二月六日・東大駒場
元国連イラク査察官・スコット・リッター氏の講演
 

     目次 第一部 スコット・リッター氏講演             
              第二部 シンポジウム  質疑応答

 第一部 スコット・リッター氏講演
 
 なぜ私の国がイラクに戦争を仕掛けようとしているのか、その理由は一説によればイラクは大量破壊兵器を持っているからです。私はイラクのいわれるところの大量破壊兵器を武装解除するためにイラクで七年間任務につきました。それは難しい仕事でした。
 一九九一年に始まった国連査察の当初、イラクは査察に対する妨害をしましたが、それにもかかわらず、われわれ査察官は大変大きな成果を上げることが出来ました。一九九六年までに大量破壊兵器の九五%は破壊を確認しました。これには工場・設備が含まれます。残りの五%というわからない、説明のつかないものがあったのですが、それを補うために九四年から九八年までイラク全土をもっとも厳しい監視査察、現場立ち入り査察をおこなう体制で厳しく調べましたが、しかしそれでもイラクがまだ大量破壊兵器を所持しているという証拠は一切発見できませんでした。
 しかしそれでも国連の決議の一〇〇%の大量破壊兵器の廃棄、除去ということには至らなかったわけですから、われわれの仕事は完全だったとはいえません。
 査察がうまく成功裏にいくには、三つの要素が必要です。一つは、イラクが完全に協力してくれることです。二つ目は、イラクの大量破壊兵器の除去という国連決議をした安保理が、決議を採択した以上は、そのためのバックアップ、協力しなければそれにふさわしい手段をとるというバックアップ体制をとること。三つ目には、イラクに法の枠組み、決議に従うことを求めるならば、査察する側も、国際法その他の法の枠組みに従わなければなりません。
 私が査察官をしている間に限っていえば、イラクは十分な協力はしていなかった。そして国連安保理はイラクが抵抗するという中で、決議を執行するためのバックアップはしてくれませんでした。最大の責任はイラクにあります。しかし三つ目の要素を考えていただきたいのですが、九一年の査察が始まった時からアメリカは、イラクのフセイン体制の転覆ということをアメリカの政策の最優先とし、査察よりもそれが優先されていたという事実があります。アメリカは政権転覆という優先課題を抱えていたために、査察をこの目的のためには使うけれども、そうじゃない場合には使わないという、非常にゆがんだ形になりまして、それが九一年から九八年までの第一次の査察活動を非常に歪めましたという事態がありました。イラクの大量破壊兵器の査察というのは、安保理によって大量破壊兵器を見つけだし、除去し、廃棄するためにあるのであって、サダム・フセインを追放するための決議ではないのですね。アメリカは査察をフセイン打倒のために使おうとして、査察のプロセスを、フセイン身辺の悪行の証拠を集めるために悪用、乱用し、イラクを不必要に挑発して軍事行動を引き金に使おうとする非常に不適切な行動をとりました。
 イラクはたしかに完全に査察に協力しなかったのですが、けれどもイラクが査察体制の実施を停止させる責任があったわけではなく、アメリカが査察を歪ませる行為や政策を遂行したために九八年に査察を中断せざるをない、イラク側からいうと国連決議に基づいておこなわれていた査察が、アメリカの単独行動主義的なナショナルな政策追求に使われるという非常に不本意な状況になりまして、それで査察は中断せざるを得なくなった。
 九八年に中断した時点でイラクの潔白が百%検証されたわけではないのですが、イラクがこの時点で国際社会に脅威となるものを持っていたということではない。そしてこの査察によってイラクが、九一年以前に持っていた国際社会に対する脅威は大部分が取り除かれた状態で九八年の中断が起こったわけです。
 私は九八年の春に国連査察官を辞任した時点で、「もし査察団が完全にイラクから引き上げた場合には、六ヶ月でイラクは大量破壊兵器とくに生物化学兵器の開発製造能力を再建する可能性がある」と連邦議会で証言しました。それ以来四年査察の空白があり、その間イラクは様々なことをやれた可能性があります。そのことに対してわれわれが憂慮を持つのは当然です。四年の空白の間、私は査察の続行を強く主張してきました。そして当初からイラクへの武力攻撃ということは言われていたのですが、そうなる前に国際法の枠組みの中でやれるだけのことをやり尽くして、その上ではじめて戦争ということがあり得るわけで、法の枠組みの中でイラクの残った懸念される脅威というものを調べ尽くし、それについて手を尽くすことが必要だという私の立場を主張してきました。
