はじめに
p要素は、HTML/XHTMLにおいてパラグラフを明示する要素型です[HTML4.01]。パラグラフは日本語で段落と訳されますが、日本では段落の定義を明確に認識していない人が多いので、マーク付けの際に困ることも多いです。そこで、この文書ではパラグラフと段落の定義を確認し、日本語文におけるp要素のマーク付けについて、ある程度の指針を得ることを目的とします。
パラグラフとは
パラグラフの定義を簡単にまとめると、以下のようになります[橋本, 1998]。
- 単一の主題(main idea)を持つ、ひとつ以上の文の集合。
- 内容的なまとまりを示す文書の構造単位としては最小のもの。
- なんらかの形式で常に明示される。
パラグラフの内容は、そのパラグラフの主題によって限定されます。基本的に、主題に関係のない情報がパラグラフに含まれてはいけません[小笠原]。パラグラフの主題を一文にまとめたものを、トピック・センテンスと呼びます。
パラグラフは、内容的なまとまりを示す文書の構造単位としては最小のものです。長い文書の場合、共通の主題を持つ一連のパラグラフはセクションとしてまとめられ、各セクションの主題は見出しとして示されます。文書によっては、その上にチャプターなどの構造単位が必要になることもあるでしょう。最終的には、そうした構造単位がまとまって、ひとつの文書になるわけです。文書全体の主題は、もちろんタイトルとして示されます。
パラグラフはなんらかの形式で常に明示されます。しかし、パラグラフ自体が特定の視覚的な表現方法を意味するわけではありません。たとえば、ウェブブラウザは伝統的に、パラグラフの前後に一行程度の余白を設けてレンダリングします。一方、紙媒体では、パラグラフの最初の行は字下げされ、パラグラフとパラグラフのあいだには余白を設けないスタイルが一般的です[HTML4.01]。大切なのは、パラグラフが明示されることであって、どのように明示されるかではないのです。
形式段落と意味段落
日本語で段落と呼ばれるものには、形式段落と意味段落があります。内容的なまとまりとして最小のものであり、なんらかの形式で常に明示されるものを形式段落。文章全体を起承転結といった大きなまとまりに分けたものであり、通常、書き手によって明示されないものを意味段落、と呼びます[川内小学校, 2007]。
一般に、単に段落という場合は形式段落を指します。意味段落のほうは、主として学校教育の場、それも読解の際に使われる言葉です[川内小学校2007]。
形式段落を「体裁だけで意味のないもの」と考えている人が多いようですが、これは誤りです。段落とは本来、長い文章の中の、一つの主題をもってまとまった部分
を意味します。少なくとも、まともな本や教師なら、意味のない見かけだけの区切りを段落と教えることはないはずです[矢野, 1998]。
以上の定義から、日本語でパラグラフに相当するものは形式段落である、と言えます。
マーク付けの指針
パラグラフと段落の定義から、p要素のマーク付けは非常に簡単であることがわかります。段落(パラグラフ)は常に形式的に示されるのですから、その形式に沿って見たままにマーク付けしていけばいいのです。その結果、p要素が内容的なまとまりを示していないのであれば、もともとの文章が悪文だった、ということになります。
ただし、小説などの文学的文章には注意が必要です。
文学的表現における擬似段落
小説などの文学的文章においては、内容的なまとまりに関係なく、表現上の意図から改行している場合でも、段落と同じように整形されることがあります。たとえば以下のような感じです。
誰もいないはずの背後から、 ぎしり と床が軋む音が響いた。
この例の場合は強調を意図していると思われるので、強調したい部分をem要素かstrong要素としてマーク付けし、CSSでスタイルを制御するといいでしょう。
<p>誰もいないはずの背後から、
<strong>ぎしり</strong>
と床が軋む音が響いた。</p>
会話文の前後で内容的なまとまりに関係なく改行する場合は、span要素に適切なclass名を付けてマーク付けし、CSSで"display: block;
"とするのがいいと思います。あるいは、単純にbr要素で改行してもいいかもしれません。
<p><span class="talk">「おはよう。今日も嫌な朝だね」</span>
と声をかけた。</p>
これら以外に、一部の文章が詩のような形式になっていることもあります。その場合は、素直にpre要素としてマーク付けすればいいでしょう。場合によっては、span要素に適切なclass名を付けてマーク付けして、CSSで"display: block;
"としてもいいかもしれません。
というか、どうも日本では、小説と詩のあいだに明確な形式の違いが存在しないのではないか、という気もします。作品にもよりますけどね。
あとがき
結局はマーク付け前の問題なんですよね。段落を内容的なまとまりとして理解し、段落という単位を意識して文章を書いているか、という。日本の教育では、あまり論理的な文章の書き方というものを教えないので、そのへんにp要素を巡る混乱の原因があると言えます。他人事じゃありませんけど(汗)。