米(こめ)支援の必要性 11月22日

 拉致事件の内容が明らかに成るに連れて、北鮮に対する米などの支援が論議
を呼んでいる。「全ての外交手段は要らず、一切の支援は必要無い」とする極
論は今だ一部に根強く残る。極端な感情論者や、ネットの妄言者にはこの論を
振り回す者が居る。米支援と経済制裁は別物として考える意見も多い。しかし
テレビ番組には低劣なものが多く、出演者も阿房が目立つ。「お笑い北朝鮮」
などで北鮮問題を笑いネタとする、テリー伊藤等はこの部類だ。米支援は庶民
に届かないから無駄とか、根源は農業政策だから米支援は対処療法で意味が無
いとの意見だ。理屈を述べた積もりだろうが、実に下らぬ犬儒的な冷や水だ。
本質を理解せずに知ったかぶりをする好例で、飢えた人間の気持ちを理解せず、
したり顔で論ずる姿勢には人間性を感じない。


 北鮮の深刻な飢餓は、危機的状況が更に悪化する模様だ。これまでは7歳以
下の62%が慢性的な栄養失調だった。今年は40%に減少しているものの、
各国の支援停止で状況の悪化は必至だ。市民向けに食糧援助をしても、軍需物
資などに転用されて実効が無いとの理由で、各国政府が支援金の拠出を停止し
ている。毎年400万人の子供を含む640万人に援助して、今年は150万
人分を削減したと云う、WFP・国連世界食料計画のジェームス・モリス氏の
嘆きが紹介された。各国が北鮮支援に消極的な理由を改めて整理してみよう。


@援助物資がそれを必要とする人々に、どの程度まで届いているのか不明と云
う事は従前からの通説だ。監視団の目前で国民が手にしても、監視が去った後
で、回収されて仕舞うと云う。

A援助食料や医薬品の可也の部分が、金正日周辺や労働党幹部に流れる他、軍
需物資に転用される事が殆どだ。支那や周辺国に輸出される場合もあり、北鮮
には貴重な外貨となる。

B物資の配布状況を知りたくても、配布先リストは伏せられている。WFPで
も206の郡の内で関与しているのは160余り、残りの郡に付いての状況は
殆ど不明と云う。立ち会いも困難だ。

C立ち会うにしても6日前までの通告が必要で、然も朝鮮語が理解出来る者は
不可と云う条件。配布先リストは貰えず、学校や病院の数や規模に付いての資
料も貰えない。希望しても必ず立ち会える訳ではない。


 必要とする困民に届かぬ支援は無駄だ。結果として北鮮の軍備を増強し、金
体制の延命を助けるだけ。・・・等々の理由で支援が停止され、我が国でも拉
致事件関係者が一つ覚えの如くに繰り返す支援無用論だ。一見すると成る程と
思い込む人は多いだろう。しかし、実際には飢餓民の存在は確かなのだから裏
返せば、上述の様な不正利用を忌避する為に停止は当然で、結果として飢餓民
が死んでもやむを得ずとの理屈に成る。支援が人道に基づかない政策だからこ
そ、この異常な理屈が正論として罷り通る。

 金体制には北鮮市民も、対外的な人質に過ぎない。殆どの北鮮市民は金正日
の悪行を知らず、圧制と白色テロに虐げられた民である。その困民を質に取る
外交政策は、如何に拉致が卑劣であるとしても許されない。読売テレビではこ
の点を言わない。出演者も米支援に否定的な者が多いのは、報道が歪んだ一例
と言えるし、愚民に迎合した結果だ。

 支援は欲しいのだから、与え方に工夫が出来ないか。イラク査察でも対北鮮
外交でも、出来る者はその様に遣っている。核査察や軍事関連査察では、戦争
も辞さずの構えで対処しているのに、何で食料等の一般的支援では不可能なの
か。力を背景に困民の口に食料を押し込む方策もある筈だ。その程度の考えも
力も出さずして軽軽に停止とは、人道などと聞こえの良い言葉を使う資格は無
い。