−ブラジル−
労働者党(PT)に、党の歴史上最も深刻な危機
   ホセ・コレア・レイテ

 ブラジル労働党(PTB)党首、ロベルト・ジェファーソンによる宣言は、一九九二年に予算に対する議会調査が行われて以降に議会が目にした最大のスキャンダルを巻き起こした。それはまたルーラ政権を襲った最大の危機でもあり、最初の犠牲者、ルーラ政権の実力者であり前官房長官のホセ・ジルショーは、六月一六日に辞任に追い込まれた。



 郵便サービス事業において薄汚れたたかりに手を染めたとして告発されたジェファーソンが反撃したものは、彼に罪をなすり付けるためにジルショーが仕掛けた策謀、と言われているものだった。六月六日の「フォラ・デ・サンパウロ」紙によるインタビューと、次いで六月一四日の下院倫理委員会において彼は、自由党と人民党(それらの議会グループは、下院五六四議席のうち一〇〇議席以上となる)の議員に彼らの党の指導者を介して月毎に合計一二、五〇〇ドルを支払い、また野党から与党へと党を変えた議員には誰に対しても四〇万ドルの報償を支払った責任は、いずれもPT会計担当のデルビオ・ソアレスにあった、と言明した(多くの簡単に買収される右派諸党は、議会では政府支持派となった)。
 PTB党首はさらに、八〇〇万ドルと引き換えにした一連の選挙協定の一部として、彼の党のために一六〇万ドルをPTから既に受け取った、とも語った。そしてこれはPT党首、ホセ・ジェノイノを直接巻き込むものだった。
 六月十五日付け「オ・エスタド・デ・サンパウロ」紙のコラム(表題は「ひっくり返らない石はない」)で、ジャーナリストのドラ・クレイマーは、倫理委員会に対するジェファーソンの証言は「官房長官のホセ・ジルショーに致命的な打撃を与え、PT最高指導部を深刻に傷つけ、議会全体を泥で蓋った」、と述べた。彼らは全て真黒だと、彼は選挙運動資金調達における不法なシステムの共犯者として議員達を指差す。さらに彼は、運動資金調達を分け合うこのシステムがいかに広がっているか、それがどれほどまでに当然と思われているか、を示した。その上で彼は、調査中のその者たちを放免するのか弾劾するのかの取引を行っている議会調査委員会が、まさに大統領府と議会における与党の関係を露わにしている、とはっきり述べ、この関係が影響力ある地位の売り買いの上にいかに築かれているかを示した。
 既にさまざまな腐敗でひりひりした傷を負い、最近数ヶ月で人気を失っているルーラ政権は、現在それ以上ないほどの最も深い危機に入り込んだ。これはまたはねかえって、PTの歴史上で最も深刻な危機を解き放った。党はその政治的信頼性が深刻に傷を負っていることを目にしているのだ。
 一方ジルショーの退場は党内の力関係をひっくり返している。一方でルーラが政府内の「腐った部分」を取り除き(ジルショーは既に、彼に最も近い助言者の一人であるワルドミロ・ディニッツが関与した一年前のスキャンダルによって大いに傷ついていた)、自分達だけの狭い利益を守っている腐敗した部門を剥ぎ取ることで危機が例え解決され得るとしても、他方でそれは、パロッシやグシケンのような大金融資本に最も親密に結び付き、PSDB(前政権党、社会民主主義の流れに立つ中道派−訳注)との取引に傾く者達の手を大いに強化するのだ。
 政府とPTは弱体化した。政府とPTの危機は、ルーラの閣僚が示した新自由主義支持と、その取り組みに対するPTの防衛によって巻き起こされた対立に入り込んでいる。この複合的な危機は、明らかに右派に好都合な領域の上で展開中だ。これは、さまざまな政策の乗り物−これはこれまでは、以前と変わりのない経済諸政策を続けたことの効果によって限界を画されてきた−としてのPTがこれまで持っていた道義的な威信、信頼性、さらに正統性を完全に掘り崩している。現在告発は、議員の買収や汚職など、普通の市民であれば誰もが理解し得る形に達した。それはルーラ政権の性格や限界に向けて全ての人々の目を開く。
 この危機は政府を駆り立てて、ルーラ内閣の残りの部分にとって「安定」の「錨」と見えている、財務大臣、パロッシの「継続」路線に益々固く執着させる。これは、ルーラの弱体化を利用するに当たって最良な位置を占め、また二〇〇六年一〇月の選挙まで可能な限り弱いままに政府をとどめておくことを願っているPSDBによって支援を受けている。
 PSDBは、制度と体制の正統性が疑問に付されることなくルーラ政府が支持を失って欲しい、と願っている。一方、大統領ルーラ−ジェファーソンと他の敵手は、彼を彼らの告発から守るために気を使ってきた−を攻めることに脅威を感じてきた勢力は、そのような対抗的政権構想を持ち合わせていない自由党に結び付いた、より伝統的な右翼だけだ。
 我々が観察しつつあるものは、ルーラ政権とPTを対象とした消耗の長期的な過程の始まりであるように見える。これから何が起ころうともルーラ政権は、パロッシと彼の新自由主義的路線の相対的な強まりの下で弱体化し、右へと移行して行くだろう。ジルショーの退場の下で、大統領の周囲の中心的指導部内では、パロッシにはもはやどのような対抗相手もいない。ルーラの大統領任期の最終盤に彼がPSDBの人質になる、ということはあり得ることなのだ。

