古 流 居 合 劍 術 保 存會

作 刀 指 南


当会では、実戦剣術を指導方針としていることから、「作刀」にあたっては、
巻藁斬りのみならず、「孟宗竹斬りにも耐えうる刀」を作刀の基本としている。

大枚をはたいて「刀」を購入しても、使う内に折れたり曲がったりしては、
使用する自身の実力以前に、実用刀としての能力を疑ってしまう。

「刀」は武士の生命を託すものであり、購入後に後悔しないよう、
「作刀」の心得について、以下に要点を述べるので、参考にされたい。



一、 実用刀として不向きな刀剣

@古刀は鑑賞用であり実用刀として使うべきではない

古刀は美術刀剣であり、実用刀として使ってはならない。
なぜなれば、古刀・現代刀を問わず、試し斬りをすれば、巻藁でも傷がつき、孟宗竹を斬るに至っては、刃筋を違えただけでも、刃こぼれ、刀身を曲げてしまうからであり、高額な美術刀剣に傷がつき、曲げてしまっては、その付加価値を失うこと必定だからである。

A現代刀であっても以下に述べる刀剣は実用刀として不向きである

(長重刀剣)
長くて重い刀剣(一.二キロ以上)は、見た目から、戦い有利と思われる方が多々おられると思うが、速く抜くこともかなわず、時がたつにつれ疲れきってしまうものであり、さらに、間合を深く詰められた時には、成すべきも成なさざる無用の長物となってしまうばかりである、したがって、実戦で速さを求める居合剣術には不向きと言わざるを得ない。

(あんこ造り)
表面がはがね造りでも、中身は軟鉄という造り方では、孟宗竹斬りに耐えられず、刀身を曲げるか折れてしまう
あんこ造りとは、表面がはがね造りでも中身は軟鉄という、ごく一般的な作刀方法であり、特注で無垢鍛え(日本古来の造り方で総身はがね造り)を依頼しない限り、100パーセント間違いなく、このあんこ造りで作刀されることを知っておくべきである。
俗に、あんこ造りが普及したのは、軟鉄が衝撃を吸収することから曲がりにくく折れにくいからであると伝えられているが、いかがなものであろうか。
真実は、乱世の時代にあって、刀を大量生産するためには、はがねの大量調達は困難であったはず、中身を軟鉄とすることで大量生産を可能としたとすれば納得できる。

( 波 紋 )
乱れ刃等は見た目に美しいが、波紋の谷の部分に刃こぼれを起こすと折れ易くなる。

( しのぎ )
しのぎなしの平造りは、巻藁斬りでは、よく斬れるが、孟宗竹斬りでは、刀身を曲げ易い。

(重ねと身幅)
重ねが薄く身幅の広いものは、巻藁斬りではよく斬れても、孟宗竹斬りでは、刃こぼれとともに、刀身を曲げやすい。

( 目 釘 )
目釘が一個の「刀」がよく見られるが、実戦想定の孟宗竹斬りでは、柄が割れ易い。




二、実用刀として安心して使用できる刀剣

@現代刀で、価格も手ごろで、孟宗竹でも安心して斬れる刀を選ぶ

(適長適重)
速さを求める居合剣術では、長さは定寸から二尺四寸まで、重さも一.二キロまでが最適。

(無垢鍛え)
当会では、孟宗竹まで斬ることに目標を置いているため、曲がりにくく、折れにくい、無垢鍛え(日本古来の造り方で総身はがね造り)をしてくれる信頼できる刀匠に作刀をお願いしている。
ただし、刀匠の話によると、無垢鍛え(日本古来の造り方で総身はがね造り)の刀は、焼き入れが難しく、作刀数本に一本の割合でしか成功しないと聞く、ゆえに、作刀から研ぎ入れ、鞘造り、柄巻きと、完成まで一年以上待つことが常である。

( 波 紋 )
当会では、古刀造りである「直刃」に限定する。
なぜなれば、実戦で何度となく刃こぼれを起こしても波紋がまっすぐであるため、波紋がある限り、何度でも研ぎを入れることができるからである。
逆に、乱れ刃等は見た目には美しいが、波の大きい部分に刃こぼれを起こし、研ぎを入れてもさしたる問題はないとしても、波の小さな部分に刃こぼれを起こした場合は、研ぎを入れるたびに焼き入れ部分が狭くなり、打ち込みによる衝撃で簡単に折れてしまうこと必定である。
よって、実践に最適な波紋とは、「直刃」にまさるものはないと言われるゆえんなのである。