 ご存じのように昨年の秋、イラクは査察の再開を認めました。今回はイラクは査察を無条件で受け入れるということを承認しました。もう一つ、今回の国連決議は、イラクが協力しない場合は深刻な事態を招くという文言があり、国際法の枠組みの中での法の執行ということがしっかりとバックアップされています。ですから私が先に申し上げた三つの条件の内の二つ、イラクの協力と安保理のバックアップということは満たされています。ところが第三番目の執行する側の法の枠組みにしっかりと則っておこなわれるべきということが満たされていません。なぜならアメリカ合衆国は、依然としてイラクの大量破壊兵器の廃棄、除去というよりもサダム・フセイン体制の転覆に政策の最優先順位をつけているからです。イラクの大量破壊兵器の査察は先ほども言いましたように、国際法の規範としておこなわれているわけで、アメリカ合衆国は当然安保理の最大の有力国としてそれを順守して査察をすることが必要なわけですが、依然として合衆国はフセイン体制転覆を最優先課題、最優先目標としているわけで、それは完全に国際法の枠組みから逸脱する、取り巻く状況のすべてを歪めることであります。
 アメリカは表面では査察を求めるといっていますが、実際はそうではない。なぜならイラクの大量破壊兵器の廃棄、除去が完全に行われれば、もともとの国連決議に従ってイラクに対する経済封鎖を解かなければならない。イラクへの経済封鎖が解かれれば、イラクはもう一度国際社会復帰する。そうなればイラクはフセイン政権を維持したまま国際社会に復帰するわけで、アメリカはそれは絶対に容認できないことなのです。アメリカはイラクの大量破壊兵器の武装解除を望むといっていますが、それは査察を通してではなく、軍事的にイラクに武力侵攻し、占領して、サダム・フセイン政権を転覆し、武力で残っているかもしれない武器をみつけて取り除きたいというのがアメリカの狙いです。ですから査察が平和理に完了するということは、アメリカにとっては望みに逆行することです。もしイラクが査察に完全に協力し、そして何も見つからなかったとすれば、どうでしょうか。 
 イラクは四年間の空白があったから時間がかかりますね。イラク側の協力が万全に行われる査察をし、何も見つからないということになれば、それは非常に望ましい事態ですね。しかしアメリカはそういう事態というものを望まないし、想像もしたくない。アメリカはイラクは相変わらず大量破壊兵器をどこかに隠していると主張している。しばらくの間は私を含めて多くの人が、依然としてアメリカがイラクは大量破壊兵器を開発、保持しているというならば、その裏付け証拠を出すべきだと指摘してきました。昨日まではアメリカは提出できなかったのですが、二月五日、パウエルはアメリカが反証できない決定的な証拠だと考えるものを提出してきました。パウエル国務長官はは「その証拠は確かな反証できない証拠だ」と言いましたが、私にいわせればこれは状況証拠であり、何一つ確定的にイラクが依然として大量破壊兵器を保有ないしは製造開発していることを示す材料は一つも含まれていません。パウエルさんは写真を見せて「塹壕の中に武器がある」主張しましたが、これは誰も裏付けられないのですね。また傍受記録テープを示し、これはこうこうこういう意味だと主張したのですが、どのような文脈で誰がどこでどんな会話していたのかがわからなければ、なんら証拠にはなりません。また彼は亡命者の証言を多用していましたが、私も沢山の亡命者から証言を得た経験がありますが、イラクの亡命者は大体は信頼が置けず、あのような証言を証拠だということは出来ません。ロケットがあると言ってますが、ロケット・ミサイルの写真も見せないで、それが証拠といえますか。幻の証拠です。十八台の移動式の生物化学兵器の製造工場があるといいましたが、それは絵を見せただけで写真も、他に確たる裏付け証拠もないのです。これが証拠になるでしょうか。パウエルが言ったことを一言で言えば、イラクに大量破壊兵器があるということではなかったのです。確証をあげて示すことができなかった。
 昨日のパウエルの主張したことを査察官が一つ一つきちんと検証すれば、査察官によって退けられてしまうでしょう。ですから査察というのはアメリカにとってもパウエルにとってもは敵なのです。ですからアメリカは査察を抹殺したい、終わらせたいということなのです。たとえばイラク中のトラックをすべて止めて虱潰しに調べて、それらには大量破壊兵器はないと報告されても、それだけではイラクが現実に大量破壊兵器を隠し持っていないということを示さないわけです。アメリカは何があろうともイラクは隠していると主張するわけです。パウエル長官の発表の目的は、国際社会に査察について疑いを植え付けるためのものです。
 二月八日には査察が再開され、一五日には次の結果報告が行われる。その報告は一月二十八日の前回の報告に近いものであると思われる。しかしアメリカは査察官が何もみつけられなかったら、どうやって支持を得るつもりなのか?ですからアメリカは査察は無効なのだ、どんなに探しても見つけられない。唯一イラクの大量破壊兵器を廃棄する方法は、武力侵攻して力で廃棄するしかないとアメリカは主張するのです。最後に頭に入れておいて欲しいのは、アメリカの目的が決して大量破壊兵器の完全な除去にあるのではなく、体制の転覆であり、それは完全な国際法への違反であるから、日本のみなさんにも是非イラクへの戦争行為には強く反対していただきたい。 

