日本列島クマ事情

日本には2種のクマが生息している。ヒグマツキノワグマである。分布域も性格も異なる両者だが、どちらも人間との間に様々な問題が起きている。そこでそれぞれの近年の状況をまとめてみたい。

まずヒグマについて。ご存知のように、ヒグマは北海道に生息する日本最大の陸上動物である。オスで体長22.8m、体重150300kgにまで成長する。森林伐採などによる生息域の分断・縮小が原因で個体数が減少し、現在は約2000頭と言われている。その一方で、人里での目撃例は増加している。

考えられる理由の一つに、19903月から春グマ駆除を禁止したことが挙げられている。これによって、人間に追われた経験がなく、人間に対する警戒心の薄い若グマが増加した。特にオスはメスより行動範囲が広く行動も大胆なため、しばしば人里に現れ、駆除されてしまうことがある。

もう一つの理由は、一部の観光客のルールを無視した行動である。ヒグマを見かけると安易な気持ちで餌をやったり、あるいはキャンプにきて残飯をきちんと処理せずに立ち去り、結果として食物を提供することになったりするためにヒグマが過度に「人慣れ」してしまう。

そうして人間の生活圏付近で行動するようになったヒグマが農作物を荒らし、さらに出会った人間を襲って傷つけ、時には殺してしまうという悲劇が起こる。

一方、ツキノワグマである。成獣で普通体長1.4m、体重80kg前後になり、本州、四国、九州合わせて推定で13000頭が生息している。ただし、九州に関しては環境庁が既に絶滅を宣言しており、時折目撃情報はあるものの、確実な生息の証拠は見つかっていない。また四国でも、現在では徳島と高知の県境に位置する剣山を中心に20頭前後しか生息していないと言われており、絶滅が危ぶまれている。その他の多くの地域でも、古くは造林やリゾート開発、最近では高速交通体系の整備によって生息地が分断されている。全体の傾向として、東・北日本では奥山、里山で天然の餌を採り、奥山で越冬するものがほとんどであるのに対し、西日本(西中国)では里山、集落で行動し、越冬もその近辺で行ういわゆる「里グマ」が多い。そのため西日本での被害が特に大きい。

主な被害として、樹皮剥ぎ(一般にクマ剥ぎと言われる)や農作物被害、養蜂被害、養魚被害、畜産被害(特に家畜用飼料の食害)があり、ヒグマより小型とはいえ、時に人身被害も起きる。また西日本では、前述のように里グマが多く、山あいの村などではたびたび人家の軒下や屋根裏を徘徊するので、それによって住民が受ける精神的被害も深刻である。

こういったクマ被害の対策として、以前は専ら捕殺や有害駆除という方法がとられていたが、最近では捕獲したクマに唐辛子スプレーなどで「お仕置き」をし、人間の怖さを教えて山に返すという方法と合わせた共生型の対策をとる市町村が増えている。再び人里に戻ってくる個体もいるものの、かなりの効果があることが報告されている。

両者に共通しているのは、個体数が減少しているにもかかわらず人間への被害が出ていること、人身事故を起こすために他の野生動物の場合と比べて問題解決が困難になっていることである。行政やマスコミは必要以上にクマへの恐怖を煽らないよう努める一方で、保護を考える際には被害を受けている住民に配慮した対策を立てることが重要だろう。

文 K.I

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