イラク
憲法草案国民投票のスンニ派票
 ジルベルト・アシュカル

 一月三〇日の国民議会選挙と一〇月一五日の国民投票との大きな違いは現在確認されている限りで、スンニ派の−不均質ではあるがそうであっても重要な−参加だ。この展開を実情に沿ってみることで興味深い点が見えてくる。

公式的立場の概括

 先ずイスラム党(IP)を見てみよう。よく知られているように、国民投票において賛成投票を呼びかけた唯一のスンニ派大政治勢力がIPだ。この党は「ムスリム同朋団(MB)」のイラク支部だ(とはいえムスリム聖職者協会もまた国際MBに近い)。
 イラクのスンニグループの中ではこの党は、サウジ王権とヨルダン王権からの圧力に最も影響を受けやすい勢力の一つであり、サダム・フセインの失権以前には長い間、亡命したイラク反体制派の大半と共にアメリカと協力してきた。
 彼らはアメリカ駐イラク大使のハリルザドの仲介を受けつつ、シーア派−クルドの連合との合意に達した後、憲法案に対する立場を転換した。彼らが依拠したものは、一二月に予定されている新たな国民議会選挙後に憲法修正手続きを設定する(新議会の多数決による。それが首尾よく進めば次には、一〇月一五日と同じルールを持つ人民投票が続くことになっている。即ち、三つの州で反対票が三分の二を越えれば修正は否定される、ということだ)、という合意である。
 IPの態度の転換は、彼らの下部内における分裂を、さらにその事務所や党員に対する暴力的攻撃すらをも導いた。しかしその攻撃はスンニ諸勢力の殆どから非難された。
 次にボイコット勢力。憲法案国民投票に対する態度を決めたスンニ派に基礎をおく第一の勢力は、そのボイコットへの支持を無論「原理」の問題としている。ここには二つの勢力がある。
 第一はバース党であり、この投票からあらゆる正統性を奪うためにボイコットを呼びかけている(九月九日の日付がある汎アラブ指導部のコミュニケ、及び同月のイラク指導部コミュニケ。また、バース党に合法的外見を与えるために奉仕している政治勢力、例えば「愛国勢力−ワジャル−イラク最高委員会」はその先例にしたがっている)。
 二番目はザルカウィのイラク内アルカイダ機構。彼らは、いかなる人為的な憲法にも反対するという形に「原理化した」超原理主義的姿勢、並びに反占領の立場という二つの観点から、国民投票に対するどのような参加にも警告を発した。だがそこにはそれだけではなく、参加を呼びかける人々に対する暴力行為を伴った脅迫もが組みになっていた。
 最後に反対投票勢力がある。四つの主要な武装勢力は、彼らの支持者達に反対投票を呼びかけた。それは、三つの州で要求された三分の二の多数を集めることによって草案を葬り去るためである。この四つの勢力とは、イラクイスラム軍、ムジャヒディーン軍、イスラム抵抗運動(「一九二〇年革命ハマス旅団」)、そしてイスラム抵抗イスラム戦線である。
 最初ボイコットを呼びかけていたこれらのグループは、彼らの姿勢の転換を、国民投票期間に出されたコミュニケで以下の論点を基に説明した。その第一は、スンニ同胞が政治的に行動することを邪魔することでまた責められたくはない、ということ。次に、三つの州における三分の二が要録有権者から実際の投票者にされた最近の投票規則確定によって、草案否決が勝負できるものとなったことが挙げられている。さらに、スンニ派地域の投票をスンニ派が管理することの保障が得られ、結果の偽造が不可能と思われること、また、草案反対の層は、スンニ、シーア双方のイラク民衆の中で大きな部分を占めていること、それ故草案否決には大きな希望がある、などの諸点が述べられている。
 その上でこれらのグループは、タル・アファルで始められ、サマラ、ラマディ、さらにその他に広げられたアメリカ軍による最近の猛烈な攻撃を挙げながら、草案否決の恐れからスンニ地域での投票参加を邪魔しようとするアメリカに対する告発を付け加えた。
 ここまでに触れていない唯一の大きなスンニ派武装グループは、アンサール・アルスンナ軍である。彼らは単純に立場を示していないだけだった。それはおそらくは、ボイコットに傾く彼らの本来の気持ちと、スンニ派民衆の中で支配的になっている傾向に対立したくないという願いの間で、引き裂かれてのことである。