第二部 シンポジウム

パネラー:
姜尚中(東京大学教授)、首藤信彦(衆議院議員)、
高橋和夫(放送大学助教授)、田中宇(ジャーナリスト)


高橋和夫 二つだけ申し上げたいと思います。第一点はパウエル国務長官のアルカイダとイラクとの関係の説明について一言疑問を申し上げたいと思います。パウエル長官によれば、イラクの北部、イラク政府の力の及ばないクルド地域にテロリストの訓練基地があって、そこで生物兵器や化学兵器を作っている。それがアルカイダによってばらまかれようとした、と。それとイラク政府がつながっていて、それが危険なのだ、と。私はこれは非常に奇妙な理論だと思います。もしアメリカが生物化学兵器が作られていると知っていたら、当然アメリカはそこを爆撃したはずなのだ。なぜ、それをいままで放置してきたのか。納得がいかない。二番目には、アメリカのイラク攻撃の論理の一つ、中核をなすものは、サダム・フセインが邪悪な人だ、とブッシュはいうのだけれども、1980年代、イランがイラクと戦争をしていた際にはアメリカは、ある意味でしゃかりきになってサダム・フセイン体制を支えてきた。スパイ衛星のデータを提供したのもアメリカですし、戦術的アドバイスも与え、クラスター爆弾を供給したのもアメリカです。その先頭に立ってきたのが今のラムズフェルド国防長官です。ですからアメリカがフセイン大統領を邪悪だと規定するのは、80年代にフセイン支持をした自分たちも邪悪であったと言うのでしょうか。査察の強化を希望しますが、同時にパウエル国務長官の論理矛盾、ラムズフェルド国防長官の過去に関する徹底した査察を行って欲しいと強く思います。

首藤信彦 民主党の首藤です。一月二十七日の査察報告がありますが、それを日本のテレビでは生で見えない。パウエルの報告があった同じ時間、日本のテレビはギャルの裸とはシルクロードとかを流していた。だが、BBCはこの問題を延々と放映していた。この国はどんな国なのでしょうか?
 ブリックス委員長は査察はようやくここまで来た、これからが本当の査察だといい、エルダルバラ氏は「あと数ヶ月したら、核兵器はないと証明できる」といっているのに、翌日の新聞は「決定的な証拠提出」の文字が躍っている。昨日のパウエルの話はあまりにも幼稚で、おかしい。本人も認めるくらい恥ずかしい、おかしな話をしているのですが、われわれがライブで見たものと今朝やニュース新聞で見たモノの差がどんなに大きいかよくわかりました。今日はリッターさんに直接話を聞いてみたいと思って来ました。戦争は止めないといけません。戦争が起こりそうな時に、誰も止めようとしなければ、それは止めようとしなかった人にも責任はあるんだと思います。

