先駆種と極相種

 

 森林を構成する樹木の種数を熱帯・亜熱帯地域と比べると、北海道にはほんのわずかな種類の樹木しか生えていないのだが、それでも木の生き方は千差万別という印象を受ける。実の大きさや数、葉の大きさなど一目ですぐにわかる量的違いもあれば、どのぐらいたくさん生えているか、どんな環境を好むのか、など手に取るだけでは比べられない質的な違いもある。ある樹木が先駆種か極相種かという分け方は、その中でも曖昧でとても恣意的なもののひとつである。

 一般的に、先駆種は伐採跡地や大木が倒れてできるギャップなど光が十分にあたる場所でしか発芽しないのに対し、極相種は木に覆われた暗い環境下でもでも発芽でき、耐陰性が高い。先駆種の成長は速く、成長が遅れたものは十分な日光が得られずに枯れてしまうので、しばしばギャップは単一の樹木で埋められてしまう。そして先駆種が寿命で枯れると、そこにできた小さなギャップに極相種が生えてくるのである。その他に熱帯では以下のような違いも見られる。

 

  先駆種(陽樹、耐陰性が低い、二次林種)

・実生(稚樹)は林冠下では生存できないし、決してそこでは発見できない。

・種子は小さく、幼年期から多少とも継続的に多産する。

・埋土種子は多くの種が持つ。

・寿命はしばしば短い。

  極相種(陰樹、耐陰性が高い、原生林種)

・実生(稚樹)は林冠下で生存できる、実生バンクを形成できる。

・種子はしばしば大きく、小産、ほとんど最高樹高に達した個体のみが毎年あるいはそれより少なく生産を行う。

・埋土種子はわずかな種のみ。

・寿命は非常に長い場合がある。

 私の森歩きの経験から考えられる限りでは、北海道ではトドマツ・エゾマツが極相種で、ミズナラ・シナノキ・カツラなどは先駆種のはずなのだが、いくつかの特徴は上の記述と合致しない。トドマツは耐陰性が高いが、種子はとても小さくて多産である。そしてミズナラは大きな種子をつけるのである。

 しかし、これは熱帯と亜寒帯である北海道の気候の違いからくるものだと簡単には結論づけないでほしい。北海道の森は、以前の氷期・間氷期の繰り返しによって形成された森なのである。このときにいち早く侵入した樹木が、今の北海道に見られるのである。進化という尺度で眺めてみれば、植物界のパイオニア(先駆種)の子孫たちが繁栄しているのである。

文 H.S

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