第7話 十月五日
 これを出版すれば、途端に私の家に連邦軍の憲兵隊が押し寄せようから、私はこれを編集者に渡したら高飛びする。なにせ、運の悪いことに私は元連邦軍士官だからな。
 分かるだろうが、私は当然レビルを憎んでいる。一年戦争を生き抜いた私は、多くの戦友を失った。すべては、あのレビルの生還と「ジオンに兵なし」の演説のためにである。
 憎むなと言うのが無理な話である。私が、この戦史を書くに当たって、ジオン側の資料に触れれば触れるほど、ギレン・ザビという男がわかる。彼の理想を掲げた時、レビルなどとは所詮民主主義から生まれた能無し軍人の一人に過ぎないのだ。

 さて、この本を、一年戦争の中で死んでいった両軍の戦友のために捧げる。
 人類の平和のために、ルウム戦役で散っていった者たちよ。これでせめて無念を晴らしてもらいたい。
 連邦が描いた虚偽の人物像に惑わされる人々よ。ルウムで死んでいった者たちの心意気を汲んでやってほしい。無謀なレビルの心のために、一年戦争の中で死んでいった者たちの慟哭を耳に聞いてやってほしい。
 彼らは、誰も戦争を望んだのではない。明日の平和のために、戦ったのだ。
 彼らの心を察して、今後剣を交えんとする者たちは、思い止まってほしい。死者の思いを悼むことが、私たちにできる最良の事なのではなかろうか。
 私は、生き残った罪滅ぼしに、せめてこれを伝える。願わくば、この思いが人の世に途絶えぬ事を。
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