高山植物について

以前このコーナーで高山植物を取り上げたことがあるのですが、覚えているでしょうか?そのときはとりあえず種の保存法を見て、いかに高山植物を守るのに不充分であるかを述べたのですが、今回は高山植物のもつ性質、そしてもう少し広い視点から以下に高山植物が危機的な状況にあるかを述べたいと思います。

 まず………高山植物とは?

 「高山植物」に対する厳密な定義はありませんが、一般的には、本来の生息地が高山帯にある植物、と定義されています。そして「高山帯」は、ハイマツ帯以上を指す場合と、ハイマツ帯より上を指す場合がありますが、より一般的なのは前者です。ちなみにハイマツとは、山の上の方で生えて来る、名前のように這っている樹高1〜2mくらいの松です。

高山植物が住むところ→当然高山

高山の環境って? 貧栄養(土に栄養が少ないこと)・強風・低温→生育するにはすごく過酷な条件

高山植物はそう言った過酷な条件で生育することに成功した数少ない種達

しかし!その代償として、高山植物は環境の変化に極めて弱くなってしまった

どう言うことかというと………

普通の土地に生育する植物 土地に適応するするのにそれほど力を必要としない→少々の環境の変化、または他の植物との競争に対して力を残すことができる

高山植物 高山は過酷な条件のため、そこに適応するには完全に体をその環境に合わせなくてはならない→環境手に適応するだけで精一杯でほかのことに力が割けない=環境の変化に極めて弱い

その他の高山植物の特徴

特殊な環境に適応した種であるため、固有種が多い

美しい花を咲かせることが多い(もっとも、これが盗掘を引き起こす要因にもなるのですが…)

☆ 高山植物の危機

その高山植物ですが、前のレポートでも述べたように今は非常に危機的な状況に陥っています。

→原因は?

環境の変異

人為的影響

の2つが考えられますが、実質的には人為的影響、特に絶滅の危機に瀕している種の大半は盗掘によるものです。では以下でそれぞれが具体的にどんなことを指すのか見ていきましょう。

  • 環境の変異

気温の上昇・降水(雪)量の変化などがあげられます。北海道では特に、標高だけ見ればまだ樹木が成立できる場所でも、気温の低さや積雪量などにより樹木が成立できず、高山植物地帯(お花畑とも言います)になっているところが多いのです。そのため気温が上昇したり積雪量が変化すれば、すぐにも樹木が侵入をはじめ、お花畑は消失してしまいます。

  • 人為的影響

登山道の整備・踏みつけ

登山道ができる→植物はそこで生育できなくなる

踏みつけ

    一口コラム雪は多いほうが成長しやすい?

さて皆さん、となりで積雪量が高山植物の生育に影響すると書きましたが、雪が多いと少ないのではどちらが植物にとって生育しやすいか御存知ですか?なんとなく、雪が少ないほうがいいような気もしますが、実は雪は多いほうがいいのです。雪はたくさん積もれば保温材として働き、植物を低温から守る働きをするのです。つまり、雪が少なければそれだけ生育条件として厳しくなり、樹木は生えることができないが、もともと厳しい環境に生きている高山植物は生き残れる、と言う具合です。と言うか、高山植物はもともと樹木と競争しても勝てないので最初から雪の少ないところに生えているのです。それが、風が弱まったり積雪量が増えたりすると雪が地面に多く積もりますから樹木などが進出してきてしまうと言うわけです。

直接植物を踏む→植物は死んでしまう(先ほど述べたように高山植物は環境の変化に極めて弱い)

直接は植物を踏まない→植物のまわりの土が踏み固められることによる裸地化(植物が一切生えていない状態)で、土砂の侵食・移動・堆積が起こり、植物の更新・定着が阻害されてしまいます。

盗掘

現在絶滅危惧類にリストされるような高山植物の減少の原因は、殆ど言っていいほどこの盗掘による

具体的な種名 北海道ではキリギシソウ、ヒダカソウ、レブンアツモリソウなど

→ただし、盗掘されるのは上記のような希少種だけではない!

  高山植物の捉え方 盗掘者層・動機
以前 希少価値のあるもの 一般登山者・アマチュア・マニアの「出来心」
現在 経済的資源 プロによる「計画的な犯行」

ミニミニ高山植物ずかん
キバナシャクナゲ

見ての通り非常にきれいな花で、高さも20〜40cmですが、木の仲間です。だいたい6〜8月頃に花を咲かせます。北海道や、本州北・中部の高山へ行けば見られるでしょう。

では、どのように盗掘されるのか?

