春の草あれこれ

日差しも日ごとあたたかくなり、緑萌ゆる季節になりました。

北海道の代表的な春の植物について、いくつか。

ÿ エンゴサク(延胡索)

語源:元々は“玄胡索”であった

玄〜塊茎の皮の色が黒い(玄は黒の意)
胡〜胡国に生じるから
索〜その苗に紐のようなものが交わるため

が、「玄」は真宗の死後につけられた尊称であるためこれを避けて延の字に書き改めたとされている

食:花を天ぷらにして色を楽しんでも。

 

ÿ エンレイソウ(延齢草)

語源:胃腸薬、催吐剤としての効能によるという説もあるが、「齢を延ばす」ほどではない。アイヌ語の「エマウリ」が徐々にエンレイに転訛して、それに縁起のよい延齢の字があてられたと。

食:夏につく卵形の果実は多汁で甘酸っぱい

薬:強心剤↓ (強心剤に関しては下のコラム参照)

毒:根茎にトリリンという成分が嘔吐の作用のほか、心臓を衰弱させる(心拍数を落とし血圧低下、ショック死を招く)。ただし焼いたものや地下茎はポートランド葛根として食用にされていたらしい

強心薬とは:心筋にダイレクトに作用して、心臓の活動を活発化する薬。収縮力が低下した状態、すなわち心不全の治療に用いられる一方、心拍動を低下させる作用があり、以上に速くなった心臓の動きをゆっくりにさせて正常に戻すという効果もある。

 

ÿ フクジュソウ(福寿草)

語源:別名、元日草・朔日草(ついたちそう)の名もあり、本州以南では旧暦元日のころ地上に姿を現し正月の飾りとして用いられたので、めでたい福寿の語にあやかってつけられたと。(「福寿」とは、幸福と長寿の意味で、寿は五福(人生の五種の幸福)に数えられる)

毒:根や根茎に有毒成分シマリン・アドニトキン。シマリンは強心配糖体であり、心室細動の後に長時間の無収縮を起こす

薬:根を日干しにしたものは強心・利尿効果  但し根を煎じて飲んだ人が死亡した例もある

 

ÿ ナニワズ (難波津)

語源:これによく似たオニシバリという植物の長野県の方言ナツボウズが転訛したという説が。また、フクジュソウなどよりも早く花をつけるため、長い冬ごもりから解放された人々に、春到来の歌

難波津に咲くや此の花冬ごもり 今を春ベと咲くや此の花 (百済の王仁)

の一首を思い出させるからとも述べられている。

 

ÿ タンポポ(蒲公英)

語源:別名、つづみ草とも呼ばれる。蕾の形が鼓に似ているからと。タンタンポポ・タータンポ・タンポポンなど鼓の音を真似た方言が各地にある。また英語のdandelionやドイツ語のLowenzahnは、フランス語の dent de lion すなわちライオンの歯という語の転じたもので、その葉が羽状に決裂しているさまを例えたものだといわれる。

食:根のコーヒーなどは有名。開花前のそう葉(?)を採り、茹でておひたしや胡麻和え・豆腐和えなどにして食べるらしい。少し苦味があるけれども、これは消化不良などに効果があるとされる。実はセイヨウタンポポのほうがうまいらしい。

薬:発汗・解熱・健胃薬として重要な民間薬。特に便秘がちな消化不良に効果あり、他に黄疸・肝臓病などにも。催乳作用や抗菌作用などもあるらしい。

 以上、春の草の和名の語源、および人の生活への有用性について簡単にまとめました。

身の周りの植物が、どのようにしてその名で呼ばれるようになり、またどのように使えるかを知るとまた見方が変わってくるのではないでしょうか。そこには先人たちの知恵や地方の文化などの独自性も深く関わってくると思います。また、人体の生理的な調節システムに対して作用する成分というのは、使い方次第で毒にも薬にもなるのだと思います。南米のシャーマンのように、植物に対してもっと総合的な知識を深めたいと思います。あるいは、中世の、薬草・毒草の使い手であった魔女のように。

 参考文献

深津 正 『植物和名の語源』 八坂書房
北海道農業試験場彙報第
52巻 『北海道に於ける食用野生植物』
清水 岑夫 『生薬
101の科学』 講談社 BLUE BACKS
和田 宏 『図解猛毒植物マニュアル』 同文書院

文 Y.S 写真 H.I

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