アメリカ種の保存法を読む

この文章は北大自然保護研究会の例会の、第4回冬の勉強会として発表されたものです

第2,3条 第4条 絶滅危惧種および危急種の決定 第5条 土地の取得 第6条 州との協力
第7条 機関相互協力 第8条 国際協力 第9条 禁止行為 第10条 免除

第2条、第3条の概略

施行:1973年12月28日

目的:絶滅危惧種および危急種の依存する生態系を保全するための手段の提供、その種の保全のためのプログラムの提供、生物種保全のための条約や協定の目的の達成の促進

定義

絶滅危惧種:分布域の全部又は主要部を通じて絶滅の危機に瀕する種。ただし害虫と認定されたものを除く
絶滅危急種:近い将来絶滅危惧種になりそうなすべての種
長官:特に断りがない限り、内務省長官
この種の保存法では、生物を、魚類・野生生物・植物と言うふうに分類する

第4条 絶滅危惧種および危急種の決定

絶滅危惧種および危急種および重要生息地の決定

これから以下に挙げる要因によって絶滅危惧種および危急種の条件に該当しそうな種を、長官が決定する。また種の指定と同時に、その種の重要生息地を決定する

  1. その種の生息域の破壊など(←公共事業などによる)
  2. 商業的、レクリエーション的、科学的もしくは教育的な目的のための過度の利用
  3. 疾病又は捕食(←他の大陸の生物を持ち込んだときなど)
  4. 既存の規制メカニズムの不備(←植物の盗掘などに対しておきやすい)
  5. その種の継続的存在に影響する他の自然・人為的要因

各種決定の確定、および変更

重要生息地の指定:基本的には上記のように長官が定め、また改正を行う。ただし重要生息地としてある地域を認定する利益より、除外(又は指定しない)することによる利益の方が大きい場合はその地域を重要生息地からはずすことができる。利害関係人(つまりその指定により利益・又は損害をこうむる者)が申請する場合は以下の手順を踏む。 利害関係人が長官に対して重要生息地の指定を改正するための申請を出す→長官はその申請の内容が科学的に根拠があるかを判定、判定結果は連邦公報に公表→根拠があると認められた場合、長官はその申請に対しどのように対応するかを表明、またその表明を連邦公報に公表

リスト種の決定・変更:リストとは、後述するように絶滅危惧種等のすべてを記載したものであり、リストに種を載せると言うことは、その種を絶滅危惧種等に指定することである。その決定、変更は長官・利害申請人両方によってなされる

利害申請人による申請 リストへ種を記載する又は削除する申請を出す(長官に対して)→長官が申請内容を見て、科学的又は商業的に根拠があるかどうかを判断。判断結果は連邦公報に公表→根拠がある場合、その種に対する現状把握調査→長官による判断→申請却下or申請許可→申請許可の場合、その申請は長官が出す場合と同様の手続きを経る

長官による申請 リストへ種を記載する・利害関係人の申請を受けて各種変更をするための具体的な規則制定をする場合、まずその申請を連邦公報や専門家、さらにはその申請対象となっている種が存在する地域(州)にその申請を公表する。公聴会開催の意見があったときは必ず公聴会を開催する→公表から1年以内に長官は自分で出したその申請を採用するかどうかの判断をし、公表する。期間は延長することもある。ただし、長官が緊急に指定等が必要であると判断した場合は、公布したその日から効力を生ずる規則を発することができる(240日で失効)

リストについて

長官はすべての絶滅危惧種および危急種およびその重要生息地を記載したリストを作成し、変更などがあった場合は随時これを更新する。また5年に1回は記載されているすべての種に関してランクが適当か、などの調査を行う。

外見が似ている場合

リストされた種とが意見で区別が極めて困難である種が存在した場合、その種も保護したほうが本来保護されるべきであるリスト種の保護が容易になる場合、その種も保護の対象とすることができる。

回復プラン

長官はリストされた種に対して、その現状を回復するためのプランを作り、実行する。その際に、

を決める必要がある。これらを決めたプランが実行されるとき、長官は2年おきにプランの進行状況や実績について報告する必要がある。またプランは実施される前に公表し、一般市民による意見等を受ける必要がある。

