日本の国立公園
*この文章は北大自然保護研究会の例会の、第6回冬の勉強会として発表されたものです
設立
わが国での国立公園は1931年(昭和6年)に国立公園法が制定された事で第1歩を踏み出し、初の国立公園が1934年(昭和9年)に設立されている(このときの指定のうち、北海道に関するものは大雪と阿寒)。ちなみに世界最初の国立公園は1872年←明治5年 のアメリカのイエローストーン国立公園)。またこの国立公園法は1957年(昭和32年)に自然公園法に引き継がれている。しかしその国立公園を支える行政機構の整備は遅く、実質的に機構が整いだすのは戦後、GHQの指示を受けてからである。
目的
国立公園等に関する事項を定めた自然公園法によれば、「優れた自然の風景地を保護するとともに、その利用の増進を図り、もって国民の保健、休養及び教化に資する事を目的とする。難しい事を書いてあるが、簡単に言えば、よい風景地を保護し、その場所をレクリエーションや野外活動などに積極的に利用して国民に役立てよう、というところである。
国立公園の制度
現在の指定地
利尻サロベツ国立公園・知床国立公園・阿寒国立公園・釧路湿原国立公園・大雪山国立公園・支笏洞爺国立公園・十和田八幡国立公園・陸中海岸国立公園・磐梯朝日国立公園・日光国立公園・上信越高原国立公園・秩父多摩国立公園・小笠原国立公園・富士箱根伊豆国立公園・中部山岳国立公園・白山国立公園・南アルプス国立公園・伊勢志摩国立公園・吉野熊野国立公園・山陰海岸国立公園・瀬戸内海国立公園・大山隠岐国立公園・足摺宇和海国立公園・西海国立公園・雲仙天草国立公園・阿蘇くじゅう国立公園・霧島屋久国立公園・西表国立公園 計28地域 なおより詳しい位置関係・情報はこちらをご覧ください
国立公園(自然公園法)と他の法律の兼ね合い:関係者の所有権、鉱業権その他の財産権を尊重するとともに、国土の開発その他の公益との調整に留意しなければならない
指定:環境庁長官が自然環境保全審議会の意見を聞き、区域を定めて指定する。わが国の風景を代表するに足りる傑出した自然の風景地(海中の景観地を含む)が選ばれ、指定条件は以下のとおり。
解除:環境庁長官が自然環境保全審議会とその公園の存在する都道府県の意見を聞いて決定する
公園事業など:国立公園を保護したり整備する事業などは、環境庁長官が自然環境保全審議会の意見を聞いて決定する。執行も国が行うが、事業の一部は都道府県やその他の者の申し出により環境庁長官が承認すれば都道府県やその他の者がする事ができる。
保護対策:国立公園はその保護すべき度合いに応じ、特別地域・特別保護地区・海中公園地区・普通地域にゾーニングされる
特別地域
自然公園法ではかかれていないが、この特別地区はさらに第1種・第2種・第3種に分類される。それぞれの定義や規定の違いは以下のとおり。
第1種:特別保護地区に準ずる景観を有し、特別地域のうちでは風致を維持する必要性が最も高いところであって、現在の景観を極力保護する事が必要な地域。木の伐採は全体の10%まで認められる。
第2種:第1種及び第3種以外の地域であって、特に農林漁業活動については、努めて調整を図る事が必要な地域。木の伐採は全体の30%まで認められる。
第3種:特別地区のうちでは風致を維持する必要性が比較的小さい地域であって、特に通常の農林漁業活動については原則として風致の維持に影響を及ぼすおそれが少ない地域。木の伐採は規定なし(100%の伐採可能)
禁止行為
ただし公園事業として行われる行為、通常の管理行為や軽易な行為であって総理府令で定めるもの、環境庁長官の許可を受けた者が行う行為、非常災害時に必要な措置を行うための行為、その地区が指定される以前にその地域で行われていた行為(引き続いて行うためには、指定から3ヶ月以内に届出をする事が必要)に関しては、これらの禁止行為の対象とはならない
特別保護地区
概要:景観の維持のため、特に必要であると認められるときに特別地域内に設定
禁止行為
ただし、公園事業として行われる行為、通常の管理行為や軽易な行為であって総理府令で定めるもの、環境庁長官の許可を受けた者が行う行為、非常災害時に必要な措置を行うための行為、その地区が指定される以前にその地区で行われていた行為(続けて行うには、指定から3ヶ月以内に届出をする事が必要)に関しては、これらの禁止行為の対象とはならない
海中公園地区
概要:景観の維持の為、公園の海面に設定
禁止行為
ただし、公園事業として行われる行為、通常の管理行為や軽易な行為であって総理府令で定めるもの、環境庁長官の許可を受けた者が行う行為、非常災害時に必要な措置を行うための行為、漁業を行うのに必要な措置、その地区が指定される以前にその地区で行われていた行為(続けて行うには、指定から3ヶ月以内に届出をする事が必要)に関しては、これらの禁止行為の対象とはならない
普通地区
概要:特別地域、海中公園地区以外の地域
禁止行為
ただし、公園事業として行われる行為、通常の管理行為や軽易な行為であって総理府令で定めるもの、環境庁長官に届出をした者が行う行為、非常災害時に必要な措置を行うための行為、漁業を行うのに必要な措置、その地域が指定される以前にその地区で行われていた行為(期間無制限でその行為を続ける事ができる)
なお、以上の地区・地域において禁止行為をする許可には、環境庁長官が景観などの保護のために条件をつける事ができる
原状回復命令:環境庁長官は必要があると認めるときは、上記の地区等において禁止行為をする許可を受けながらその条件に従わなかったために公園の破壊が起きたときには、その現状を回復させる命令を出す事ができる
