第3話 運命の変動、ジャブロー降下作戦 前編
11月29日 キャルホルニアベース
 ブラッディーローズがキャルホルニアベースに到着した時には既にジャブロー降下作戦の準備が始まっていた。
 彼らが到着して一週間もしないうちに「闇夜のフェンリル隊」等による入り口の捜索、作戦に参加可能な各部隊の集結。と、とんとん拍子に事は進み彼らもまた、この作戦に参加する事になっていた。そして、そのために彼らもまた準備する必要があったのである。
 彼らはオデッサ脱出の時に使った自前のミデアで降下することになったため、まずそのミデアが見方に撃ち落されないようにしなければならなかった。
 まず識別コードをジオン軍の物にする、そして機体色を黄色から深緑に塗り替え、ジオン軍のマークとブラッディーローズのパーソナルマークを描く。彼らはMSの整備とこのミデアの調整で作戦前日までかかってしまったのである。

11月30日 キャルホルニアベース
 キャルホルニアベースの飛行場は20機近いガウ攻撃空母が翼を並べていた。彼らブラッディーローズの3機のMSとホバートラックはそんな機体の列の中を自分たちの乗るミデアの元に進んでいく。
 MSは全高18メートルと巨大だが、それを3機、さらに両翼にドップまでもを搭載できるガウは当然もっと巨大である。MSとガウだけを見ると人が飛行機(と言ってもセスナ機程度だが)の間を歩いているようにさえ見える。飛行場は、そんな物の大きさが狂ってしまっているようなうな空間だった。
「隊長、た〜いちょ」
「どうした?ライザ?」
「あそこに居る部隊って、もしかして・・・」
 そういってライザのグフが指差した先にはドムやグフを含む9機のMSが居た。
「あの部隊がどうかしたのか?」
「よく見てくださいよ、あの部隊のエンブレム」
 そう言われてその部隊のMSの肩のところを拡大して見てみるとそこには狼の模様が、そしてそこに刻んである文字を読み取ってみると・・・
「『MIDNIGHT FENRIR』・・・『闇夜のフェンリル隊』か」
 「闇夜のフェンリル隊」・・・キシリア・ザビ直属の特殊部隊で、センサーや新兵器、特殊兵器などのテストを行ってきた。
 第二次地球降下作戦の際に降下、それ以来幾多の任務をこなしてきたベテランの部隊である。さらに、今回の作戦で使用されるユーコン級潜水艦も彼らの働きによって完成したものだ。
「なるほど、あんな優秀な部隊まで参加するのか、俺達も気は抜けんな」
「うふふ、期待してるわよ、ジャック」
「おいおい、作戦中はその呼び方止めろよ」
「だいじょぶよ、これスモール・トークの中でもシークレットモードだから、これが漏れてたら整備が手抜いてるか、技術が欠陥かのどっちかよ」
「わかったよ、でも作戦中は頼むぜ」
「りょーかいしました。たいちょーどの、じゃね、死なないでよ」
「ああ、お前こそな」
 そんな話をしている内に彼らはもうミデアの所に着いていた。
「全員搭乗、機内で簡単にブリーフィングをする」
「「了解」」
 彼らは搭乗後自機のパラシュート(ミデアはガウと違い戦闘能力は皆無の為、通常よりも高高度からの降下となる)の確認、それと武器カプセルの確認を済ますと、ブリーフィングに入った。
「ブリーフィングと言っても特に言うことは無い。とにかく壊せるだけ壊せ、そして、全員生還せよ。それだけだ!]
「「了解」」
 こうして彼らを乗せたミデアはジャブローへと飛び立った。

同日 地球連邦軍総司令本部ジャブロー上空
「降下3分前」  機内に合成された声のアナウンスが流れる。ミデアの後部ハッチが開き、戦場の風景が見える。
 彼らは精鋭部隊である。当然ガウからの降下任務も数多くこなしてきた。しかし、それはあくまでガウでの話で、ミデアからの降下など当然始めてである。
「降下開始」
 それでもやはり作戦は開始される、今更どうする事もできまい。
「了解、スティングI降下」
「スティングII、降下」
「スティングIII、行くぜ」
「ヴェノム、降下します」
 そして彼らは降下した。

