対北鮮外交2002年9月20日 金曜日

 小泉首相訪朝を挟んで明らかに成った拉致被害者の消息だが、9月20日の
時点では5名の生存と8名の死亡が伝えられる。8名の被害者の死亡年齢や死
亡日から沸く疑念は当然だが、殺されたと考えるのが真っ当なものだろう。確
率論は持ち出すまでも無い。死亡者は口封じと、証拠隠しの為に殺害されたと
考えるのが自然だ。被害家族の横田さんの言にある様に、運動で名前の上がっ
た者や「騒いだ」事例の該当者が処分された可能性は高い。

 「騒げば北鮮が証拠隠しの為に殺して仕舞う、裏交渉の結果で第三国で発見
と云う解決策しか無い」等との意見は確かにあった。今回の様に「内部の反動
分子の独断専行」とした上で、「全く関与の外であったが、遺憾な事と謝罪す
る」との解決手段があった。考えて見れば最も「自然」で「説得力」のあるも
のなのに、知る限りでは誰もこれに言及しなかった様に思う。

 騒がなければ殺されずに済んだのかと言えば、確かにその可能性は否定出来
ない。しかし騒がなければ永遠に消息不明の侭であっただろうし、どちらが良
かったかなどは軽軽に論じられぬ。騒げば殺されると言っていた者が、如何に
有効な案を明示出来ていたのか。声を上げるな、騒ぐなと言う方が無理だ。
現に政府も各政党も解決に誠意があったとは思えず、諦めろと言わんばかりの
対応が殆どではなかったのか。これは遺族が判断する事だと思う。

「騒げば殺されるのに、正義感ぶって大声で北鮮を非難するのが一番悪質な奴
だ」と、ネット上にしたり顔で発言する者が居た。この者の言い分では、表口
からでは解決しないから、北鮮と繋がりのある実業家辺りが裏交渉して救い出
すのが最善だと言っていた。それに続けて「但し、その様な仲介の出来る政治
家が、我が国に居ないのが辛いところだ」とも言っていた。結局は言っては見
たものの、「為す術無し」と言うのが結論だった様だ。

 私も当初は東欧などの第三国で、記憶を失った状態で発見されれば上出来か
と考えた事もあった。結論から申せば実業家云々も含めて、空中楼閣と断ずる
に躊躇は無い。人の口に戸は立てられないのであるから、開放すれば北鮮の悪
行が満天下に喧伝される。在北鮮中に出来た「家族」を担保としても、開放さ
れた者の口を封ずる事はほぼ無理だろう。そうすると考えられる事は、何もせ
ずに只管に祈るしか術は無い。或いは北鮮の緩やかな崩壊か、下手な工作を許
さぬ程の「電撃的クーデター」を期待するのか?

 犬儒主義も大概にするべきではないか。家族にしても国民にしても、叫ばず
には居られなかった。家族自身が悩み悔やむのを、余人が立ち入る事は出来な
い筈だ。それよりも家族の悲しみを利用して己が運動の宣伝をしたり、可笑し
な肩書きを持ち込んで不興を買った似非連中こそ恥ずべきだ。

 主に外務省の責に帰する一連の対応が非難されているが、田中真紀子を人柱
にしても尚、外務省の体質が改まっていない事が証明された。情勢を見ながら
情報を小出しにする事、北鮮での生存者確認の際に録音も録画もしていない。
せめて該当者の毛髪を貰い受ける程度の事をしていれば、それらの失態も差し
引かれただろう。死亡者に関するリストの翻訳に手間取ったのも疑問だ。朝鮮
語を使う国と高度な会談へ臨むと云うのに、語学堪能な担当者が同席しなかっ
たとでも言うのか。リストと言うからには多くとも二、三枚程の紙ではないの
か。外務省が故意に遅らせたと考えるのに無理は無い。

 拉致事件の進展で日朝間の立場が、一瞬にして逆転したかの様に勢い付く世
論も早計だ。今回の訪朝で小泉首相は、過去を反省して謝罪するとも表明して
いる。実質的な賠償として、今後の「支援」も約束したのではないか。
以前から内外では「過去に朝鮮に対して酷い事をした日本が、拉致疑惑を云々
する資格は無い」とする極論も止まない。その理屈から言えば、先の大戦で殺
された朝鮮人の数に比して、僅かな拉致被害者は問題に成らない。或いは「先
に侵略の件を解決するべき」と云う意見が出てくる事も予想される。正邪・真
偽は兎も角として、これらの事への対応に政府は適正に対応をして来たのだろ
うか。