モニタリング

長官は、もはやリストに載せる必要がなくなった種に関して、5年間はモニターをする

ガイドライン

長官はこの第4条を効果的に達成するために、ガイドラインを作る。ガイドライン案は一般に公表され、意見を受けなければならない。

州政府に対して

長官が作った規則に対して州政府が反発した場合、長官は自分が出した規則を守らねばならない根拠を示す必要がある。

第5条 土地取得

長官および農務省長官は全米森林システムに対し、リストされた種を保全するためのプログラムを実施するために、他の生物保護のための法律で定めれられる土地取得やその他の権限を臨機応変に行使する必要がある。また土地および水面保全資金法により利用可能とされる資金も、上記の目的のために使用することができる。

第6条 州との協力

協力協定

具体的には、リスト種を保全するための適切なプログラムをその州が制定している場合、その州の保全プログラムの実施を援助するために、州と協力協定を結ぶ。ただし、そのプログラムが種を保全するのに適切と判断されるためには、

魚類および野生生物の場合

  1. リストされた非移住性の魚類又は野生生物の種を保全するための権限が州政府にあること
  2. そのプログラムが長官に送付されていること
  3. それらの種を保全するための調査を行う権限が州機関にあること
  4. 州機関がそれらの種の生息地などを取得するプログラムを作る権限を有すること
  5. 種をリストに載せるのに際し、市民参加のための規定が設けられていること

このA.〜E.すべてが満たされるか、C.〜E.が満たされてさらに最も緊急に保全プログラムを必要とすると長官および州機関が同意する種について、直ちに配慮するプランが含まれていること が条件。

植物の場合

魚類および野生生物の場合におけるD.を除いたすべてが満たされること、またはC.およびE.が満たされてさらに最も緊急に保全プログラムを必要とすると長官および州機関が同意する種について、直ちに配慮するプランが含まれていること が条件。

資金の配分

長官は州を援助するために、資金を配分する。資金の配分を決定する際、以下の事項が考慮される。

  1. 絶滅危惧種などを保護するためのアメリカの国際責務
  2. 資金援助をしようとする州の準備体制
  3. 州内の絶滅危惧種の数・回復の可能性
  4. その州内の絶滅危惧種などにどれぐらい危機が迫っているか
  5. その州内の、リストに記載されそうな種をモニタリングする重要性
  6. その州内の、リストからはずされた種をモニタリングする重要性

A.はどういうことかというと、その州に存在する絶滅危惧種などが、どのくらい国際的に生物を保全する条約(ワシントン条約など)に関係しているかによって資金の投入額が違ってくると言うことである。当然国際的な条約にかかっている種が多く存在すれば、その州により多くの資金を投入することがアメリカの国際責務を果たす事になると言える。

協力協定の内容

長官および州によって行われるべき行為

リスト種の保全により予想できる利益

それらの行為の見積もり費用

連邦政府と州の、保全に関する費用の負担割合(ただし、連邦政府側の負担は見積り額の75%を超えてはならず、またある一つの種の保全に関して2つ以上の州と協力協定を結ぶ場合、その限度を90%まで高められる)

州プログラムの審査

長官がこの条内でなす行為は、1年おきに長官が監査する。

州法との関係

この種の保存法により禁止された行為を許可する州法や、逆に免除等を規制する州法は無効とする。

第7条 機関相互協力

連邦機関行為および協議

各連邦機関は、その連邦機関の承認や資金提供、もしくは実施される行為(これを連邦行為、と言う。日本における公共事業のようなもの?)が、リスト種の生存を脅かしたり重要生息地の破壊などを引き起こさないよう保証する(ただし、連邦行為に対して後で述べる免除が認められているときはこの限りではない)。それに加え、各連邦機関は、その行為がリスト種の存在を脅かしたり重要生息地を破壊しそうな場合は、長官と協議する。

長官の意見

上記における連邦機関の代表と長官の協議は、基本的に90日以内で終了すべきだが、お互いの間で合意がなされれば延長することができる。なお長官はその今日の終了後、協議の中での自分の意見の基礎となった情報を関係連邦機関に送付する。協議の結果、その連邦行為が

と判断された場合、長官は

  1. 連邦行為によるリスト種への影響を明らかにしたもの
  2. 影響を最小限にするための手段を明らかにしたもの
  3. 海洋哺乳類の場合、別法に従うために必要な条件を記したもの
  4. A.とB.により明らかにされた措置を実行するために必要な条件を記載したもの