「抜け目のない駆け引き」から「決済」へ

 多くの評論家が強調してきたことだが、フェルナンド・エンリケ・カルドゾ(FHC)の新自由主義政策を、同時に彼の統治手法を継続することなしに継続することは必然的に不可能となりかかっていた。この統治手法とは、議会及び政府機関内での腐敗した右翼との連携に基礎を置いていた。
 ルーラは、街頭における支持を獲得するためには、反民衆的な経済政策と手を切らなければならなかっただろう。そしてそのような街頭における支持なしには彼には、それら三〇〇人にも上る策士達の抱擁を逃れる可能性はなかったと思われる。それらの者達こそ、時々の政府に可能な限りの高値で自らを売るために常に準備のできている議会の最大多数派であり、ブラジル政治に固有に染み付いた腐敗に大きな責任のある者達なのだ。
 こうして、「テュカノス」(PSDBはそのように知られている)はFHCの大統領任期期間の八年を、主にまとめ売り、即ち合法的な汚職−私有化とマクロ経済調整に基づく諸決定を通した公然とした金融資本への利益供与−を基礎として統治したが、ルーラ政権はそれとは違って、今ではそれが左翼の政府計画を確実にする事を目的とした「商品」に向いているという、そのような土壌の上で個々の議員を買い取るという「小売り」の伝統に戻ってしまった。
 そのような抜け目のない駆け引き、あるいは「ギブアンドテイク」は、政府内部でホセ・ジルショーが指揮した。しかしそれは、大統領府へのPT諸機関の従属−政府内と国家諸制度内における二五、〇〇〇以上にも上る政治的職務の競売において、PT書記長、シルビオ・ペレイラが演じた役割については誰もが知っている−を必然的に伴うことにもなった。
 これこそまさに、政府とPTの立場が世論を前にして支持されなくなった理由だ。議員の買収は政府とPTが完全に公然と行ってきたものと同じである以上は、ジェファーソンの告発が真実であろうがなかろうが、それらはやはりもっともらしいのだ。
 党を交換してきた「柔軟な」議員について、あるいは政府や国家機関の職を対象とした売買という形で支持を確保するためになされてきた取引について、さらにあるいは、ルーラ政権のいくつかの戦略的重要性を持つ投票前夜に、下院の「特別に」協力的な議員が提出した立法上の修正案を支持するためにパロッシが財政を緩めた方法について−これら全ての行為についてPTはこれまで、腐敗エリートの印として常に熱を込めて非難してきたのだった−、あらゆる新聞が報告記事を書いてきた。