報告・立入検査:環境庁長官は、上記の地区等において禁止行為をする許可を得てその行為をするものに対し、その行為の実施状況などについて報告を求め、また、立入検査をさせる事ができる。
集団施設地区:国立公園の利用のための施設(ここでは売店など?)を集団的に整備するため、公園計画で公園内に集団施設地区を指定する。
利用の規制:特別地域、海中公園地区または集団施設地区内において、何人も以下の行為をしてはならない
国の特例:国の機関が行う行為については、国立公園の地区等における禁止行為に該当しても、事前に環境庁長官に協議すれば、許可を受ける必要はない
罰則
1年以下の懲役または50万円以下の罰金
6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金
30万円以下の罰金
20万円以下の罰金
なお、ここでは国立公園のみを扱ったが、国定公園もほぼ同様の規定が適用される。
現在の国立公園の現状と問題点
現在の国立公園全体における各地区の総面積及び比率
なお海中公園地区は比率が低すぎるためここでは図示していない。
特別保護地区:265832ha 第1種:231518ha 第2種:506534ha 第3種:452419ha 普通地域:590667ha 海中公園地区:1112.8ha
現在の国立公園の所有形態
国有地:61.1% 公有地;13.5% 民有地:24.8% 所有区分不明:0.6%
年間利用者数(H8)及び利用形態と特別保護地区の関係
まず国立公園内における地区別面積割合のところでは、伐採が100%可能な第3種・普通地区が全体の半分以上を占める。一番規制の厳しい特別保護地区は全体の13%に過ぎない。
また年間利用者及び利用形態と特別保護地区の関係についてだが、年間利用者数が2000万人を超えてくるところで特別保護地区の割合が全国平均の13%を超えてくるところはなく、またその国立公園が特に貴重な自然を有しながら特別保護地区の割合が全国平均の13%を超えていないところは11ヶ所あり、その利用形態はほとんどがレジャーなどであった。
上記から、国立公園の目的そのものが先にあげたように、よい風景の土地を国民のために積極利用していこうとなっている事が分かると思う。それを反映してか、特別地域などによる禁止行為の許可も安易に下りてしまう。それを示すいい例が、支笏洞爺国立公園における1972年の札幌冬季オリンピックのスキー滑降コース建設のための伐採許可である。この場合、オリンピック終了後自然を復元するという条件で許可が下りた。この土地にどれほどの重要性があったかは分からないが、やはり保護が利用に負けてしまったのである。現在は、一葉の植被は戻ってきている。
では、国立公園全てを特別保護地区にしてしまえば安全なのだろうか?ところが、現実にはそうもいかない。その例を以下に挙げる。
例1) 北海道の国立公園の一つ、利尻サロベツ国立公園特別保護地区で、礼文町が行った自然散策路改修工事(2000年5・9・10月に実施)で、ここにしかないフタナミソウなどの貴重な高山植物が荒らされていた事が発覚した。礼文町は環境庁に対し、あらかじめ申請をして許可を受けて工事をしていたが、許可の際付けられた条件より広く道路を工事したり、木製のはずだった手すりが鉄製になっていたり、工事の際に高山植物を破壊したなど、数々の条件違反を犯しており、観光客や地元の自然愛好家のグループの指摘により明らかになった。礼文町では来春に回復措置を取る予定。 (北海道新聞11月15日の記事を改変)
例2) 北海道の国定公園の一つ、暑寒別天売焼尻国定公園特別保護地区の雨龍沼湿原で、道が行った木道改修工事(2000年8月3日〜11月20日)で小型の重機が入ったために貴重な高山植物が荒らされていた事が明らかになった。重機が入ったために高山植物が押しつぶされたり、抉り取られた土が所々で剥き出しになったりしており、登山者によるとキャタピラの走行跡が木道に沿って幅2〜10mにわたって残っていたという。湿原は過剰に湿っているため植物の遺体などの分解速度が遅く、土壌形成作用も遅い。よって、土の層は1年に1mm以下のスピードでしか形成されない。そのため少し人が踏んだだけでもその再生には何10年もかかる。道は、雪解け後に調査を開始し、今後は重機が入る事が内容にしたいと述べている。 (北海道新聞11月22日の記事を改変)
これに見られるように、特別保護地区で必ずしも開発の手から自然が逃れられるわけではない。復元命令は当然出るが、その復元が必ずもとの自然を完全に復元するという保証はどこにもないのである。法律・規制だけの自然保護の限界が、ここにあると言えるのではないだろうか。
全体を通してみると、国立公園は目的にもあげられるように優れた風景地を指定し、その利用を促進するというものであり、生物種・生態系保全という視点に乏しい。しかし自然が急速に破壊されていく現代において、国立公園に求められるのは野外での余暇活動の場としての機能だけではない。生物・生態系を保全し、それを継承していく役目を担う必要があるのである。そのために、法律の改正はもちろんであるが、私たち一人一人が実際に自分の目で見て、一体国立公園のために何ができるかを考える必要があるのではないだろうか。
参考資料
生物多様性センターホームページ(http://www.biodic.go.jp)
北大自然保護研究会(1996) 大雪山国立公園生態観察ガイドブック〜自然への扉〜
北海道新聞
財団法人前田一歩円財団(1993) 阿寒国立公園の自然1993 上巻
文 H.I