高山植物の盗掘とそれをめぐる状況

 皆さんはヤクシマリンドウと言う高山植物をご存知でしょうか。屋久島のみに生育している植物で、岩の割れ目に生えると言う、特異な性質を持っています。下の写真を見てもらえば分かるのですが、大変に美しい花です。しかしこのヤクシマリンドウは今、絶滅への道を歩みつつあります。

 1994年の時点でこのヤクシマリンドウは危急種に指定されていました。しかし1997年の時点で絶滅危惧TA類になってしまいました。下の表をご覧ください。

国際自然保護連合カテゴリー(新カテゴリー) 日本自然保護協会カテゴリー(旧カテゴリー)
絶滅(EX) 絶滅(Ex)
野生絶滅(EW)  
絶滅危惧 絶滅危惧TA類(CR) 絶滅危惧種(E)
       絶滅危惧TB類(EN)  
絶滅危惧U類(VU) 危急種(V)
準絶滅危惧(NT)  
情報不足(DD) 現在不明種(U)

1994年のデータは日本自然保護協会カテゴリーによるもので、1997年のデータは国際自然保護連合カテゴリーに拠ったものです。国際自然保護連合カテゴリーに統一してみると、わずか3年で絶滅危惧U類から絶滅危惧TA類になってしまっています。絶滅危惧TA類の上には一応野生絶滅と言うカテゴリーがありますが、実質絶滅危惧TAを超えたら絶滅でしょう。これほど大きく減少した原因は、人の盗掘です。自分の家において見たい、商業的に利用するなど、いずれも身勝手な理由で心無い人達がこの様な高山植物を減少させたのです。

 高山植物の盗掘の例としてヤクシマリンドウを挙げたのですが、この様なことは高山植物全般に起こっています。北海道で言えば有名どころでは種の保存法に指定されているレブンアツモリソウアツモリソウキリギシソウヒダカソウなどがあります。しかもこれらの高山植物を守る有効な手段ははっきり言ってないのが現状です。法律では保護されていますが、要は現場を押さえられなければ良いわけで、高山にある高山植物に関して、一部ではパトロールを行っているところや入山禁止と言った措置をとっているところもありますが、現場を押さえるのはかなり困難と言って良いでしょう。先に挙げたヤクシマリンドウは絶滅危惧TA類で、しかも国立公園内特別保護区ここでは地面に落ちている小石や葉っぱを取っただけで罰せられる)にあるにもかかわらず激減しているところを見ると、法による規制では盗掘は防げないことが分かると思います。

 しかも、その法律自体もけっこう抜け穴があります。上で挙げた種の保存法ですが、国内で絶滅の恐れのある野生動植物は「国内希少野生動植物」と呼ばれ、これは商取引は認められていませんが、学術目的、及び繁殖の目的なら採集、捕獲が認められています(その動植物を育てるのに十分な環境がないと許可は下りませんが)。そして国内希少野生動植物のうち、1 商業的に個体の繁殖をさせる事ができるもの 2 国際的に協力して種の保存を図ることとされていないもの この2つの条件を満たすものは「特定国内希少野生動植物」と呼ばれ、学術目的や繁殖の目的での採集、捕獲はもちろん、商取引も申請すればすることができます。これが何を意味しているかと言うと、たとえ国内希少野生動植物であっても繁殖目的の採集は認められているために採集が相次ぎ、そうして採集されたものを使って繁殖法を確立し、すぐに商取引可な特定国内希少野生動植物になってしまうと言うことです。商取引可となってしまえば盗掘に拍車がかかるのは自明なことです。

 この様に高山植物をめぐる状況は極めて厳しいものです。私たち一般市民になにができるのかは私にも分かりませんが、他人任せにせず、自分で何が出来るのかをきちんと考え、そして行動して行かなければならないのではないでしょうか。

参考資料 種の保存法 植物版レッドリスト(いずれも環境庁のホームページから)

文・写真 H.I

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