながら。

 数年後、七海と純一の子供・純平の幸せそうな姿があった。

寸評

 読者の皆さんも、ラストシーンについては言いたいことが、あるのではないだろうか?どうしても必然性に乏しい結末だと思う。もっとも、あのままハッピーエンドに終わったら、いかにも締まりのないドラマになるわけだし、本質的にテレビというメディアではセンセーショナルなものが求められる。そんなわけで、純一が刺されるのは、考えたうえのことだろうけど、筆者にとっては府に落ちない結末である。読者の皆さんはどう思われるだろうか?

 さて、今回で、このドラマも最終回なのだが、最後になると、ラブコメとは言い難く、かといって完全なサスペンスにもなりきれない中途半端な要素があったことは否めない。俳優陣の演技力や登場人物の設定がしっかりしたいただけに、終盤以降の展開はやや残念な感じである。

 ただ、第7話ぐらいまでの、純一と七海の恋を中心としたストーリー展開は、「安っぽい愛」というタイトルの名に反して、しっかりした造りだったように思う。適度にコミカルな部分を織り交ぜ、不良とお嬢様の恋というテーマをうまく表現していた。つまり、中盤までが良かっただけに、終盤と最終回のチープな造りには残念な思いがするのだ。ストーリーをうまく完結させるのは難しいということなのだろうか?

執筆者

伊佐(isa_s@anet.ne.jp

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