個人情報保護法案の廃案を求める編集長声明
 私たちはこれまで、個人情報を保護するという、美名の下に隠されたメディア規制の意図や、本格的なIT社会の到来を前に、市民一人一人の表現活動にまで広く規制の網をかけ、国家が市民を管理・監督するという戦前の治安維持法ともいえる個人情報保護法案の危険性を誌面等を通して訴えてきました。

 しかし、法案作成にあたった官僚はもとより小泉首相をはじめとする与党政治家たちは、こうした批判に耳を貸さず、十分な討議を経ないまま法案成立を目論んできました。

 個人情報の保護は私たちの社会が取り組むべき大きな課題であることはもちろんです。

 しかし、この個人情報保護法案は、本来もっとも厳しく監視しなくてはならないはずの公権力への規制は緩く、メディアや民間人を規制・監視するための法案であることは明白です。

 これに加え、人権擁護法案と青少年有害社会環境対策基本法案が成立すれば、ジャーナリストやメディアの取材・報道の自由が、不当に制限されることはもちろん、出版、新聞、テレビ、インターネットなどあらゆるメディアが官庁の監督下に置かれます。多様な言論や国民の知る権利が失われ、結果として国益が損なわれることは間違いありません。

 雑誌ジャーナリズムはこれまでも、多くの政治家や高級官僚をはじめ、公権力の不正、腐敗、堕落を告発追及してきました。また、政官界による情報の独占、支配を排除し、広く国民の知る権利に応えてきたという自負があります。

 スネに傷を持つ巨悪たちは、自らのスキャンダルが暴かれるのを恐れるあまり、憲法21条が保障する表現の自由の精神を蹂躙してまでも、「巨悪スキャンダル防止法」とも言うべき法案の成立に執念を燃やしています。新聞報道によれば、与党三党は個人情報保護法案を、十分な審議もせず今国会で成立させる暴挙に合意したといいます。

 残念ながら、このように民主主義の根幹を脅かす重大な法案が成立寸前にもかかわらず、未だ多くの国民はこの法案の持つ危険な本質や問題点を、十分に理解してはいません。

 私たちは国民の広範且つ十分な議論がないまま、表現・報道の自由を制約しかねない個人情報保護法案成立に断固反対することを、ここに表明します。

2002年4月12日
個人情報保護法案の廃案と立案のやり直しを求める編集長
以下署名34人
(50音順)

AERA・一色清/アサヒ芸能・佐藤憲/ASAHIパソコン・奥田明久/噂の眞相・岡留安則/現代・中村勝行/サイゾー・小林弘人/SAPIO・竹内明彦/サンデー毎日・北村肇/週刊朝日・加藤明/週刊アスキー・福岡俊弘/週刊金曜日・黒川宣之/週刊現代・鈴木章一/週刊ダイヤモンド・辻広雅文/週刊女性・駒村壮一/週刊東洋経済・山縣裕一郎/週刊プレイボーイ・田中知二/週刊文春・木俣正剛/週刊ポスト・海老原高明/女性自身・武田真士男/女性セブン・秋山修一郎/新潮45・中瀬ゆかり/SPA!・佐藤俊彦/世界・岡本厚/ダ・カーポ・遠藤成/中央公論・河野通和/創・篠田博之/日刊ゲンダイ・二木啓孝/FRIDAY・鈴木智之/FLASH・井上晴雄/プレジデント・藤原昭広/文藝春秋・松井清人/編集会議・花田紀凱/望星・岡村隆/漫画ナックルズ・比嘉健二