自然環境保全法を読む

この文章は北大自然保護研究会の例会の、第2回冬の勉強会として発表されたものです

 今回は自然環境保全法について、その詳細を説明する。

公布:1972年(昭和47年)6月22日

目的:特に必要と思われる自然環境を保全し、将来に継承する

内容:その自然環境の状態に応じてゾーニングを行い、ゾーニングに応じて保全の仕方が変わる。その基準や名称は以下のとおり

原生自然環境保全地域

自然環境保全地域

都道府県自然環境保全地域

原生自然環境保全地域

指定条件:その自然環境が人の影響を受けない原生状態を維持していて、なおかつ政令で定める面積以上の大きさをもつ公的所有の土地で、特に保全を必要があること。

現在の指定地

地域名 位置 面積(ha) 指定年月日 特色 備考
遠音別岳 北海道斜里郡斜里町&目梨郡羅臼町 1895 S55.2.4 ハイマツを主体とする高山性植生 立入制限地域なし
十勝川源流部 北海道上川郡新得町 1035 S52.12.28 エゾマツ・トドマツを主体とする亜寒帯針葉樹林 立入制限地域なし
大井川源流部 静岡県榛原郡本川根町 1115 S51.3.22 ツガを主体とする温帯針葉樹林、亜寒帯針葉樹林 立入制限地域なし
南硫黄島 東京都小笠原村 367 S50.5.17 木生シダ雲霧林の発達する温帯・亜熱帯植生、海蝕地形、海鳥 立入制限地域
屋久島 鹿児島県熊毛郡屋久 1219 S50.5.17 スギを主体とする温帯針葉樹林、イスノキ・ウラジロガシ等を主とする照葉樹林 立入制限地域なし
合計 5地域 5631      

なお、所有形態はすべて国有地(国有林)である。

禁止行為

  1. 建物などを新しく作ったり、すでにある建物を改築したり増築する事
  2. 土地を開墾するなどして、土地の形質を変化させる事
  3. 鉱物を採掘し、又は土石を採取する事
  4. 水面を埋め立て、又は干拓する事
  5. 川や湖沼の水位や水量を変化させる事
  6. 木や竹を伐採したり、傷つける事
  7. 木や竹以外の植物を採取したり傷つける事、または落ちている葉や枝を拾う事
  8. 木や竹を植える事
  9. 動物を捕まえたり殺したりする、又は動物の卵を採取したり傷つける事
  10. 家畜を放牧する事
  11. 火を使う事
  12. 屋外において物を集積したり貯蔵すること
  13. 車馬若しくは動力船を使用し、又は航空機を着陸すること
  14. それ以外でも自然環境を破壊する可能性のある行為で、政令で定めるもの

禁止行為の例外

  1. 学術目的などのために環境庁長官が特別に許可した者の行為(ただしその目的が総理府令で定める基準に適合しなければ許可は出してはならない)
  2. 災害時の緊急措置
  3. その地域の保全事業
  4. その地域が指定される以前に着手されていた行為
  5. 通常の管理行為や軽易な行為で自然環境に影響がなく、総理府令で定めるもの

その他:自然公園法の「国立公園」等の自然公園、森林法の保安林との重複指定はできない。

立入禁止地区

原生自然環境保全地域内に設けられ、そこには何人たりと立ち入ってはならない。ただし、上記の禁止行為の例外のa.,b.,d.を行うもの、その他環境庁長官がやむをえないとして許可を出した者は立ち入る事ができる。

自然環境保全地域

指定条件:原生自然環境保全地域以外で、以下の6つのいずれかを満たすもの

  1. 高山植生又は亜高山植生が大部分を占める森林又は草原で、1000ha以上の面積をもったもの
  2. 優れた天然林が大部分を占める自然で、100ha以上の面積をもったもの
  3. 特異な地質・地形・自然現象を持つもので、10ha以上の面積をもったもの
  4. 海岸、湖沼、湿原や川で、そこの動植物を含む自然環境が優れていて、10ha以上の面積をもったもの
  5. 海で、その動植物を自然環境が優れていて、10ha以上の面積をもったもの
  6. その他、上記の5つと同等の自然環境を有し、10ha以上の面積をもったもの