スンニ政治グループの連合

 いくつかのスンニ政治グループは、国民投票での反対投票を同様に呼びかけた。しかしながら、ムスリム聖職者協会、イラク国民対話評議会の周りに、原理主義者とバース党双方の政治的部分として活動しつつ集まった連合の公式声明は、ボイコットと反対の間で問題をはっきりさせないまま残した。それはただ、「合法的な」手段によって、即ち暴力を避けつつ、草案を否決することを呼びかけている。
 彼らのスポークスパーソンであるサレ・アルムトラック(あるいはムトラック、彼の名前のアラビア語の表記には異なったつづりがある)は、IPとシーア派並びにクルドとの間で最後の瞬間に行われた合意の後でも、草案否決という彼らの姿勢を変えるには十分ではないと説明し、そこで以下のような議論を展開した。しかしそれは、政治的論法においてイラクの諸党派が適用した二重基準の著しくびっくりするような実例である。即ち彼は、三州における三分の二ルール(将来の修正を否決するに十分だと思われる)は、三州における多数派にイラク民衆の八〇%が採択するかもしれないものを葬る可能性を与えるが故に不公正だ、と語ったのだ。
 資料として示すものは、投票終了後の一〇月一五日夜に発表された、スンニ州での国民投票に関する、スンニ派内部出所の分析からの抜粋である。
注)筆者は現在パリの大学で、政治学と国際関係の教鞭をとっている。彼はフランスに渡る前、長い間レバノンで暮らしていた。彼は、「ル・モンド・ディプロマティーク」誌の常連寄稿者であり、かつ現代政治に関する何冊かの著作も出している。邦訳があるものでは、「野蛮の衝突、九・一一と世界新秩序の形成」。

資料
IPの陰謀とザルカウィの病的こだわりとの間で、スンニの投票は敗北した
   ムファキラート・アルイスラム、一〇・一五

 イラクの現場で最も影響力があり、主要な抵抗グループの四つが、投票所に出かけ、憲法案に対して反対票を投じるようにと昨日呼びかけたのだが、現実は全てのスンニ共同体が期待したものと逆になった。我々の通信員は、アルカイダのイラク組織の支配下に入った地域では投票率が殆どゼロか無視できるほどだった、と報告したのだ。
 このことはスンニの住民を、アルカイダ組織に対立する方向に押しやった。というのも、その立場は、スンニ住民に憲法案を不成立とするために投票するよう要請していたイラクの残りの聖戦グループとは対立していたからだ。
 四人のスンニ市民が、反対投票後に投票所から出ようとした時、アルカイダ末端組織の手で、この朝国民投票が始まって間もないときに殺された。このように、彼らの親類の情報に基づいて、ラマディのムファキラート・アルイスラム通信員は伝えてきた。そしてこの事件は、この都市の住民の中にある種の恐慌状態を作り出し、この地での登録有権者数が三四七、〇〇〇人に達していたにもかかわらず、市民が投票に参加することを妨げたのだった。
 ファルージャの聖職者かつ説教者の一人であるシェイク・アブドゥル・サッタル・ムハムマドは、恐怖と脅迫という手段で人々を投票参加から妨げることでアルカイダ組織は巨大な失策を冒した、と語った。そしてさらに、シーア派やクルド勢力や世俗的諸政党やその他に対するスンニ住民の周辺化と無能力化に対して、他のグループと共にアルカイダ組織が手を貸した、とも付け加えた。そしてまた彼は次のようにも語っている。即ち、アルカイダの末端組織がもし人々を投票に向かわせたならば、憲法はおそらくスンニ住民の一〇〇%によって拒絶され、同時に、スンニ住民がイラクでの少数派ではないということを証明できただろう、と。
 IPは、「賛成」投票の呼びかけをもってスンニ派の票の分裂に意識的に貢献した。しかしそれとは逆の側からザルカウィもまた、有権者に対する彼らの脅迫を通して、この憲法−その下でイラク人は長期にわたって悲惨な生活を送らなければならないかもしれない−に反対しているスンニ住民の中立化に無自覚の内に貢献することをもって、占領者とシスターニのサファウィ(「イランの代理人」であると思われているスンニ派を示すために、一定数のスンニグループに使われている蔑称)的追随者に贈り物を贈ったのだ。モスルの聖職者の一人が語ったことだが、彼らがもしアンサール・アルスンナ軍のように振舞ったとしたならば、その方が彼らにとってむしろ良かっただろう。
 投票参加を理由とした今日のラマディにおけるスンニ住民殺害、それ以前のIP党員殺害許可を経た後では、今日のイラクにおける問題は、さまざまな口実を設けたイスラム教徒暗殺の容認をアルカイダ組織がいつ止めるかだ。
 これ以前にもアルカイダの追随者はファルージャの第二次包囲の最中、ザルカウィの指導を結論にしていたウサマ・ビン・ラディンのアピールが出た以上ザルカウィの指導を受け入れるべきであるとの口実の下で、他の武装グループの方に彼らの銃口を向け変えた。この態度は抵抗の大衆的基盤を弱体化し、結果として、ファルージャ南半部における良く知られたアメリカ軍の攻撃遂行を可能とした。
 スンニ派民衆は、彼らの政治勢力及び聖戦グループを介して、投票によって、また占領者と彼らの政治的代理人を苦しめることによって、占領者とイランが支援するサファウィの夢を妨げたいと思ってきた。そして一方抵抗闘争は、占領者との戦闘の形で、断固とした行動を今も続行している。(「インターナショナル・ビューポイント」電子版一〇月号)


 
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