姜尚中 リッターさんの話を聞けば、このイラク攻撃というのは、国際的な大仕掛けのえん罪である。死刑執行ということはあらかじめ決まっていて、それに向かっていろいろ振り付けを行っている。えん罪ということをわかっていてしかし国際社会はこれを止められない。おそらくはイラク問題の帰趨は北朝鮮に直結するわけで、私自身は基本的には湾岸戦争以降、アメリカの一国単独主義的な国際秩序ができあがろうとしているわけですが、やはり今回のイラク帰趨が今後の北朝鮮にどう影響するか?
 それからアメリカは北朝鮮の核の問題を安保理に持っていき、最終的に持久戦に持っていって北朝鮮を孤立させる。そして今回のイラク方式が成功すれば、北朝鮮にもそれをとりかねないという認識を持たなければいけないという重大な問題であると思っています。今の北朝鮮は現在日本の中でどのように描かれているかというと、ご承知のようにです。果たして北朝鮮に核兵器というものがあるのかないのか。私自身は一言でいえば、核実験をしていない段階において、北朝鮮が核を持っているという証拠はないと思っています。なるほど使用済みの核燃料棒を封印を解除したり、いろいろ出てはいるわけですが、最終的にこれが持っているか持っていないかはわからない。ただはっきりしていることは、現在アメリカがやろうとすることは体制を崩壊させることである。私が一番怖れているのは、あるがままの北朝鮮ではなく、アメリカの望ましい北朝鮮にするために最終的に体制の崩壊を考えているのではないか?それに連動している力が日本に働いている。その中に今の北朝鮮報道が異常に加熱しているということを考えなくてはいけないと思います。もともと国家社会主義の国において、収容所やさまざまな残忍な非人権的な問題があるということはかつての東ドイツやソ連、ベトナム、中国を見れば明らかです。現在の北朝鮮が悪魔であるとか、地獄であるとか、非人間的である世界であるという非常に単純化されたイメージがはびこっていますが、われわれは現在サダム・フセインをヒットラーの申し子のように戯画化しているのと同じように、イラク方式が北朝鮮に適用された場合を考えると、日本と韓国にとって空恐ろしい事態になる。したがって私たちは今後のイラク情勢が私たちの生活に直結するのだということを再確認しておきたい。  

田中宇 イラクに行っていろいろ取材し、見てきましたが、私ははたしてイラクで戦争があるのかどうか、かなり疑問に思っています。湾岸戦争の頃から見ていると、アメリカにはフセイン政権を潰したいと思っている人、潰したくないと思っている人がいる。タカ派、右派は潰したいが、パウエルやべーカーはフセインを潰したくないと思っているフシがある。というのはもともと中東の国境線というのは一九二〇年代にフランスとイギリスが分割して、作った物です。中東は石油が出ますから、石油を安く買うために国境が分割されていた方がいい。だから、殺したくない。フセインを殺してしまうと、中東は混乱してしまう。サウジアラビアやヨルダンなどは政権は強くない。そうすると二〇年代からの分割戦略を見直さなければならなくなる。しかしパウエルは前から言っているけれども反対なんです。だから私はどうもおかしいなと思っていた。では戦争をやりたい人たちというのはどうしてかというと、ラムズフェルドはイスラエルの大シンパだから、中東の混乱は大歓迎だ。自分の国が強くなるチャンスと思っている。そういう状況がある中で、私は戦争はないんじゃないかと思っていた。現実にイラクやイスラエルにトルコやサウジアラビア、イランの通商代表団が沢山入っている。戦争があるとしても短時間に終わって、イラクの経済状況には影響がないという前提で来ているとしか思えない。バクダット株式市場は一二月に最高値を更新している。おかしいでしょう。ブッシュがやるやると言っているから、アメリカは戦争する気があるのかなあとは思ってはいますけど。昨日のパウエルのお粗末はばかばかしいでしょう。戦争する方向に追い込まれたのか、それとも撤退する方向に向かっているのか、どっちかはわからない、今日の段階では。

