「1時間の指導で日記を変える!」ことへの挑戦

          〜〜〜「いろいろな書き出しで」の指導〜〜〜

H11,7,21

 

7月に入ってから,1日おきに日記の宿題を出すことにした。

宿題に日記を取り入れた意図は4つある。

 

(1)        クラスの実態として,書くことをおっくうがる児童が多かったため,日常的に(ふだんの授業も含めて)書く活動を多く取り入れようと思った。

(2)        日記を通して,文章表現力を鍛えようと思った。

(3)        ノート指導により,表記の約束を確認していこうと思った。

(4)        ふだんは見えない子供の姿が,日記の中に見えるのではないかと期待した。

 

日記を書き始めて10日。この間,子供たちは5回の日記を書いた。

生まれ順に1日一人,毎朝学校にきたら作文用黒板に日記を書く。朝の会で日記を発表し,良く書けたところを誉めたり,みんなからの質問を受けたり,表記の間違いを直したりする活動を取り入れた。

日記の宿題も,軌道に乗ってきたが,どうも子供たちの書く日記が,パターン化していることが気になりだした。ろくに指導をしていないのだから仕方がないことである。

 

典型的なパターン

「今日,私は○○ちゃんと遊びました。…………とっても,おもしろかったです。」

「今日,歯医者へいきました。…………でした。」

 

少し,子供たちの日記に,指導の手を加えることにした。

「どこから手をつけるか。題にするか,書き出しにするか,結びにするか……。」

考えた結果,「書き出し」にこだわってみることにした。

 

子供たちの日記の書き始めの第1文を読んでみた。

38名中36名の日記の書き出しの1文に「今日」「わたし(ぼく)」という言葉が入っていた。(残る2名は会話文を書き出しに使っていた)もしかしたら,これが「典型的なパターン」になる原因かもしれない。

以下,「いろいろな書き出し」の第1時間目の指導である。

 

T:教科書54ページを開きましょう。みんなで題を読みます。

C:いろいろな書き出しで

T:今日は,作文や日記の書き出しの勉強をします。

  ノートを出しなさい。日付を書いて,「いろいろな書き出しで」と書きなさい。
C:(ノートに題を書く)

T:教科書を読みます。先生に続いて読んでください。

C:(読む)

T:全員立ちなさい。お母さんが初めて運転する自動車に乗せてもらったことを作文に    書こうとしていますが,ここでは6通りの書き出しが紹介されています。この6つの書き出しうち,いちばん良い書き出しだと思うものを1つ決めなさい。決まった人は座って,それをノートに丁寧に写しなさい。

C:(ノートに写す。)

T:どの書き出しがいいと思ったのか聞いてみます。

    「様子」を選んだ人     (1人)

      「時」を選んだ人      (23人)

      「会話」を選んだ人     (9人)

      「音」を選んだ人      (2人) 

      「思ったこと」を選んだ人  (1人)

      「動作」を選んだ人     (2人)

T:なぜ,その書き出しを選んだのか説明できる人は説明してください。10人でストップします。

  では,どうぞ。

C:2番目の「時」の書き出しを選びました。いつのことかはっきりわかるのでそれにしました。

T:なるほど。今の「2番目の」という言い方よかったね。わかりやすいよ。続いてどうぞ。

C:ぼくも,2番目の時を選びました。いつ,何をしたのかが読む人にわかりやすいからです。

C:わたしは会話を選びました。すぐに話したことを書いて工夫していると思ったからです。

C:ぼくは,時を選びました。その他の書き出しは,いつのことか分からないからです。

C:わたしも時を選びました。土曜日にお母さんの自動車に乗ったことがよくわかるからです。

C:わたしも時を選びました。したことがちゃんと書けているからです。

 

(しばらく,発言が途絶える)

 

T:時のほかのを選んだ人,だれか発表できませんか?ともきさんどうですか。

C:ぼくは会話の書き出しがいいと思います。昨日会話からはじめたら花丸がついていたからです。

  2年生の時,作文みやぎで詩を書いたとき,会話から書き出しました。

C:ぼくは,音を選びました。いちばん短いので,書くとき楽だと思ったからです。 (笑い)

 

T:なるほど。まあ,それも理由になるな。あと2人,どうですか。

C:わたしは時を選びました。ちゃんといつのことか書いてあるのでいいと思います。

C:ぼくは思ったことを選びました。思ったことが書けているからです。

T:はい。では,ここまで。10人頑張りましたね。

  教科書に書いてある6つの書き出しは,それぞれいいところがあります。同じ中身を書くにも

  いろいろな書き出しができるということですね。

T:今日は,先生から日記を書く時のお願いがあります。

  今日は,みんなに小説家になってもらいます。ただの小説家ではありません。

  推理小説の小説家です。

  推理小説って知っていますか。

C:知ってる。殺人事件が起こって,探偵がでてくるやつ。

T:殺人事件とは限らないけどね。

C:コナンみたいなの。

C:見てる見てる。

C:金田一少年。

C:見てる見てる。

T:ルパンって知ってる?