( しのぎ )
実用刀としての頑強さを求める上で、しのぎは必要不可欠である。

(重ねと身幅)
孟宗竹を斬るには、重ね厚く、身幅頃合が好ましい。

( 目 釘 )
当会で使用する現代刀は、実戦仕様の古刀と同様、目釘を二個としている。
目釘が二個あれば、孟宗竹斬りでも柄が割れてしまうことはない。


A信頼のおける刀匠を選ぶ

前述のとおり、当会では、孟宗竹斬りにも折れず曲がらず、長期使用に耐えられる刀を「作刀」の目安としていることが理解できたものと思うが、「実用刀として安心して使用できる刀剣」でも述べたとおり、長さは定寸から二尺四寸まで、重さは一.二キロまで、無垢鍛え(日本古来の造り方で総身はがね造り)で、しのぎ造り、重ね厚く、身幅頃合、波紋は直刃、目釘二個、以上による「作刀」が最適である。

以上の条件を満たした「作刀」を刀匠に依頼するには、一般の刀剣とは造りが無垢鍛え(日本古来の造り方で総身はがね造り)のため、高額になることは否めないが、拵えの特は別として二百万円を超えることはない。

一般に販売されている「現代刀」の価格目安として・・・
「実用刀」では、六十万円から七十万円のものがあるが、この価格で総身はがね造りができるはずもなく、孟宗竹斬りに耐えられるかどうか疑問である。

また、身幅が広くて、重ねが薄く、平造りで、波紋が乱れ刃の刀剣は、見た目にも目を見張るほどの美しさであるが、この手の刀剣は、最初から「美術刀剣」を意識して作刀されたものであり、価格も百五十万円から二百万円を超えるものもあり、鑑賞用に適していても、実用刀としては不向きである。

なぜなれば、身幅が広くて重ねが薄く平造りの刀剣は、カミソリを大きくしたようなもので、たとえ刃筋が曲がっていようとも、巻藁を斬るには何ら問題なくよく斬れるため、たとえ本人の技術が未熟であっても、斬る本人は腕が上がったものと勘違いしてしまうのである。

ところが、この手の刀剣を使用して孟宗竹を斬らせてみると一目瞭然で、刃筋が曲がっていれば、確実に刀を曲げることとなり、たとえ刃筋が通っていても間違いなく刃こぼれを起こすので、ようやくその刀剣の実力を知るとともに、高い代償を払って、ようやく本人の技術の未熟の程を自覚するに至るのである。

結果として、この手の刀剣は、「切る」には適していても、また、「鑑賞用」には適していても、実用刀として「孟宗竹を断ち斬る」には、程遠いものと言わざるを得ない。


要は、武士の生命を預ける大事な「刀剣」を作刀するにあたっては、見た目の美しさにとらわれず、実戦重視に重きをおいた「実用刀剣」を手にすることが重要であるということである。

以上の内容から、当会が、旧来より作刀を依頼している「刀匠」を信頼するゆえんを述べると、無垢鍛え(日本古来の造り方で総身はがね造り)で作刀をしてくれること、また、「刀匠」自ら作刀したその無垢鍛え(日本古来の造り方で総身はがね造り)の刀をもって、他の刀剣を真二つに斬り割ったという、いわゆる「斬鉄剣」を作刀の方針とされているからであり、それがゆえに、当会では、安心して冬の硬く締まった「孟宗竹」を斬ることができるのである。

その刀匠の名を「康廣」、刀工集団名を「鍛人(かぬち)」と称する。

これから四段を目指そうとする門人のために、この「刀匠」に作刀を依頼していたところであるが、平成21年12月27日に受領、バランスが非常に良いため、重さを全く感じさせず、試し斬りでの斬れ味は、軽く振っただけで抵抗感もなくすっと入っていく、今までにない小気味良く鋭い感触を思わせるものである。

刀身・・・無垢鍛え(総身はがね造り)
刀長・・・二尺三寸七分
身幅・・・一寸一分
重ね・・・六.二ミリ
造り・・・しのぎ造り
波紋・・・直刃
目釘・・・二個
重さ・・・一.二キロ強



以上、武士の生命を預ける大事な「刀剣」を作刀するにあたっての目安として、参考にされたい。



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