リッター 私自身ももちろん戦争はなければいいと心から望んでおりますが、事実としてはすでに十二万の米兵が中東地域に配置されています。暑さで焼け死にするわけでもないので、あり得るかなと感じています。しかしちょっと角度を変えますと、なぜ私が今日、日本人のみなさんの前に来て、アメリカの戦争に反対する話をしているか。私がここにいるのは、私が愛国者であり、アメリカを何よりも愛しているからであります。私はアメリカ海兵隊員として、軍服を着て、国のため、国際社会の安定のために、実際に戦争をしてきました。そういう私がいまのアメリカ政府のやろうとしている戦争に反対しているということは、私が信じるアメリカの価値、国際社会における方向性と逆行するものがあるからです。この戦争に反対するということは、アメリカの非国民、売国奴、非愛国的ということでは全くなくて、いまこの戦争に反対することこそがアメリカ人としてはもっとも愛国的なことなのです。
 ですからみなさんにも、このアメリカの戦争に反対することがアメリカに反対することだとは絶対に考えないでください。実際には、この戦争に反対することこそがもっともアメリカのためになることなのです。アメリカのことわざに、友達というのは友達が酔っぱらい運転をしていることをいさめるものだというものがあります。今のアメリカの外交政策のハンドルを握っているのは酔っぱらいです。地下権力と傲慢さに酔った酔っぱらいが運転しようとしているわけです。ですからみなさんはアメリカの友人であるならば、酔っぱらいが運転しようとしている車のキーを後ろから肩越しに抜いて、酔っぱらいが運転する車が崖から落ちないようにして欲しい。
 私の期待では日本の圧倒的多数がイラク戦争に反対すると思います。ところがあなた方の政府は、アメリカの戦争を支援しようとしている。これは民主主義でしょうか。もし民主主義社会なら、市民、国民の声を政府に聞き取らせることができる。もし日本の政府がみなさんの声を聞かず、アメリカ政府の無法な政策についていくのならば、日本の国旗を掲げるのを止めて、アメリカ国旗を掲げ、アメリカの植民地となればいい。

高橋和夫 私もスコット・リッターさんのように自分が間違っていればいいなと思いますが、しかし四十度にも五十度にもなろうという地域にアメリカ兵が日向ごっこに出かけているわけはないなと悲観的には考えています。

首藤信彦 昨年イラクに入り、フセインの側近にあって話をしたのですが、イラク政府は戦争は確実に起こるだろうということで準備を進めています。中東ではカラシニコフという自動小銃、機関銃なんですが、それを普通の人みんな持っている。ゴルフバックを持つみたいなもんです。日本は50年間戦争がなかったんですが、戦争のキーワードは「動員」です。動員が始まったら戦争は止められないんです動員が起こったら戦争は起こっているのです。ただ客観的にはそれを止めるのは大変な努力が必要です。イラクはクエートに押し入って押し戻されたわけですが、外に押し入るのと自分の国が攻められるのとでは大違いです。戦争はおこるかもしれないが、止めるチャンスは何回もある。イラクに押し入って、軍隊を破壊つくし、ちょうど日本みたいに占領して国を作り直す、というわけには行かないのです。アメリカが日本を占領するのにどれだけの労力は必要だったか。戦争の可能性は、しかしあるかもしれない。しかし止める可能性もあるわけで、その時にどうできるかを視野に入れることも必要と思います。

田中宇 アメリカの戦略がどう変わったのか、はっきりとは言えないので、戦争になる可能性は十分にあると思います。石油の問題があります。今は石油はお金を出せば買えるけれど、アメリカのヘゲモニーが確立すれば、日本はますますアメリカへの従属を強めざるを得ません。そういう意味でもアメリカの中東支配戦略には反対しなければならないのです。サダム・フセインを支持していけばいいのです、国益として。これらの国にどうやって民主主義を定着しさせていけるのかということを考えるべきです。ではサダム・フセインを支持しているのかと。中東には中東の論理があります。イスラム社会にはイスラム社会の認識があります。アメリカはそれを理解していない。