実用主義の苦い果実

 「月々の清算」は、それがもし本当にあったとしたならば(もっともそれがあった、ということをほのめかすものは議事堂の中に大量にある)、政府にとって上に見た過程をより単純に、より安上がりにするものだったのだろう。しかし政治的転換遂行を確実にする方法としては、これは完全に愚かなことだ。そうであっても、与党であるPTがその見通しを全面的な実用主義にまで引き下げてきたという道筋を前提としたとき、そのことは考えうることとなっているのだ。
 「結果良ければ全て良し」というような、そのような実用主義はもちろん既に、二〇〇二年以前にブラジル左翼の政治文化を形作っていた。これが、PTの大多数がルーラに対する抵抗を示さなかった理由を説明する助けとなる。とはいえ、一定数の地方政府内部にいるPT多数派指導部によって徐々に進められた原則の喪失につき従った党員といえども誰であれ、必ずしも彼らに白紙委任を与えたわけではなかっただろう。
 そうであれば、ジェファーソンの主張や議会調査(郵便サービスに関しては既に始まり、次いで今嫌疑が持ち出された「月々清算」に対しても)の結果がどうであれ、既に大きな打撃が現実のものとなっている。政府に対して(さらに政府に対するPTの屈服に対して)幻滅を感じているブラジルの有権者大衆にとって、告発の焦点が向いているものは、統治のためにルーラ政権が選択した方法−そしてPTの振る舞いがほかの全ての党のやり方と同じものにまで格を落とすに至った方法−にかかった費用だ。
 現在PTと政府が狙っていることは、党の印象が損なわれてはいなかった以前の段階に戻ることではない。そうではなくそれは、この告発がルーラ政府を葬らないようにすることだ。
 この状況は、政府、その無様な同伴者、さらにPTに対する新たな告発が雪だるまのように膨れ上がる状況に容易に発展する可能性がある。実際、連邦警察の捜査は、PT党員をも巻き込んだアマゾンの森林伐採の仕組みを暴き出した。さらに、マルタ・スプリシーが市長の時代におけるサンパウロ市議会に関し、野党を委員長に選出する際の「月々清算」システムについての告発も出ていた。ロベルト・ジェファーソンは、政府を傷付ける新たな告発−シルビオ・ペレイラは夜間航空郵便への上乗せ請求から利益を得ていた、とのほのめかしのような−と共に登場したのだ。
 これらの新たな嫌疑−それが真実であろうがなかろうが−はいずれも、前のものに付け加わり、そして全ての他の自分のためだけに働く党と同じ泥をPTに飛ばしながら、この党の左翼的独自性を破壊することに手を貸している。ルーラとPT指導部多数派は自らが播いたものの報いを受けている、などということは殆ど語る必要もないことだ。

危機の乗り切り

 この危機への対処において、政府内のいくつかの部分は、PTに責任をとらせようと試みている。党の官僚は今もジルショーの支配下にある。そしてジェノイノを除いて、PT内で告発を受けた者達は彼につながっているのだ。
 しかし、嫌疑が調査される間デルビオを停職とするとの理のある提案が提出された全国執行委員会(六月八日)では、この不条理極まる官僚達は、彼は単に党決定を遂行したに過ぎないとの考えをより強く押し出しつつ、告発からの防衛で一致結束した。ジェノイノの指導を受けたデルビオはその後の報告集会では、彼は単に使い走りに過ぎなかった、との印象を振り撒いた。
 圧力の下で大統領府は関わりのある全て者に、いくつかの合図を送った。つまり、彼の弱体化が余りに進めば彼の辞任につながりかねず、二〇〇六年に彼の後を引き継ぐ者はパロッシかもしれない、というわけだ。それ故それは、避難の矢面に立ち、人々のあざけりを受けるのは、むしろPTの方がよい、ということを意味する。
 与党左派−社会主義的民主主義潮流(DS、PT内の第4インターナショナル支持派−訳注)多数派及び「明確な左翼」潮流の代表達−は、一方で政府の経済政策におずおずと再度抗議を明らかにしつつも、デルビオ防衛を図る党官僚とジルショーの策動の背後に連なってしまった。
 彼らは危機の大きさをつかみ損なっているように見える。「明確な左翼」潮流の全下院議員と並んで、何人かのDSの下院議員、例えばタルシジョ・ツィンマーマン、オルランド・デスコンシ、さらにヨアオ・グランダオも、郵便サービスに関する申し立てに対する議会調査の最初の要求にすら支持を与えなかった。しかしこの調査は、ロベルト・ジェファーソンが告発する以前に承認されたのだ。
 入閣がこの左翼を服従に導き、考え抜いた政治的主導性を要求する状況の中で自由に行動することを妨げている。このことは以前よりさらに明らかだ。

