自然に関するマメ知識

今回は知っているとちょっと得をする、マメ知識集です。お題は

  1. 「切り株の年輪から方角が分かる」はデタラメ
  2. 昆虫はなぜ種類が多いのか?

です。それでは早速いってみましょう。

1. 「切り株の年輪から方角が分かる」はデタラメ

 山で道に迷ったときは切り株の年輪を見るといい。日の光をよく受けて成長の良い南側の年輪幅は広いからそれで方角が分かる…………なんて事を誰しも聞いたことがあると思います。もっともらしい説明ですが、本当なんでしょうか?実はこれ、かなりあてになりません。

 木はどの様にして太る(成長する)かと言うと、葉っぱが光を受け、光合成をして栄養物質を作り出し、その栄養物質を、木の中をまっすぐに走る師冠と言う管を通して葉っぱからもらって、使って太るのです。そうすると南側にある葉っぱのほうが光をたくさん浴び、結果南側の幹のほうがよく成長して南側の年輪のほうが幅が広くなる…と言う先ほどの説明が当てはまるような気がするのですが、実はその栄養物質どこの葉っぱで作られても幹には東西南北どの方向にも均等に配分されるのです。この事を裏付ける例として、次のような実験があります。3本の木を用意して、それぞれ葉っぱの部分を4分の14分の24分の3取って成長を調べたところ、いずれの木も幹の太りかたに偏りは見られなかった、と言うことがあります。では木の太りかたに偏りを生じさせる本当のメカニズムは一体なんなのでしょうか。

 結論から言うと、木は自分の幹が曲がったとき、それを修正しようとする性質があり、それにより年輪に太さの差が生じるのです。たとえば傾斜しているところに生えている木は、真っ直ぐに成長することが難しく、しばしば幹が曲がってしまいます。そこでこれを修正し、幹を真っ直ぐにするために年輪の成長を偏らせるのです。ところで面白いことに広葉樹と針葉樹ではこの幹が曲がったときの年輪の成長の偏り方が全く逆なのです。広葉樹では幹が曲がった外側の年輪幅が細くなり、内側の年輪幅が太くなるのに対し、針葉樹では幹が曲がった外側の年輪幅が太くなり、内側の年輪幅が細くなるのです。なぜこのような全く逆の性質を持っているのかはまだ分かっていません。

 いずれにせよ、木の年輪幅から方角を判断すると言うことはあてにならないということはご理解いただけたかと思います。

2. 昆虫はなぜ種類が多いのか?

 昆虫はわれわれにとって最も身近な生き物と言ってもいいかもしれません。冬になってきて虫を見かけることは少なくなりましたが、最近までは雪虫が数多く見られました。その種類数、その数は他の生物を圧倒的に上回っています。ではなぜ昆虫はこのように種類数が多いのでしょうか。体が小さいから?羽があって遠くへ行けるから?子供をたくさん産むから?いずれも正解です。しかしこれらの理由だけでは、現在知られている生物種の中で50を占めると言う昆虫の種類の多さを説明できないような気がします。では昆虫の種類をこれほど多くさせている要因はなんなのでしょうか。
 
その秘密は昆虫のえさにあります。昆虫の中では肉食(他の昆虫などを食べる)よりも草食のほうが多いのですが、草もただ黙って食べられているわけではありません。防御物質(ポリフェノール類やアルカロイドなどの化学物質)を体内で合成して昆虫などに食べられないようにしているのです。

しかも当たり前と言えば当たり前ですが、この防御物質は植物の種類によって違います。じゃあこんな物質を作らない植物を食べればいい…なんてことを言っていたら昆虫はあっという間に餓死してしまいます。そこでこのような防御物質を打ち破る能力を身につける必要があるのです。しかしいくら昆虫でも全ての植物の防御物質に適応するのは無理ですから、ある特定の植物種を選んで、その植物種の防御物質を打ち破る能力を獲得していくのです。するとたまらないのは植物です。せっかく防御物質を作ったのにそれを破られては食べられるばかりになってしまいます。そこで今度は自分の防御物質を破った昆虫に対して専門の防御物質を作ります(前に述べたように全ての昆虫種がこの植物種の防御物質を破れるわけではないから昆虫の種類数も限られてくる)。すると今度は昆虫がその専門の防御物質を破る能力を身につける、そうすればまた植物が新たな防御物質を作り出す………こんないたちごっこをしているうちに例えばAと言う種類の昆虫はBと言う植物に専門化し、この植物しか食べることができなくなります。このような昆虫をスペシャリストと言います。しかしこのAと言う昆虫もBと言う植物の防御物質に専門化したため、他の種類の植物を食べることができません。この現象が草食昆虫全体に広く起こると、餌をめぐっての争いが起きなくなり(すぐ前で述べたように、ある昆虫はある植物のみを食べるようになるから共通の餌がなくなり、争う必要がなくなる)、また専門化するため種類数が多くなる、というわけです。特にこの現象は熱帯雨林でよく見られます。この専門化と言う現象により、昆虫の種類数はとても多くなる、というわけです。

 でもちょっと待ってください。こうは思いませんか?「哺乳類などにも草食獣(シカ、ゾウ、ウシなど)などがいるけど、昆虫に比べたらずっと種類数は少ない。前の説明でいけば草食の動物はみんな専門化できそうなのになぜ昆虫だけがあんなに種類数が多いのだろう?」全くその通りです。それでこの質問に対する答えは、草食獣は特殊化が起きにくい、ということです。草食獣は昆虫より体が大きく、複雑な組織を持っています。そのためある程度近い種類の植物の仲間なら、複数の種類を食べることができるからです。

 ここに挙げた以外にも自然にはまだまだたくさんの秘密が隠されています。機会があればまたご紹介しましょう。

文・写真 H.I

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