アメリカの内部について

リッター アメリカは法の支配に従っている。その大本はアメリカ憲法。しかし法というのは常に便利なものではなくて、なかなか難しい場合がある。比較的安定した状態で共存するためにあるということもあります。法というものはすべての人に平等を提供するためにあります。ですからアメリカの外交政策を考える時にも、アメリカが立っている理念と整合性をとった考えを採るべきだ。 戦後の冷戦体制は、一方にアメリカが法という民主主義の勢力があり、他方にはソ連を中心とする、不当にアメリカが悪と呼ぶ共産主義の体制があった。この二極体制の時代には、ある一定の秩序があった。しかし、ソ連崩壊で真空が生じ、アメリカが事実上、唯一のスーパーパワー大国になっている。その結果、二極の中で比較的に保ってきた法という枠組みが、この一極化した世界では必ずしもうまくいかない、合わないという状態が生まれてきました。西欧の諺では絶対的権力は絶対的に腐敗するというのがあります。新保守主義の勢力はアメリカの意志決定のシステムを乗っ取った状態です。彼らは一国主義的なアメリカの世界支配というものを目指している。ところがこの一国主義的な新保守主義はアメリカの拠って立ってきた憲法の精神とは外れている。例えばオサマ・ビンラディンの一派が世界平和にとって最大の脅威だといいます。もしアメリカが一国単独行動主義的な世界の帝国的支配に乗り出したとしたら、アメリカこそが世界最大の世界の安定と平和にとっての脅威になる。

フセインについて
 
姜尚中 その前に申し上げておきたいのは、ネオ・コンサバかリベラルか、もう一つアイディリストかリアリストかということがあります。今申し上げているテーマは、十九世紀末から二十世紀初めにかけて、セオドア・ルーズベルトの時代にアメリカがフィリッピンやキューバに進攻していく。そういう時にアメリカ本来の経国の理念から判断するという運動はあったわけです。今のブッシュ政権の内部にはたぶんリアリズムはないのではないかと思います。この本の中にジョージ・ケナンという人のことが書いてありますが、最近ジョージ・ケナンはブッシュ政権を批判しています。今九十九歳になるジョージ・ケナンは冷戦時代の政策を方向付けた人ですが、彼ですらも反対している。彼はこの本の中で、アメリカの最大の宿痾は軍事的問題にある。それは二つある。一つは、相手を完全に殲滅するという、無条件降伏へ持っていくという戦争の味をしめてしまったこと、二つは空爆をすることなんです。おそらくそれによってもっとも変えられたモデルケースが日本だったわけです。今は日本モデルを世界に掲げて、アフガニスタンもイラクも叩けば、その後に日本と同じようにわれわれが民主主義的な国を作るのだ、という主張です。私はこのような論法というものが、まったくケナンですらも反対するような、まったくパワーポリテックスが成り立っていかないということをまず申し上げておきたいのです。
 それでその問題と関わることですけれども、私が一番恐れていることは、もし安保理が拒否権を行使せずにイラク攻撃に向かっていった場合、これはさきほどリッターさんがインペアリズムといいましたが、アメリカが突出していわば立法、司法、行政を束ね、軍事的な制裁、警察権力を自分自身が握り、軍事と治安をアメリカがもち、その下請けを国連がやるようなある種の補完関係が成り立つという体制が一番恐ろしい。かつて十九世紀に西欧列強が世界を定めるという構造がありましたが、国連とアメリカの補完関係がもし成り立ってしまうと、それに対して日本の中でそれに反対だとはなかなか言いづらくなってしまうと思いますね。そういう構造ができあがる可能性があり、そういう中で北朝鮮もイラクも一応、国際連合の加盟国です。にもかかわらず自分たちの尺度に合わない国や集団を、ナラズモノ国家とかイーブン(邪悪)とかテロリストという形で輪切りをして、アメリカの恣意的な判断で軍事的制裁、その後の治安維持をし、その後は日本を中心にするような国際連合の有力国が後始末をするような仕組みができあがる可能性があると思います。もしこれが出来上がってしまうと、大変なことになると思います。言ってみれば、クラスの中で一番強いガキ大将が、自分がこのクラスでいやな奴あるいは排除すべき奴を、俺が言うからお前たちは支持しろという、そういうシステムが出来上がると、いわば北朝鮮やイラクという国は完全に裸ということになる。私自身は七九年にヨーロッパにいましたが、イラン革命がおきてシャーの体制が崩壊しました。このときにとてつもない秘密計画があって、イランの人々は徹底的に残虐な行為にあったわけですね。七九年から二〇年ちょっと経って、今度は逆のことが起きているわけです。アメリカを中心にして、アメリカはノーという国に対して先制攻撃、しかも場合によっては核攻撃すら辞さない体制になっている。もしこういうことが起きてしまうと、おそらく私たちの国際社会だけでなく私たちの社会の中に、汎(パン)暴力主義、全てが暴力によって決定され、法律はあとについていくということになる。これを彼らはジャスト・ウオー、正義の戦争といっている。
 日本がやるべきことは、アメリカがモデルといったこの日本が、日本国憲法に従って、本当の意味でのモデルになることです。そういう責任を日本は負わされているということを是非とも理解していただきたい。
 
