臨床心理士
大塚典章のページ

カウンセリング事例集

事例1、A夫婦のケース

(A夫婦のケースのあらすじ)

(1)「インターネットのホームページで見た。夫婦のカウンセリングをお願いします。」
と、夫からの電話申込みで、カウンセリングが始まる。
インテーク面接では、夫婦同席面接が行われ、各自の主訴は、双方とも離婚は考えてない。
夫婦の現状は、家庭内別居状態であった。そのうえ、妻は鬱状態になっていた。
そこで、妻に対して鬱状態チエックリスト(SDS:Zung)の心理テストを施行し、
「軽度鬱傾向」の判定のもとに、妻の鬱病予防を狙って、妻のみの単独面接を先行させることにした。

(2)やがて妻の鬱傾向が緩和されて、夫婦同席面接によるカウンセリングが続行された。
夫婦のあり方については「既婚シングル」で行く、という基本的合意をもとに、
夫婦の関係が維持されているか否かの検証が、中心の話題となり、カウンセリングが進行した。

(3)ところが、夫の定年退職が近づくにつれ、今度は夫の方が鬱病になり、妻の協力や激励により、
夫婦は 「誰もが一応辿る経過だから、精神的にゆっくりした気持で暮らそう。」と誓い合う。
そのうち、夫も鬱状態を克服し、カウンセラーからみても、「夫婦は健康になり、夫婦仲も改善され、
問題解決の仕方も会得した。」と認められる状態になり、カウンセリングを終了することになった。
その間に3年半の期間が経過していた。