以上を連邦機関に送付する

生物学的アセスメント

上記の協議の進行をスムーズにするため、連邦機関は自らの連邦行為の為の一切の契約をせず、また一切着手していなければ、長官に対して連邦行為を行う地域にリスト種が存在するかどうかの情報を請求する。もし存在する場合、連邦機関が生物学的アセスメントを行う(基本的に180日以内で完了、これは国家環境政策法の一環として行う)。また後述する免除を求めようとするものは、そのものが所属する連邦機関および長官の協力の下で生物学的評価を行うことができる。

先行実施の制限

上記の協議が開始した後、その連邦行為をしようとするものは、その連邦行為を先行実施してはならない(日本でよく見られる公共事業のごり押し・事業の既成事実化の阻止)

絶滅危惧種委員会

この第7条により提出された申請を協議するために、絶滅危惧種委員会が設置される。その委員会の構成員は、農務省長官・陸軍長官・経済アドバイザー委員会議長・環境庁長官・内務省長官・国家海洋大気局長・大統領により指名された、その連邦行為が行われる州の一個人 の7人で構成される。この委員会は最低5人いなければ成立せず、また委員会は構成員のうち5人又は長官により招集される。委員会の会議や記録はすべて一般公開される。委員会には、プライバシー法に従う限りで関係連邦機関などから意見を直接徴収する権限を与えられる。

免除に関して

先ほど協議において違法とされた連邦行為に関しては、その違法とされた決定の免除を求めることができる(協議終了90日以内)。その申請はまず長官により審査され、その後報告書を作成した後、絶滅危惧種委員会において最終決定がなされる。なおこの申請にあたっては、申請者は申請書に、

を書かなければならない。具体的には、以下のプロセスを経る。

長官が免除申請を受理→長官は、申請人が、

事を確認→その申請を委員会にかけ、その申請に対する報告書を作成。報告書では

を記載。これまでのすべての一連の過程はすべて市民に公開される→委員会による最終決定。許可が下りるにはその連邦行為に対し、

が認められ、かつ委員会で連邦行為の影響を最小限にするための方法が確立されたこと、が必要である。最終的に許可が下りるかどうかは委員会の投票により決定する(おそらく過半数)。決定された許可は、基本的にその連邦行為が終わるまで永久的に認められるが、協議対象としなかった種が連邦行為により危機にさらされることが発覚し、長官により許可を永久的にすべきでないと決定したときには永久的ではなくなる。

国際義務との関係

国務長官により、上記の免除申請がなされた60日以内にその許可が国際法に違反であると通達してきた場合は、免除の申請を却下する。

国家安全保障理由による免除

その連邦行為が国家安全保障のためである場合、免除が認められる。

免除決定後

免除が決定したら、委員会はその免除に関わるあらゆる事を公表する。また許可を受けたものはその連邦行為が終わるまで、委員会により決定されたリスト種への影響を最小限にする方策の実施状況を環境の質に関する委員会に毎年提出する。この提出書類は一般市民も閲覧できる。

司法審査

すべての人は、この免除の決定に対して決定から90日以内に司法審査を求めることができる

災害による免除

大統領が重要災害地域と宣言した地域については、1)自然災害の再発防止・人命保護のために必要 かつ2)正当な手続きをとっている余裕がないこと を満たす場合、大統領命令により免除が認められる。

第8条 国際協力

アメリカはリスト種の世界的保護のために、リスト種の存在する国に対し資金援助・条約制定・職員の派遣・調査協力などを行う。また内務長官は、各種条約の責務を実行する。

第9条 禁止行為

禁止行為

リストされた絶滅危惧種である魚類および野生生物については、以下の行為は禁止する

  1. その種を輸出入すること
  2. その種をアメリカ・およびその領海・公海で捕獲すること
  3. 上記B.により違法に入手された種を所持販売引渡運搬輸送船積すること
  4. 商業目的により、それらの種を引渡受領運搬輸送船積すること
  5. それらの種を販売販売のための展示を行うこと
  6. 長官が定めたこれらの種に関する規則に違反すること(これに関しては絶滅危急種も適用される)