左翼ブロック−「隠すものは何もなく、失うものも何もない」

 より真剣な左翼は既に、先の危機が破裂するその前に、申し立て全てに対する全面的な調査に向けて圧力をかけると決めていた。「隠すものが何もない者は恐れるものもない」は、彼らのスローガンの一つだ。
 PT内左翼ブロック一二名の下院議員は、郵便サービス汚職嫌疑に対する最初の要求を支持し、そして彼らは今PT上院議員の一グループと連携を進めている。一方、調査に反対したPT下院議員は、その立場はもはや継続不能であり撤回するしかないということを、次の週には思い知らされた。
 「月々清算」に関する申し立てに関してもこのブロック−政府の新自由主義的手段に反対してきたPT左派議員から構成された−は、同じ立場をとった。即ち、政府とPTがどのような損害を受けようとも、嫌疑は調査されるべきであり、責任者は裁かれるべきだ、ということだ。
 この立場は市民社会の民主的諸勢力の引き込みを必要とし、それ故それは、これらの議員に全国司祭評議会やブラジル法律家協会の支持を追及させると思われる。
 しかしこのブロックは同時に、政府とPTが取ってきた腐敗した手口並びにルーラとパロッシの新自由主義経済政策に対する彼らの防衛、この両者の間の密接な関係をも指摘した。市場のための統治を行おうとする者は誰であっても、街頭と共にある統治を行うことはできない。経済政策の変革を強調することは、汚職反対の効果的な闘い全てと手を携えるのだ。

より広範な再編

 上述してきた危機は、与党であるPTの大きな部分、実際はジルショースタイルの政治、さらに少なくとも守ることが困難となった実用主義的対応、これらに委ねられてきた部分の士気をくじくことに導く。これは批判的なPT左派に対して、今だ左翼的観点を保持している層の中で、さらに政府の連立政策及びその旧来的政治の継続の結末を実感している層の中で、より広い支持を獲得する好機を生み出している。
 最近数週間のうちで、いずれも上院議員の、フレイ・ベットーと並んで、エジュアルド・サプリシーやクリストバン・バルケといったような人物が、政府と党の採っている方向に対する不満を明らかにした。しかし左翼を方向転換させる闘争は、「左翼ブロック」に参加している何人か、例えば「民衆社会主義行動(APS)」潮流などが提案しているような、新党指導部のための選挙として党内の行儀の良い論争で遂行されることはないだろう。事実PT内部の指導部選挙(PED)はこれまで、議会内で繰り広げられた紛争によって完全に副次的なものにされてきたのだ。
 他方において、上院議員エロイザ・エレナ(年金「改革」をめぐってPTから除名されたDSメンバーであり、彼女も第四インターナショナルに所属している−訳注)の社会主義自由党(P−Sol)に結集する政府支持の左派が設定した「防疫線」も、持続不可能となった。この党は、二〇〇六年の選挙立候補に間に合うような法的登録を獲得する途上にある(それはまだ保証されていないが、可能性は非常に高い)。
 この党はまた、セクト的でないやり方でPT左派との連携を追及し−この党の議員メンバーによる最近の声明に見ることができるように−、現在の危機に前向きに対応した。何が起ころうとも、二〇〇六年の選挙においてはエロイザ・エレナが中心的な人物となるように見える。この選挙で彼女が大統領に立候補している、ということはありそうなことなのだ。最後に、政府とPTがその路線を変える可能性は全くなさそうに見えるということ、さらにPTのイメージが受けた打撃は逆転できないかもしれないということ、これらを前提とした時、PT左派は中期的なその将来を討論する必要がある。
 ルーラが今採っている方向は中央政府へのPSDBの復帰を準備しているのかもしれない。可能性としての計画Bについて思案することはもはや不可能だ。どのような場合であれ、「左翼ブロック」の一体となった行動を通して可能な選択を利用することだけが唯一可能性のあるものとなるだろう。それ故、ブラジル左翼の見とおしの広範な再形成という枠内における大きな動きにとって次の数週間が重要だ。
二〇〇五・六・一六 サンパウロ
注)筆者は、世界社会フォーラムの国際評議委員であり、PTのDSメンバー。

 
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