T、A夫婦のケース
(1) X年4月1日千葉ファミリー相談室に、A夫婦の夫B男(57歳会社員)から電話で、
「インターネットで見たが、夫婦関係のカウンセリングを受けたい。」とのカウンセリングの申込みがあった。
そこで当番担当者が、受けたいカウンセリングの内容を聞くと、「妻C子(49歳主婦)が夫の浮気を疑って、
夫婦関係がうまくいかなくなった。現在、家庭内別居に近い状態である。」といすう。
夫婦のカウンセリングには、夫婦二人の面接が必要であるが、最初は夫婦のうちどちらかを、先に面接するのが一般的である。
というと、夫B男は、「それでは妻C子をさきに面接して下さい。」というので、
X年4月11日午後1時に妻C子、1時30分に夫B男に、当相談室まで来室するよう指示し、
「夫婦関係のカウンセリング事件」として受理した。担当カウンセラーは当職を指名。
(2)第1回面接(X年4月11日)
@夫B男の主訴は、妻C子が、私の10年前の古い日記帳を見て、同職のD子(現在50歳位)との仲を疑い(事実はない)、
段々と夫婦関係がうまくいかなくなった。
現在は、口も聞かず、寝室も別々になり、家庭内別居に近い状態が続いている。
しかし、私は離婚は考えていないので、円満な夫婦関係がもてるように、カウンセリングをお願いしたい。という。
A妻C子の主訴も、同様に離婚は考えていない。
夫B男は10年前から、同職のD子と浮気していることが判明して以来、
夫婦の話合いはなく、寝室も別々(夫2階・妻1階)で用事がある時は、紙にメモを書いて食卓に置いて置く。
日曜日には、夫は好きな競馬に出かけ、夜遅く飲酒して帰宅する。
二人の子供達も成人し、父母の夫婦関係に無関心である。
そのため妻C子は、毎日が暗い日々で落ち込むこと多く、鬱状態になり、何もする気が起こらないという。
そこで次回は妻に対し、鬱状態の程度を知るために、心理テストを行うことにした。
(2)第2回面接(X.4.25)  懸案のC子の鬱状態の程度を知るため、鬱状態チエックリスト(SDS:Zumg)を実施した。
その結果、点数は45点で、「軽度鬱傾向」の判定であった。
そこで早速、C子の鬱病予防を狙って、妻のみの単独面接を、暫く先行させることにした。
(3)第3回面接(X.5.1) C子の生育歴や結婚にいたる事情を中心に面接。
C子は、両親の第1子として生れ、弟と2人の姉弟で、甘やかされて育てられ、
県立高校卒業後、会社員として3年間某社に勤務。21歳のときB男(29歳会社員)と見合い結婚した。
夫は三男であったので、実家の隣家に居住し、2人の息子を産み育てた。
結婚当初は、夫婦仲は普通であった。子供が成長し、
子育てに手がかからなくなった頃から段々と、夫婦の話合いがなくなった。
10年くらい前にB男が、同職のD子と浮気していることが分かってから、夫婦仲はさめ、家庭内別居状態となった。
しかし現在では、夫は毎月20万円の生活費も、きちんと入れてくれている(キャッシュカード)ので、夫との離婚は考えてない。
しかし、現在の精神的鬱状態さえなければ、
夫の浮気も表面的には納まっているようなので、「もうどうでも良い」、と言う気もするが−ともいう。
(次回夫との同席面接に同意)
(4)第4回面接(X.6.2)夫婦同席面接。先に、夫に同席面接の同意をうる。
  同席面接のルール(話合いの妨害となる暴言暴力の禁止・司会者の制止に從うことなど)の
  説明と誓約の後、同席面接の方法を説明。
   双方の希望する話合いの話題は、先ず、B男の女性関係について、であった。
C子は、10年前にB男の日記から、同じ職場の女性関係があることをを知ったが、
その女性の氏名年齢・交際の程度(現状)などを詳細に質問した。
B男も、いちいち丁寧に回答した。
その内容は、女性の名前はD子といい、自分より7歳年下(現在50歳)の元部下で、
離婚した子持ち の女性である。関係の程度は、同じ課の職員であったので、
すぐに上司の知るところとな り、他の課へ移動になった。それで深入りすることなく、
現在まで、同じ職場の友人とし ての交際に留まっている。という。
 しかし、それでもC子の不信は消えず、「どうせ本当のことは、いえないでしょう。」と その場の追求は終わった。
(5)第5回面接(X.7.3)夫婦同席面接。C子は、前回のB男の女性関係の不信を、諦め切れなかったらしい。
この回も、女性関係の質問を繰り返した。しかし、夫の返事が前回と同じであったため、諦めて話題を転換した。
次は、B男の競馬仲間の友人関係、とくにE男との飲み代は、どうなっているのか。
負債関係はないのか、などの応答であった。    
競馬は、自分の好きな娯楽程度のもので、競馬の後の一杯を、楽しみにしている。
お互いに借金関係はない。とのB男の回答で、C子も多少安心した様子であった。
「次回はC子だけの面接にしてほしい。」とのC子の要望で、同席面接は、暫らく休み、C子の単独接にすることにした。
  (6)第6回面接(X.8.5)C子の単独面接。