 ズゥン・・・と、地響きにも似た重い着地音とともに彼らは地上に降り立った。
 ジャックは後続の2機が着地したのを確認してからカプセルを開けた。中には降下の際かさばって邪魔になるウィルのラケーテンバズやライザの90ミリAR、予備のマガジン等が入っている。
 今回のジャックとライザの武装はいつもと同じでは無かった。マシンガンとAR自体は普通の物だったが弾丸が改良されている。2人が使っているのは、いわゆるモンロー効果を利用したホロチャージ弾と呼ばれるものだった。モンロー効果とは火薬の燃焼エネルギーを指向性金属ガスジェットとして利用するのもで、装甲の貫通力に優れている。しかも2人の銃の弾丸は、火薬の爆発による起電力を利用して、強力な磁場を瞬間的に発生させ、指向性ガスジェットを加速するようになっていた。
 一般にモンロー効果を利用した弾丸は科学エネルギー弾と分類されがちだが、金属ガスのレベルで見ると明らかに運動エネルギー兵器である。だから指向性金属ガスジェットの磁場による加速は、恐るべき貫通力を実現していた。
「隊長、そろそろですね」
「ああ、レイカ、構えておいてくれ」
 彼らはジャングルの開けた場所に降下したあと、一旦ジャングルの中に下がっていた。 連邦軍も馬鹿ではない。ガウが現れれば何が行われるか予想していたはずだ。少しすると突然地面がせり上がり、中から2機のMSが現れた。RGM−79G、陸戦用先行量産試作型ジムである。その名のとうりジムの先行量産型で、陸でしか使えない。
「ロック、ファイア」
 レイカの言葉とともに、ホバートラックに装備された175ミリ無反動砲と連装ミサイルランチャーが火を噴く、この無反動砲の砲弾も改良型の徹甲弾を使用していた。
 至近距離だったのでランチャー、無反動砲ともに全弾が命中し、2機のジムはことごとく大破した。
「突入」
 彼らは今ジムが出て来たハッチから内部へと侵入していった。

同刻 ジャブロー内部第11MS工廠
「敵MSの侵入を許したか・・・」
 彼、ログ・マイン少尉はついさっき最終調整が終わったばかりの自分のMS、PX−79[G]−LC・陸戦型ガンダムロングレンジカスタムを見上げつぶやいた。
 この機体は61式戦車でジオンのMSを倒したことのある連邦の砲撃仕官エイガー少尉の理論をもとに彼が生産を要請した特別機である。
 機体コンセプト自体はエイガー少尉のガンダムマドロックと大差ないが、こちらは陸戦型ガンダムをベースに、開発中のジム・キャノンのキャノン砲を搭載した新型バックパックに、R−4ビームライフルを装備。ジェネレーター、スラスターの出力強化、装甲の全面強化などを施した機体で、陸戦型ガンダムのバリエーションのような感じで作られている。
「わかった。オレがこいつで出撃する、3番ハッチひらけ」
 彼は自機に乗り込むとハッチから出撃していった。

 ブラッディーローズが突入したハッチから繋がっていた通路はMS用のものなのかもとからそうなのか、MS3機が直立してアローフォーメーションを取れるだけの広さがあった。
 幾つかの砲台を破壊しながら進んでいくと不意に視界が開けた、どうやら何か広い空間にでたらしい。何の施設かは解らないがMSでの戦闘が可能なほどの広さがあるのは解った。その時レイカから通信がはいった。
「隊長!前方より高熱源体接近。MSと思われます」
「来たか!」
 彼らに接近しているMSはログ・マイン少尉のものだった。

「見つけたぞ!」
 マイン少尉がブラッディーローズを発見したのはMS用の模擬戦場だった。  ここはジャブローで開発されたMSのテストや来るジオンのジャブロー降下作戦に備えて、施設内での戦闘を想定した模擬戦を行うためのものだった。
「ついにコイツの性能を確かめる時が来たか」
 そういうとマイン少尉は肩の240ミリキャノンを起動させブラッディーローズのグフをロックした。
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