処理の目的は?
WPC処理は、金属表面処理の一種で金属の疲労強度向上と摺動性向上を主目的に処理されます。
では「疲労強度向上」とはいったい何のことでしょうか?金属は繰り返し力がかかるとだんだん強度が落ちてきます。例えば、材料の最初の強度が100とした場合、100より大きな力がかかると壊れます。逆に100以下の力であれば壊れません。しかし、50や60という強度的には壊れるはずがない力でも、それが何万回、何億回と繰り返しかかることにより壊れてしまうことがあります。これが金属疲労です。また、バネがヘタる(弱くなる)のも金属疲労が原因です。
ここがポイント! WPC処理は金属の強度を上げるのではなく、この金属疲労に対して非常に強くなります。ですから、ある力が加わると1回で壊れてしまう部品に処理をしても、壊れなくなる可能性は少ないと言えます。これは、材料の強度が足りないからです。逆にしばらくは持つけど何回かすると壊れてしまう部品に処理すれば寿命が延びたり壊れなくなる可能性は大きいと言えます。
「摺動性向上」とは、滑りを良くして、摩耗を減らすということです。摺動抵抗の低減により車のパワーは僅かに上がりますが、大幅なパワーアップは期待しない方が良いでしょう。
それよりも、摩擦熱の減少、焼き付き防止による耐久性の向上、レスポンスの向上が期待できます。
処理の方法は?
WPC処理は40〜200ミクロンの非常に小さなショットを、処理される材料に対して100m/sec以上という非常に高速で噴射して処理をします。ショットの材料、形状、大きさ、噴射速度は処理される材料や処理の目的(疲労強度向上、摺動性向上など)により異なります。
似たような処理に、ショットピーニングやハードショットピーニングと呼ばれる処理があり、疲労強度向上に有効なことから、ギアやバネなどに使われています。WPC処理はショットピーニングやハードショットピーニングよりもはるかに疲労強度が向上します。さらに、表面の面荒れを起こさず、非常に細かい凹凸(ミクロプール)を形成して、そこに潤滑油が保持されるので摺動性が向上します。
もう一つ、今までの技術との大きな違いは、WPC処理は表面熱処理であるという点です。ショットの噴射速度が速いので、ショットが衝突したときに瞬間的に熱が発生します。その温度が金属の結晶を一度溶かしてしまう程の温度になります。一度溶けた金属を急冷すると金属の結晶は非常に細かくなります。結晶が細かいと結晶の表面積が大きく、結晶同士の結びつきが強くなり、クラックと呼ばれる割れ目が入りにくくなります。WPC処理は金属の表面の結晶を非常に細かすると同時に、表面にあった細かいクラックを修復してくれる働きがあるのです。摩耗が結晶の剥離現象と捉えれば、結晶が微細化して結びつきが強ければ摩耗に強いことになります。また、WPC処理をした金属の表面は硬さも上がっています。
WPC処理によりできたミクロプールは摺動部ではしばらくするとなくなる場合があります。摺動部で面圧の高い場合(例えばクランクシャフト)や、ピストンやメタルなどの柔らかい材料の場合に起こります。この場合、初期的にいい”あたり”が出て、初期摩耗を抑える働きをしています。いい”あたり”が出た後に、硬度が高く組織が微細化された層が出て、摺動性を向上すると同時に、摩耗を抑制しています。
処理によってひずみや寸法変化は出ない?
車の部品でWPC処理によってひずみが出た、寸法変化が出て使いものにならなくなったということは今までに一度もありません。寸法変化が全くないというと嘘になりますが、表面をたたきならしているだけなので、その変化はせいぜい1〜2ミクロンです。
また、面粗さは元の面が鏡面であれば当然悪くなります(0.5〜1.5s程度)が、元の面が鏡面でなければ(3〜6s程度)面粗さは逆によくなる場合もあります。さらに、もっと悪い場合はその凹凸を大きく変化させることはありません。
但し、表面がさびていたり、鋳造品で巣穴が潜在していたり、材料の硬さのむらがある場合は、面が荒れたように見えることがあります。
何に処理できるの?
金属であれば、ほとんどのものが処理可能です。例えば、ギアのような鋼、ピストンのようなアルミ及びアルミ合金、オイルポンプのような焼結合金、クランクシャフトのようなダクタイル鋳鉄、メタルのようなスズや鉛の合金、そのほか、チタン合金などなど。
さらに、硬質クロームやTIN等のメッキや、窒化、浸炭などの表面処理の上に処理する事により相乗効果が発揮されます。また、メッキ等の前処理にWPC処理をすると、密着性がよくなります。
処理出来ないものは?
処理はどんなものでも出来ますが、効果が期待できないものとして次のようなものが挙げられます。
洗浄が十分に出来ないもの
処理により微細なショット、特に仕上げに使うショットが残ります。通常洗浄すればきれいに落とすことができますが、分解できないベアリングや油穴が複雑でメクラ穴のあるシリンダーブロック等はなかなか完全な洗浄は困難です。
摺動部の鋳物
鋳物はカーボンを含みそれが潤滑性能を保っていますが、WPC処理により表面のカーボンを飛ばしてしまうことにより、潤滑性能に悪影響を与える場合があります。鋳物のシリンダーブロック、ライナーなどは避けた方が良いでしょう。
同じ鋳物でもクランクシャフトのようなダクタイル(球状化黒鉛)鋳鉄の場合は問題ないようです。
チル化した鋳物
鋳物の中でも摺動性を上げるために、部分急冷させて非常に硬くてもろいチルという組織を意図的に作る場合があります。車の部品でいうと、カムシャフトがあります。チル化した組織は熱処理であるWPC処理を受け入れにくいと言えます。削り出しのカムシャフトであれば問題ありません。
特殊な表面処理が施されたもの
通常の表面処理であれば問題ありませんが、一部特殊な表面処理をした部品があります。例えばロータリーエンジンのハウジングが上げられます。硬質クロームのポーラスメッキかと思われますが、このようなものは処理により摺動性を向上させる面を作ることが出来ません。
金属以外のもの
ゴムやプラシチックに処理してと言われても、、、、、
加工金額は?
大きさ、表面積、難易度により異なりますが、ピストンで約8000〜9000円
ピストンピン、ピストンリングで約800円、クランクは強度UP及び摺動性UPで
約45000円です。
納期は?
基本的に至急処理しますが、部品到着より約1〜2週間で加工できます。