 C子しても、鬱状態は解消できない。私だけの面接をお願いしたい。とのこと。
「どのように考えれば、精神的安定をえられるか。」カウンセリングをお願いしたい。
そこで、「鬱脱出のため」に、例えばB男の競馬のように、「好きな娯楽は何かないか。」を、一緒に検討した。
 最近、次男が自動車を買い替え、古い自動車が余ったので、「運転免許証を取ってドライブに行ってみたい。」
と言い出した。運転免許の取得には、以前B男が反対した経緯がある、と言う。
そこで、今回はB男に隠して、運転免許を取得し、B男を驚かせてはどうか。と誘った。
「B男を驚かせる」、ということに興味を示し、早速、自動車教習所への通所に同意した。
鬱状態脱出のためには、「興味のあることで積極的行動が有効である。」ことを教示し、教習所への通所を支持した。
(7)第7回面接(X.10.4) C子の単独面接。
前回面接の翌々日から、自動車教習所へ通所中。今は、教習所で自動車に乗るのが楽しみである。
気分的にも、明るさが増してきた。鬱脱出が可能なような感じがする。とのこと。
カウンセラーは、これは「鬱脱出手段としては、きっと良いだろう。」と、支持し強化した。
B男には、自動車教習所のことは内緒であるが、息子には、自動車を処分されると困るので話した。
次回は2カ月後に指定する。
(8) 第8回面接(X.12.6) C子の単独面接。
今月中に運転免許が取れる予定。「やはり免許取得は大変ですね。」と、苦労中であるとのこと。
取得後の楽しみを語りながらの笑顔が、印象的であった。どうやら、鬱状態は脱出できたのではないか、と感じた。
そこで、次回は夫婦同席面接とする同意をえた。
(9) 第9回面接(X+1.2.10)夫婦同席面接。
最初に、、カウンセラーからB男に、C子だけの単独面接の経過と結果を報告し、
夫婦同席面接が可能になった、旨を告げた。B男は一寸びっくりした様子をみせたが、
「最近はC子が明るくなったと感じていた。」と喜んだ。そして「近く房州に夫婦でドライブに行こう」と、C子を誘った。
しかし、C子はすぐには賛同せず、B男をがっかりさせた。
その後、現在の夫婦の家庭内別居状態や、夫婦のあり方など、についての話題のやりとりが、
繰り返された。夫婦の核心に触れる大問題のため、時間不足で、次回続行となった。
(10)第10回面接(X+1.4.5)夫婦同席面接。
前回に引き続き、「夫婦のあり方について」の話題が、中心となる。
夫婦の現状は、従来と変化はない。妻C子は、「双方対等な立場で話合いができるようになった。
しかし、言い合うとお互いに傷がつくので、出来るだけ、喧嘩はしないようにしている。
当り触らずに、このままじわっとおさめるのが、良いような気がする。」という。 
夫B男も「以前よりずーっと気をつかって、ものを言っている積り。」という。
これからの夫婦関係の目標は、
双方の自由を阻害し、自主性を欠いだ、ベッタリくっついた関係ではない。
反対に、双方が自由で、自立性を尊重し、分離し、双方の間に心理的空間を設けた関係、
言わば「既婚シングル」の関係、を目指すこと。で、意見が一致した。
(11)第11回面接(X+1.7.29)夫婦同席面接。
前回合意した「既婚シングル」の関係が、維持されているか否か、の検証の話題であった。
隣りの長兄が死亡した騒ぎで、親戚が大勢集まり、1カ月間くらい大変であったので、
夫婦の話合いは殆どなかった。本日の話合いがあるので、その時に聞けば良いという気もあって、
双方とも、お互いに刺激しないようにしていたという。
 しかし、今は話したいと思う時には話せるので、夫婦とも、今のほうが、以前に比べて、精神的に楽であるという。
妻は、このままの状態で、自然に感情がおさまるのを待つという。
カウンセラーの、カウンセリング終了の打診に対して、
夫婦とも、3カ月に1度で良いから、カウンセリングを続けて欲しい。と希望した。
(12)第12回面接(X+1.10.28)夫婦同席面接。
C子は、B男の誘いで、房州へ一緒にドライブに行ったが、B男が、いろいろと指示するので嫌になった。
その後は、自分ひとりで、好きなところに、勝手にドライブを楽しんでいるとのこと。
夫婦の話題は、妻のドライブの件に集中した。危険性を注意する夫の言動に、妻も愛情らしいものを感じとった、ようであった。
そしてC子は、「いろいろ言っても仕方がないので、夫婦とはこんなものだ、と諦めの状態で平和を計っている。」
と自分なりの解決法を、見出したようである。
(13)第13回面接(X+2・1・20)夫婦同席面接。
年末に夫の彼女D子から喪中欠礼がきた。その添え書きから、「夫の浮気は10年前からでなく、
30年以上も前からである疑いがある。」との、新しい疑念についての話題が、C子から持ち出された。
B男は、「32歳の息子の養育は、祖母の手によった。」という添え書きから、どうして、そういう疑念になるのか。
と、懸命に説明した。が、C子の疑念は、消えなかった。夫の浮気に対する、不信の根深さの現れである。