リストされた絶滅危惧種である植物の場合は、以下の行為は禁止する

  1. 魚類および野生生物における禁止行為のB.の、領海・公海を除いたもの

禁止行為の例外

魚類および野生生物に関しての禁止行為のA.とF.は、その種が1973年12月28日又はリストに追加された日に於いて捕獲等がすでになされていた場合、適用されない(つまり指定前の捕獲等は認める、ただしその捕獲等は商業目的であってはならない)。

魚類および野生生物に関しての禁止行為A.は、1978年11月10日現在において捕獲等が合理的になされている猛禽類、およびその子供には適用されない。

輸出入の許可

リスト種およびアフリカ象牙材やその加工品の輸出入をしようとするものは、輸出入に関する記録を取り、また長官の代理人が検査にきたときはそれらの種などの目録と記録を検査させること、また長官の要求する報告書を提出すること をしなければならない。

報告

リスト種を輸出入するものが長官の求める供述書や報告書の提出を怠ることは違法である

港の指定

リスト種を指定された港以外で輸出入することは違法である。内務長官は財務長官の許可を得て公聴会を開き、港の指定および変更をすることができる。ただしそれらの種を指定以外の港で輸出入する利益が存在するなどの理由がある場合、内務長官の裁量において非指定港で輸出入ができる。

第10条 免除

許可

長官は、以下の行為を許可することができる

  1. 実験集団(非生息地へ、その種の保全のために放された集団)の設定や維持のために必要な行為などの科学的な目的、又は非影響種の繁殖もしくは存続を高めるための行為であって、禁止行為で禁止される行為をすること
  2. その種の捕獲等が適法な行為に付随して起こり、かつその行為がその種の捕獲等を目的としていない場合における捕獲等をすること(たとえば、適法に行われる公共事業の中で、絶滅の危機に瀕している植物を埋めてしまったり傷つけるなどの行為が考えられる)

ただしB.に関しては、

  1. その捕獲等から予想される影響
  2. また影響を最小化するための資金手当て
  3. その許可の申請をしたものが出した代替案が採用されなかった理由
  4. その他長官が必要であると考える事項

を記載した保全プランを長官に提出しなければならない。長官は一般市民の意見陳述の後、その許可による行為が以下のことを満たしていれば許可をする

  1. 捕獲等が目的でないこと
  2. できるだけリスト種への影響を少なくすること
  3. A.のための適当な資金手当てがなされること
  4. その捕獲等により、野生種への存続や回復に明らかに影響するものでないこと
  5. その他長官が指定した事項をクリアしていること

なお、許可を受けたものが許可条件に従っていないときは許可は取り消される。

種のリストへの記載が、不当な経済的困難をもたらす場合、その種の輸出入に関しては許可を得ることができる。ただし付属議定書T(ワシントン条約か?)にリストされたものの輸出入のために許可されてはならない。これらの免除又は許可申請などは連邦公報に公示され、30日間の意見提出期間を与えられる。

アラスカ原住民

アラスカ原住民又はアラスカ非原住民永住者に関しては、禁止行為等の制限を受けない。ただしリスト種への影響が大きいときには、長官が規則を設けることができる。

クジラ製品について

1973年12月28日の時点で合法的に保有された鯨蝋(クジラの油?)又は完成品鯨骨産物を本法前絶滅危惧種部分と言い、これらのものに関しては輸出入禁止、又は商業活動およびそのための輸送などの禁止のどちらかを解除することができる(ただしその解除が条約[ワシントン条約か?]違反でないこと)

その他

この法律における保護規則・禁止行為は、以下の物品には適用されない。

実験集団

実験集団の定義は先ほど述べた。実験集団には動物の卵・植物の種子なども含まれ、その開放が本当に絶滅危惧種等の存続に必要不可欠であるかを決定する。また基本的にこれらの実験集団もリスト種と同じ扱いを受けるものとする。ただし必要不可欠ではないとされた種でも、長官と連邦機関等の協議の中に関しては絶滅危惧種として扱われる(ただし国立公園システムおよびこくりつ野生保護区システム内においてはこの限りではない)。また必要不可欠ではないとされた集団のために、重要生息地を指定することはできない。

参考資料

ダニエル・J・ロルフ(1997)関根孝道訳 米国種の保存法概説 信山社

文 H.I

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