C:知らない。

C:ビデオで見た。

T:まあいいや。とにかく,推理小説の小説家になってもらいます。

  ちょっとみんなに注意してもらいたいんだけど,推理小説を書く時って最初に「今日,こんな事件があって,犯人はだれだれですって書くのかな?最初から犯人がわかったらつまんないよね。

T:そこで,今,日記を書く時の条件を出します。条件はこれです。(板書する)

T:最初の1文を読んだだけで,何のことを書いた日記か見やぶられる書き出しはだめです。

T:今日は,日記の書き出しを工夫してもらいます。

  先生がみんなの日記を読みます。第1文,はじめの1文だけを読みます。日記の中身が先生に見破られてはいけません。

  昨日の日記のページを開きなさい。声に出して,最初の1文だけ読みなさい。3回声に出して

  読んだら立ちなさい。

C:(それぞれ読む。次々に立つ)

T:今読んだ書き出しで,日記の中身が先生に見破られないなと思った人は座りない。

(6名すわる)

T:Kさん。読んでみなさい。

C:先生。題も読むのですか?

T:題はいりません。最初の1文だけ読みなさい。

C:今日,学校から帰ってから歯医者に行きました。

T:ちょっとまった。歯医者に行ったことが書いてあるのでしょ。

C:うん。

T:じゃあ,だめだ。歯医者にいったことがもうばれちゃった。

(3人立つ)

T:Tさん。

C:「とも,行くよ。」

T:さっきの花マルのやつだね。これだけでは,なにかわからない。次が読みたくなるねえ。

  もう1文だけ読んでみてよ。

C:「ちょっと,まってて。」

T:なんのことかますますわからない。次が聞きたいなあ……となるでしょう。

T:最初の1文を読んだだけで,何のことを書いた日記か見やぶられる書き出しはだめです。

  最初の1文で中身が見破られないと,読んだ人はその続きが読みたくなります。

  最初の1文で日記の中身を見破られないように,昨日の日記の書き出しを工夫してみましょう。

  最初の1文だけができたら,先生のところへ持ってきなさい。

C:先生,ぼくはどうするのですか。

T:もう一つ,ちがう書き出しにして持ってきなさい。

  では,昨日の日記の書き出しを,工夫して書きなおしてください。

  いいですか。見破られてはだめですよ。では,どうぞ。

 

 

このあと,どんどんノートを持ってこさせる。半分くらいは,見破られてノートをもどされる。

どうしても,うまく書き出しができない児童には,友達のノートを参考にさせた。合格した児童は,その書き出しに続けて,昨日の日記を書きなおさせた。

ここで授業は終わり。

(授業で言えば,すぐに昨日の日記を直させるのではなく,教科書の6つの書き出しの中で「中身が見破られない書き出しはどれか」ということについて,意見をいわせても良かったかなと反省した。)

 

 

帰りの会で

「今日の宿題は日記です。今日の国語の時間,書き出しの勉強をしたね。最初の1文で,日記の中身が先生にばれないように工夫してくださいね。」と,指示。

 

次の日の子供の日記から

   「あぶないから,かえせ。」

          学校の帰り道,黒いものを見つけました。

   「今日も,行きたくない。」わたしは,今日もまた歯医者に行って歯をぬ   くことになっていました。

            わたしは,ランドセルからプリントケースを取り出しました。

      「あっけえ」

             おととい楽しいことがありました。

              プシューッ

     「うわあ,やったあ。うれしい。」と,小さな声でさけんだ。

     「よっしゃあ。後ろの席だ。」と,心の中でさけんだ。

            ピンポーン「入るよお。ちひろまだがあ。」

      「うわあ,やったあ。はじめてのマルAだ。」

       「やったあ。はいった」上の細いところに玉がささっています。

               今日学校の帰り道,道で何かが動いているのが見えました。ぼくは近づいてみました。先生,何だったと思いますか。

       「いたいたいた。よっしゃあ,ゲットだぜ」

       「鈴木さん。中に入ってください。」言われた時,むねがドキッとした。

 

 

38名中35名提出。

そのうち,15名が「第1文で,中身を見破られないように」ということを意識して,昨日までの「パターン化した書き出し」から,明らかにちがう書き出しをしてきた。

15名という人数を,多いととらえるか少ないととらえるか評価が分かれるところだと思う。しかし,「何かしら,書き出しの第1文を工夫しようと努力した跡」が見られたことも事実である。

これらの書き出しを,誉め,紹介していくことにより「書き出しの工夫」は,徐々にクラスのみんなに広まっていくだろう。そしてまた,「新たな工夫」を発見する子も出てくるだろう。

まずは,書き出しの工夫。

少しずつ,少しずつ……。

戻る