→はっきりとは分かっていませんが、以下の@〜Bのように行われるのではないかと言われています

@春のうちに根回しをしておいて、秋に掘り起こす

A植物群落をマット上にはぐ

B希少種に関しては山の斜面を数十cm間隔で縦横にまさに「しらみつぶし」に調べて採取する

これらからも分かるように、盗掘がプロ化するに連れ、その手口もかなり悪質になってきています。

なぜ盗掘が起こるのか?

高山植物を欲しがる人があとを絶えないため:こう言った人達は、暗に盗掘(山採りとも言います)を期待して希少な植物を注文します。また日本人の傾向として、栽培されたものよりも、生産地のはっきりする山採りされた植物を好むようです。

では高山植物の保護はどう行えば良いか?

できるだけ長期の調査で、自然のどんな変異が植生にどのような影響を与えているかを発見する必要があります。固有種や絶滅危惧種などで、木本(要するに木です)の侵入が原因の場合は、木本の排除も考えなくてはなりません。それほど急激に高山植物を減少させる要因ではありませんが、根気強く調査を続けて行く必要があります。

登山道の整備・踏みつけ

登山道の整備について

新しい登山道を作る→極力避ける

既存の登山道を整備する→進めるべき 何故か? 登山道がきちんと整備されていないと、登山者が登山道の脇を歩くようになり、高山植物の踏みつけがかえって進むから

踏みつけについて

特に重要な高山植物があるところ→柵を作る(理想的には全ての場所に作れれば良いのですが、費用の面から不可能です)

それ以外の場所→ネイチャーセンター等での教育によって、登山者のモラルの向上を図る

上記の対策で対応できないときには、入山禁止等の措置も考える

盗掘

もっとも高山植物を減少させているものであり、対策は急務です。対策としては以下の3つに大きく分けられます。

@盗掘の防止

A流通の規制

B高山植物に対する需要をなくす

@について

監視カメラの設置・監視員のパトロール・入山禁止

最初の2つは北海道アポイ岳で、最後の1つは崕山で実施されています。

→ただし、全ての山でこれらのことを実施するのは不可能です。現実的には特別に貴重な種が存在する場所でのみ行われます

ミニミニ高山植物ずかん2
コケモモ

先ほどのキバナシャクナゲよりさらに小さく、高さは5〜15cmですがやっぱり木の仲間です。沖縄を除くほぼ日本全土に生育しています。かわいらしい小さな花が特徴的です。また実はジャムや果実酒などに用いるそうです。花は6〜7月頃に咲きます。

法律による規制

現在、「自然環境保全法」、「自然公園法」、「文化財保護法」、「種の保存法」などによりある程度の規制がされています。ただし、これらの法律に共通して言えることは現行犯を押さえなければ意味が無いと言うことです。ですから役割としては、上記の活動の法的根拠を与える、といったところが限界でしょう。

栽培種の普及

現在、なし崩し的に多くの種が栽培され流通していますが、それらの種に関しては栽培技術を普及させれば、自生地への圧力は低下すると考えられます。ただし、まだ栽培技術の確立されていない種に関しては断固栽培を阻止しなければなりません。と言うのも、栽培技術が確立していなければ、種や株を得るのに山採りせざるを得ないからです。

Aについて

法律による規制

現在@で挙げた法律のいくつかで規制がされていますが、まず規制の対象になっている植物が少なすぎで、あまり役に立っていません。規制の対象となる植物種を増やせば効果はあるでしょう。また、高山植物を扱う店への定期的な立ち入り検査も是非盛り込まれて欲しいところです(書類だけではごまかしがきくから)

Bについて

TV・雑誌・ネイチャーセンター等を生かしたモラルの普及、法的に規制のかけられている高山植物を所持していたときの罰則強化が考えられます。上でも述べたように、この需要さえ無くなってしまえば盗掘の問題は全て解決するのですが、これは個人個人の心の持ちようですから、もっとも解決しづらい部分でもあります。

まとめ

高山植物は環境の変化に極めて弱い種ですが、特に人為的影響による減少に歯止めがかけられない状態

高山植物の保護は急務

参考資料 高山植物等生育実態調査報告書要約版 ()北海道開発問題研究調査会

       自然公園特定地域保全対策調査報告書 北海道

       保全生態学入門(文一総合出版) 鷲谷いづみ・矢原徹一 共著

       高山植物と「お花畑」の科学(古今書院) 水野一晴

文・写真 H.I

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