オジロワシ・オオワシの鉛中毒

これは、2001年2月20〜25日に行われた道東ツアーで斜里町立知床博物館に行った際、館長の中川氏に伺ったお話を補足をして、まとめたものです。

ハンターがエゾシカを鉛弾で撃つ   ハンターが鉛散弾で水鳥を撃つ
エゾシカの残滓を放置する カモなど水鳥が咀嚼のために小石と間違えて飲み込む
ワシ類が食べ、胃酸で溶けて鉛中毒になる

 ところで、オジロワシ、オオワシの食性を見てみよう。オジロワシ、オオワシはウミワシの一種である。オジロワシは魚類(メバル、ホッケ、スケトウダラ等の他、川に入ったサケ、マス)と鳥類(カモメ類、ウミウ類などの水鳥、カラス類など)を主に食べる。オオワシはオジロワシ同様魚類と水鳥を主なエサとするが、アザラシの幼獣やノウサギ等の哺乳類も捕食する。そんな彼らがなぜエゾシカの死体に手を出すようになったのだろうか?

 その理由は、漁業のおこぼれを主なエサとしていたのだが、漁獲量の減少で漁業のおこぼれに期待できなくなった、川を遡上するサケの個体数が減ったからだ。前者は乱獲。乱獲は日本だけではなく、ロシアのトロール漁船が根こそぎ取っていってしまった。後者は人工孵化のために川に入る直後にほとんどを捕ってしまうからだ。このように両方とも人間の活動が原因なのだ。お腹をすかせた彼らが見つけたのは放置されたエゾシカの残滓だった・・・

 鉛ライフル弾が問題となる理由は次のとおり。鉛ライフル弾は獲物の体内を貫通する際、押しつぶされ、破片が周囲に飛び散り、獲物に致命傷を負わせる。そのため、オジロワシ、オオワシがエゾシカの残滓を食べるときに鉛の破片を肉と一緒に食べてしまうのだ。オジロワシ、オオワシは鉛を食べて1〜2週間で衰弱死してしまう。

 しかし、鉛を食べれば必ずしも鉛中毒になるわけではない。以下の表に示すように血中濃度が低ければ(食べた鉛の量が少なければ)大丈夫な場合もあるのだ。

血中濃度 鉛中毒の程度 備考
0.1ppm未満 正常値 鉛汚染は認められない
0.1〜0.6ppm 鉛暴露 鉛汚染が認められるが中毒レベルではない

何らかの症状がある場合もある

0.6ppm以上 鉛中毒 鉛中毒によって死亡した

あるいは明らかな症状を呈する

 どの野生動物についてもいえるが、傷病野生動物を人間が捕獲できるのは衰弱して、自分で思うように動けなくなってからである。このような状態になってしまうと、保護されて治療を行っても手遅れで助からないことの方が多い。鉛中毒の治療を行うために捕獲して検査をし、鉛中毒であれば治療を行おうという試みが行われた。しかし、オジロワシ、オオワシの安全第一で捕獲を行うのは難しく、実用的ではない。

  死亡収容数 うち鉛中毒数(羽) 鉛中毒の内訳(羽)
1997年度飛来期

(1997.12〜1998.5)

26

18

オジロワシ  3

オオワシ  15

1998年度飛来期

(1998.12〜1999.5)

33

26

オジロワシ 10

オオワシ  16

1999年度飛来期

(1999.12〜2000.5)

21

12

オジロワシ  3 

オオワシ   9

2000年度飛来期

(2001年2月23日現在)

3 *1

(7) *2

3

オジロワシ  0

オオワシ   3

*1 2000年度飛来期については、死亡原因判明次第更新

*2 (カッコ)内は死亡原因分析中の個体数で、外数

(出展:北海道環境生活部環境室自然環境課)

 例年、鉛中毒の個体は3〜4月に、雪が解ける頃に多数発見される。しかし、今年は1〜2月に例年にないぐらい多数発見されている。このままのペースでいくと1998年度飛来期を上回りそう。2000年11月1日からエゾシカ猟において鉛ライフル弾の使用が禁止されたが、その成果については今年の5月を過ぎ、死因の特定が終わらないとなんとも言えない。

 オジロワシ、オオワシの鉛中毒が初めて確認されたのは1996年。このとき、1995年に原因不明で死亡していた個体も鉛中毒では?という疑いが出た。それで冷凍していた死体を調べると鉛中毒であることが発覚した。

 背景して、90年代中ごろからワシのエサが減り、逆にエゾシカが増えたため有害駆除が行われ、エゾシカの残滓が増えている。

 とにかくエゾシカの残滓をその場に残さないこと。これが一番の対策なのだが、手負いになって逃げてしまった場合は残滓の回収が不可能になる。また、死体が沢やがけから落ちれしまった場合は、残滓を回収しようとする方が危険である。よって、鉛弾の使用自体を禁止した方が確実にオジロワシ、オオワシを鉛中毒から救うことができる。

 2000年11月1日からエゾシカ猟への鉛ライフル弾の使用禁止。

 北海道内ではエゾシカ猟に使用できるライフル弾は、以下の基準のいずれかを満たしたもの。

  1. 鉛成分を含まない物質で作られているライフル弾

  2. 鉛成分の重量比が全体の2分の1以下で、シカへ着弾したときに鉛が飛散しないように鉛を含む部位が、同部位の先端から2分の1以上鋼鉄で覆われている構造になっているライフル弾

 

 このことは、自然は一部分だけを見て対策を考えてはいけないということを示しているように思われます。増えすぎたエゾシカ対策として、駆除をするとワシたちが苦しむことになった。そのワシたちは人間の乱獲によってエサ不足だったためにエゾシカの残滓に手を出した・・・・。この地球上には人間の手が加わっていない自然は存在せず、さらには人間の手によって生態系のバランスは崩れている。つまり、人間の管理の仕方次第では全ての生物が死に絶えてしまう。そのことを肝に銘じて欲しい。

 

参考資料:北海道のホームページ ワシ類の鉛中毒対策について

文 C.K

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