高橋和夫 アメリカの大統領府の人たちは、自分たちの力で中東を民主化すれば、自分たちの思い通りになると思っているのかなというのが非常に不思議でして、おそらく今サウジ・アラビアで大統領選挙をすれば、勝つのは親米派ではなく、オサマ・ビン・ラディンだ。私の独断と偏見を申しますと、大体中東では政府が親米だと国民は反米だ。そこで選挙をやれば反米政権ができるのは当たり前で、その例としてアルジェリアがある。その反対はイランで、政府が反米だが、国民は親米。中東の政権を全部ひっくり返えすと、親米政権はイランとイスラエルで、後は反米。ちょっと寂しいことになるんですが、新保守主義の方はあんまり先のことを考えていないのではないか。私は査察ということにこだわって言えば、本当に査察が必要なのはブッシュの頭の中だと思う。

日本の状況

首藤信彦 実はわれわれは、一番不安定で危ないのはイラクだと思っているのですが、イラクは別の言葉で言えばメソポタミア、チグリス・ユーフラテスが流れる肥沃の大地なのです。石油が出なくてもやっていける、それくらい豊かな大地なのです。どこが危ないか、実はサウジ・アラビアなのです。今、石油最大の埋蔵量を持っているサウジ・アラビアが石油の安定供給国として存立できるかどうかに大変な危惧をみんな感じ始めるようになっています。そこにイラクという存在、非常に安定、イラクマイナスサダム・フセイン、イコール非常に素晴らしい中東の安定国家、そういうように非常な魅力を感じ始めています。同じようにこの問題ではアメリカの軍事産業も関係しつつある。沢山巡航ミサイルをうつ。しかしそれだけではない。ここにはもっと大きな問題がある。すなわち軍事産業というものが存立できるかどうかという問題がある。軍事産業何やるか、敵国がいるんです。敵の飛行機が攻めてくる、敵のミサイルが飛んでくるのが必要なのです。そこでアルカイダが何をやったか。留学生が普通のディスカウントチケットで飛行機に乗り、アメリカの中心部に神風特攻をしてしまう。こういうテロリズムと闘う軍事産業というものはいくらお金が稼げると思いますか。盗聴器、一個一万円の盗聴器を何万個売ったって、たいしたことならないんです。だから今起こっていることは、テロリズムは、われわれの社会にとっても脅威ですが、軍事産業にとっても脅威なのです。テロリズムを相手には軍事産業は成り立たないということなのです。ですからここでは必ず敵国というもの作っていかないいけない。ですからみなさん、このように馬鹿な戦争が起こるのかというと、現代社会の様々な問題が収束しているということなのです。ですから日本の問題も非常に大きな問題があります。なぜ今までこんなにもわれわれはアラブの社会で評価され、素晴らしい国だと言われていたのが、日本を敵国と位置づけている。アメリカ、イギリスに次ぐ敵国だと。こんなことはあり得なかったのですね。どうして日本が中東にある利権、八〇年代まであった日本に対する信頼感、評判を犠牲にしてまでやるかというのは、朝鮮問題でどうやってアメリカと組んでいく、冷戦後の社会の中で日本の貢献というものをどうしていくのか、国際社会の中で日本はどう生きていくのか、そういう問題が全部絡んでくる複雑な問題だということなのです。
 日本の国民が九〇%反対しているのにどうして小泉さんはああなのか。小泉さんの支持率はついこの間まで九〇%あった。今でも六〇%ある。自由民主党の中にもこんなのおかしいよと言う人がいるのに、どうしてアメリカがこうすれば、それに賛意を表するというような首相が支持されているのか。そういうことを考えれば日本の政治も、もう一皮むけなければならない。
 なぜ私がこのような活動をしているかといえば、やはり世界でいろいろ紛争地にいって、石一個投げれば戦争が止まるんじゃないか、石一つ拾えば平和が戻ってくるんじゃないか、日本が少し動けば平和が来るんじゃないか、そう思える瞬間がいくつもあるんです。しかし日本は絶対に動かない。外務省も政治家も動かない。だからここを変えるには日本の政治が動いていかないといけない。しかし日本の政治は先ほども言いましたように、一方では日本の国民のほとんどの人がイラク攻撃はおかしいといいながら、一方では小泉さんの政治が六〇なん%も支持されている。この矛盾を解決していかないと、このイラク問題に政治的に取り組めないと思います。
 
