01.04.18 第一声明(日本出版クラブ)

個人情報保護法案拒否!
共同アピールの会
【第一声明】

「個人情報保護法」(案)は、いかがわしい。

だれが、またどこが、もっとも多くの個人情報を所有しているか。言うまでもなく政府、自治体、警察、司法機関だろう。これら公権力が持つ個人情報を、当の個人がたしかめ、間違いがあれば修正させ、自己管理する権利こそ、市民社会における個人情報保護の原則である。

しかし、法案は最初から、これら公権力を規制対象外としている(第二条3)。このことは、法案が個人情報保護法の名前にも値しない中味であることを示している。


「個人情報保護法」(案)は、油断ならない。

では、法案は何を保護しようとしているか。法案は個人情報を不正に扱う危険性のある業者にメディア一般を加え(総則および基本原則の適用)、取材の意図・範囲・方法に制限を加えたり(第四条、第五条、第六条)、取材対象者が取材・調査・報道の内容に干渉できる道を開いている(第八条)。ここで守られる個人はだれよりも、汚職や職務怠慢やスキャンダルの発覚を恐れる政財官界のダーティーな面々である。

日本を停滞と腐敗に引きずり込んでいく連中を保護する法案は、本音を見れば、取材制限法、醜聞腐敗報道制限法にしかなっていない。


「個人情報保護法」(案)は、たちが悪い。

法案は放送機関、新聞社、通信社、その他の報道機関を個人情報取扱業者に一括し、規制の対象とする(総則、基本原則)一方で、罰則に関しては適用除外にする、と言う(第六十五条)。だが、適用除外は機関についてであって、条文を厳密に解釈すれば、記者個人、ディレクター個人、カメラマン個人、編集者個人等は除外されない。これでは上司の承諾なしの予備調査、機関がオーソライズしていない自由な取材はできないことになる。

法案は、罰則の適用除外とされるテレビ局、新聞社、通信社をも、管理と統制の空間に変えようともくろんでいる。


「個人情報保護法」(案)は、危ない。

法案がもっとも規制処罰したがっているのは出版社系雑誌らしい。雑誌は罰則の適用除外とはされず、主務大臣の管理下に置かれ(第四十一条)、取材の際は取材対象者の同意が必要とされ(第二十一条、第二十三条)、取材内容のすべてを当人に明らかにすることを迫られ(第二十九条、第三十条など)、その当人の同意なしには報道もできないとされる(第二十八条)。そして、これらに違反すれば、六カ月以下の懲役か三十万円以下の罰金刑だという(第六十一条)。

ここまでくれば、法制化推進者たちの底意が透けて見える。金権スキャンダル、密室政治の内幕、政財官のダーティーな面々の素行を暴き、批判してきた編集者、取材記者、カメラマン、ライター、作家、学者、批評家の言論・表現を封じ込めることである。

自由な言論、自在な表現を規制し、民主主義を殺す法案は廃棄されなければならない。


「個人情報保護法」(案)は、出直せ。

私たちは、国際化・市場経済化・情報多様化が進行する現代の日本と世界が、個人に関する情報をきちんと保護するシステムを必要としていると考える。しかし、なによりもそれは、個人が自己に関する情報を自己管理する権利として確立されなければならない。

そのためにはまず、個人が公権力の所有する膨大な自己情報にアクセスし、その正確性に関与できる方途が開かれる必要がある。その公正で具体的なモデル的事業の経験を積み重ねることによってこそ、民間事業者による個人情報の取り扱いに関する規範は生まれるであろう。

私たちはいま国会に上程されようとしている「個人情報保護法」(案)を拒否する。

私たちは当局者らがこの法案を廃棄し、個人の権利と言論・表現の自由を最大限保証する法案に作りかえるよう要求する。

私たちは多くのメディア関係者、市民がこの「共同アピール」に賛同されるよう訴える。

  2001年4月18日