世界のヨットニューズ No3
一体、ヨットのデザインに特許があるのだろうか。
個々のパーツ、例えば、それぞれに意匠を凝らした新しいアイデアのフォールデングプロペラには技術的な特許がある。電子系の航海計器にも驚くほど多くのパテントが絡んでいるようだ。
ヨットの外形を見て、このヨットは誰それのデザインではないか、とどこと無く、そのデザイナーの香りが漂うこともあるが、通常全くといって良いほど、ヨットの外見からデザイナーを言い当てることは難しい。 それほど現在のヨットデザインは似通ってきている。
1994年に、Hinckleyがピクニックボート銘打って、36フィートのジェットボートを売り出した時、非常に的を得た発想だと感心したものだ。スポーツフィシャーマンのようなタワーも、フライブリッジもなく、トローラーのように無骨でなく、アメリカの東岸でスキッフと呼ばれている沿海用のロブスター用の漁船を洗練させ、それにジェットドライブをつけだけの簡素な造りだ。コックピットはこの手船にしては異常に広く、そこでゆったりと時間を過ごすように出来ている。
週末を少人数で船を出せるし、スピードが出るので目的地、アンカレジに早く着くし、意外と遠出もきく。一つ一つのアイデアに新しいものは何もないが、明確なコンセプトのもとに、既存のものを注意深く選び統合したのだ。
高い価格にもかかわらず、これが売れた。となると同様のコピーキャットが続々と現れたのだ。まるでそっくりサン大集合よろしく、Belkov 42 Express, Vicem 50, San Juan 48, Daytripper 40, Avalon 38などなど遠目にも近目にも区別し難く、Hinckleyより安く、そして大きのがどっとばかりに市場に出たのだ。
法的な予備調査を重ねた上、Hinckleyの社長、Ralfh
Willardは上記の会社すべてを相手とって、意匠盗用で訴えた。争点にしているのは、1.sheer lineのカーブ、2.バウからスターンへのフロントデッキ、トランクキャビン、パイロットハウス、アフターデッキの比率が2:2:3:4、 3.パイロットハウスの後ろの部分がCの形状、両サイドの窓の形など外見上の類似を指摘し、明らかに盗用であるとした。
一方、訴えられた側はいずれも、異口同様に、例えばBelkovはHinckleyがピクニックボートを作る何年も前に同様のボートは存在しており、外観には新しいものは一つも無い。デッキ上の比率に特許も意匠もない。より良いものを安く造るのが健全なありかただ、と述べている。
裁判に持ち込むがナショナルスポーツ化している米国ではあるが、技術的な要素を含めず、外観のデザインが似ているだけで裁判に打って出たHinckleyに老舗のプライドを見るむきも、凋落を見たとするむきもある。