しかしC子は、最近体重が1.5 キロくらい増えてきたとかで、元気で健康そうであった。
既婚シングルの方針に変更はない。
(14)第14回面接(X+2.4.21)夫婦同席面接。
従来の方針通り、既婚シングルを心掛けている。
2月中旬のことであるが、隣家との境界線の地ならし工事をめぐって、夫婦喧嘩となった。
C子が、自分でスコップを握り、土を移動させていて、かすり傷を負った。B男が「余計なことをするな」と怒り、
C子が、「嫌な仕事は私にさせて、自分だけいい顔するな。」とやり返した。
それで、双方2〜3日間無口が続いた 。しかし、C子が反省し、「言わなくてもよいことを言いすぎた。」
と謝罪し、夫婦仲はおさまった。
(15)第15回面接(X+2.7.21)夫婦同席面接。
隣家の改築後に、わが家の改築の予定。B男が8カ月後に定年になるので、その前に改築する。
予算300万円。B男は、定年が近づいた勢か、最近体調が悪くなり、寝つかれなくなった。
かかりつけの医者から、睡眠導入剤と抗鬱剤を貰って飲んでいる。
そのため薬の副作用で眠くなり、自動車の運転ができず困っている、という。
またB男の競馬仲間の友人E男が、癌で死亡したため、競馬の回数が激減した。ともいう。
そこで、B男に対して、老人性鬱病にならないよう注意した。
そうして「定年まであと何日とカレンダーの日付を毎日消しているが、それは止めた方がよい。」と指示した。
 他方、妻C子は、以前に比べすっかり元気になった。
(16)第16回面接(X+2・10・27 )夫婦同席面接。
妻C子は、普段余りB男との会話がないので、気付かなかったが、
最近のB男は、時々不機嫌になることがある、という。
そして夫B男は、「禁煙したら体重が79キロに増え、膝が痛くなり、運動不足となった。」と言う。
睡眠導入剤(ルポックス)と抗鬱剤は、まだ朝夕2回飲んでいる。ともいう。
現在の夫は、定年前の不安もあって鬱状態である。
逆に妻は、すっかり元気である。従前に比較して、夫婦関係が主客逆転した感じである。
B男は、「C子は強い性格」とうらやむ。C子は、割り切った生活態度である。
そして以前拒否していたドライブも、今は月に1〜2回夫婦一緒で、ドライブに行っているという。
夫婦仲は、かなり改善されてきた。
(17)第17回面接(X+3・3・2)夫婦同席面接。
夫B男は、3月29日で定年退職。薬物依存状態は、徐々に改善され、抗鬱剤と睡眠導入剤も半減した。
しかし、運動不足は解消できていない。
妻C子は、「B男は、競馬もまだ時々は行っているし、
夫婦で年に1度の外国旅行と、月に1〜2回のドライブもしているので、夫B男が鬱病になるのは、不思議だと思う。」と言う。
夫婦の既婚シングルの基本は、守られている。もうしばらく、夫の鬱状態の経過をみる必要がある。
(18)第18回面接(X+3・7・6 )夫婦同席面接。
夫B男は、4月1日から某会社に再就職した。勤務が週4日であるので、体調も徐々に改善された。
しかし、まだ睡眠導入剤は1日1錠を飲んでいる。B男は、競馬友達2人のうち、1人は死亡し、
残った1人も入院してしまったので、競馬にいけなくなったことも、ノイローゼの一因だという。
それに反し、妻C子は、精神的に安定しており、
「自分も鬱状態を乗り越えて、今日の安定があると思うので、B男も頑張って欲しい。」という。
 家庭は、次男が独立し家を出たので、今は夫婦二人だけとなる。
双方が、「B男の鬱状態については、誰もが一応辿る経過だと思い、精神的にゆっくりした気持で暮らそう。」と誓い合った。
(19)第19回面接(X+3・10・5)夫婦同席面接。
  夫B男は、4月1日に再就職し仕事にも慣れ、体調も良くなり、眠れるようになった。
  今はもう睡眠導入剤も抗鬱剤も、飲まなくてよいようになった。
他方、妻C子も相変わらず元気で、やっと夫婦揃って健康になった。
そして現在は、夫婦二人だけの生活は単調だが  夫婦喧嘩もなくなった。
先日は、次男と夫婦の3人での家族旅行をし、ストレス解消をした。
運動は、双方とも、万歩計を持って歩くようにしている。B男は、職場の往復と散歩。
C子は、買物で6千歩を目指している。
また心と体の健康を狙って、健康ランドの積りで、毎日1時間くらい、近所の風呂屋巡りをしている。という。
 そこで、カウンセラーは、
夫婦ともに健康になり、夫婦仲も改善され、問題解決の仕方も会得されたと思うので、
この辺で、カウンセリングを一応終了したい、と提案した。
夫婦から快諾をえて終了宣言。 その後現在まで、年賀状は来るが、続行の連絡はない。                                                                                                          以上。

(本ケースは、個人情報保護法の配慮を施してありますが、
カウンセリングの研究以外の目的には使用しないで下さい。)
TOPページへ戻る