現在の指定地

北海道大平山・青森県&秋田県白神山地・岩手県早池峰・岩手県和賀岳・栃木県大佐飛山・群馬県利根川源流部・愛媛県&高知県笹ヶ峰・熊本県白髪山・鹿児島県稲尾岳・沖縄県崎山湾 計10地域21593ha

その他:自然公園法の「国立公園」等の自然公園との重複指定はできない

特別地区

指定条件:自然環境保全地域の中でも特に保全を図るべき地区

禁止行為

  1. 原生自然環境保全地域における禁止行為の1.〜5.
  2. 木や竹を伐採すること(ただし、事前に定めておいた限度を超えなければ無許可で伐採できる)
  3. 地区内に存在する湖沼や湿原のうち、環境庁長官が指定するものおよびその1キロメートル以内で、その湖沼や湿原そのもの、又はそれに流れ込む川などに汚水等を流すこと
  4. 環境庁長官が指定する区域で牛馬や動力船を動かすこと、又は航空機を発着させること

禁止行為の例外

  1. 原生自然環境保全地域の禁止行為の例外のa.〜e.(ただしa.の許可の基準は原生自然環境保全地域よりゆるく、d.に関しては6ヶ月)
  2. 別の法令などで国が行う事業で、自然環境を破壊することがなく、総理府令で定めるもの
  3. 森林法で定められる保安林等の区域内で、森林法で許可を受けている行為をすること

野生動植物保護地区

指定条件:環境庁長官が、特別地区内における特定の野生動植物の保護のために特に必要があると認めるとき

禁止行為:指定された動植物種(動物の卵含む)をとったり、殺したりすること

禁止行為の例外:特別地区の禁止行為の例外のa.,b.

海中特別地区

指定条件:自然環境保全地域の中でも、特に保全を図るべき海域

禁止行為

  1. 工作物を新しく立てたり、すでにある建物を改築したり増築すること
  2. 海底の形質を変化させる事
  3. 鉱物を掘採し、又は土石を採取する事
  4. 海を埋め立て、又は干拓する事
  5. その海にいる動植物のうち、環境庁長官が指定するものを殺したり捕まえたりすること(←特別地区の野生動植物保護地区と同じ)
  6. 物を係留すること

禁止行為の例外

  1. 非常災害のためにやむを得ず行う行為
  2. 漁具の設置のために行う行為
  3. 当地区の保全事業のために行う行為
  4. 別の法令などにより国などが行う事業で、自然環境を破壊することがなく、総理府令で定めるもの
  5. 通常の管理行為や軽易な行為で、自然環境を破壊することがなく、総理府令で定めるもの

普通地区

指定条件:自然環境保全地域において、特別地区、および海中特別地区以外の地区

禁止行為

  1. 一定規模以上の建物などを新しく作ったり、すでにあるものを改築したり増築すること
  2. 土地(海底を含む)の形質を変化させる事
  3. 鉱物を掘採し、又は土砂を採取する事
  4. 水面を埋め立て、又は干拓する事
  5. 特別地区内の川、湖沼等の水位又は水量を変化させる事

禁止行為の例外

  1. 環境庁長官の許可をえたもの(自然環境保全地域と比べるとその許可の基準はゆるい。ただし許可を与えるときにある程度の条件をふすことができる)
  2. 森林法で定められる保安林等の区域内で、森林法で許可を受けている行為をすること
  3. 漁具の設置のために必要な行為
  4. 非常災害時の緊急措置
  5. 別の法令などにより国などが行う事業で、自然環境を破壊することがなく、総理府令で定めるもの
  6. 通常の管理行為や軽易な行為で、自然環境を破壊することがなく、総理府令で定めるもの
  7. その地域が指定される以前に着手していた行為(期間無制限)

都道府県自然環境保全地域

指定条件:自然環境保全地域に準ずる自然環境で、保全する必要があると思われる事。ただし、これは国ではなく各都道府県が条例において定める

特別地区・野生動植物保護地区・普通地区における禁止行為・禁止行為の例外:条例で定め、その厳しさは自然環境保全地域における禁止行為・禁止行為の例外の厳しさを超えない範囲で指定できる

その他:自然公園法の「国立公園」等の自然公園との重複指定はできない

罰則

一年以下の懲役又は50万円以下の罰金

半年以下の懲役又は30万円以下の罰金

30万円以下の罰金

20万円以下の罰金

問題点

参考資料

生物多様性センターホームページ(http://www.biodic.go.jp)

文 H.I

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