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グッバイ、レーニン!

ユートピア

別の世界へと運んで、旅情を感じさせる、そんな映画の力が発揮されていて、映像も音楽も素敵だった。ユーモアとポエジーに豊富で、高尚で難しい作品のみを好む、という人でなければ、多くの映画好きが楽しめそうだ。
 でも見終わったあと、なんともいえない複雑な気持ちになった。少しも悪い気持ちではない。ただ、なんだか考えさせられてしまったのだ。

 映画は、東欧の街の魅力、さらには社会主義や国家主義の魅力を、とても上手に映し出してみせる。そして、うっかりこんな国にすみたくなる気持ち、人が国家主義者になる気持ちがわかりそうになったころに、その負の姿をありありと突きつける。そして、やっぱり自由市場体制はいいなとあらためて思いなおす段になって、他人と競争したり、よりいっそう金や物や情報や気晴らしにあふれた生活を追い求めることを心底望んでいるのか、いまの便利で快適な暮らしを失っても、分かち合い、受け入れ合い、連帯しあって、愛のある交わりと誠実な労働とに生きることを選びたい人はいないのかと、静かにたずねかけてくる。

 さらに、そうした疑問に絡めて、夢を見たり、思想をもち考えたり信じたりする人間にとって、なにをもって現実というのか、夢や信仰生きることは現実に生きているのかいないのか、とクエスチョンマークを残していくのだ。

 作者にとって、マルクス−レーニン主義の崩壊以降、あらたに歩み始めたヨーロッパは、ただ資本制にのりかえるものではない。きっと無限にたどりつくことのできない、ありうべき理想の国や生き方を模索しながら、今日も普請中なのである。主人公の青年、ソ連から来た恋人、妹夫婦、そして新体制にとまどう老人たち、この映画の登場人物たちはみな、同時代を生きる仲間なのだと思った。



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