田中宇 軍事的や政治的ヘゲモニーはまだ支配力があるんです。経済的な支配力はアメリカはどんどん落ちている。それはドル安に現れています。アメリカは軍事や政治の力をなんとか換金したい、お金に換えたいと思って、いろいろやっているんじゃないかと考えられるのです。それともう一つ、先ほど出たネオ・コンですが、ネオ・コンが中東を民主化するなんてだいたいおかしいというのが私の考えです。というのは文明の衝突という考え方ですが、イスラム対西欧というあり方になる。これをネオ・コンが中東を民主化するといって、無理矢理民主化するとなると反米のイスラム原理主義になる。オサマ・ビン・ラディンはもともとアフガニスタンでCIAが育てた。そういう原理主義を使ってイスラムを防衛しようとする。かつてはアメリカとロシアが対立することによって、みんながそれに巻き込まれていた。アメリカも味方を作ることによって自分の利益にしようとした。オサマ・ビン・ラディンでも使って、そうやらざるを得なかった。これは少々荒唐無稽かもしれませんが、ではネオ・コンがどうしてわざと失敗するようなやり方をやるのか、文明の衝突というのを予測してやっているとしか思えない。アメリカは世界中で対立を煽るような構図になっている。もしわれわれが警戒しなければならないかというと、さっきでた北朝鮮、中国問題。たとえば右派系のマスコミは反中国、反北朝鮮を煽っている。それにだまされてはいけない。アメリカが言っても、あるいは北朝鮮がロシアと同盟してアメリカを批判してもいい。お互いに天然のライバルなんだから。だからといって東アジアと団結しなければならない日本が安直に金正日バカヤローと叫ぶのは絶対にいけない。


首藤信彦 政治家になってつくづく感じるのはどこまで日本はアメリカに食い込まれているのかということですね。みなさん有事法制という問題があるのですが、有事法制を見て、私も多少は政治の問題を長くやっていますが、他国の軍隊を駐留している国は、有事の時は他国の支配下におかれる、ということが当たり前の国際法だと知ったのはほんの最近のことです。すみません。さきからなぜメディアのことを言っているかというと、日本は本当に自分の姿を鏡でみたことあるのか。ですからいま政治を見て、本当に民主党が悪いという意見もあります。本当に悪いのですよ、だらしがないですよ、私もそう思います。私はすべてをなげうって政治をやっています。どうやっても動かないですよ。しかしみなさん、考えてください。どうしてわれわれは力がないのか、どうして選挙に負けるのか。
 三つ目の戦争が起こったら、それは止めようとしなかった戦争だ、私はなぜこの戦争を必死で止めようとするかというと、それは私が起こした戦争であるからだと。そういう自覚を持って変えようとしなければ日本の政治も変わらない。そして世界の平和もできない。
 
質疑応答

 質問を三つずつまとめて読み上げます。
・アメリカの査察能力と国連の査察能力はどちらが上か。
・九八年の段階で廃棄を確認できなかった十%程度の兵器は、今回の査察の過程で、重点的に調査されているのか。そうであったらその結果を教えてください。
・核を持っているアメリカを査察すべきではないか。核兵器を持っているパキスタンなどを査察しないのはダダブルスダンダードではないか。

リッター 
 軍縮あるいは軍備管理を語るとすれば、それはすべての国に平等に適用されるべきであって、もちろんそれにはアメリカ合衆国も含まれる。アメリカが持てば、ソ連が持ち、中国が持ち、インドが持ち、パキスタンが持ち、イスラエルが持ち、そしてあらゆる国が持ちたがるというわけですがから、これを解決する唯一の方法は、原点に返って、どこの国も核兵器を持たないことに立ち返らなければならない。 
 残りの十%の兵器ということですが、説明がつかない、行方がわからないということは、あるということではないのですね。イラクは全部百%廃棄したといっている。こちらの査察団では九〇%から九五%まではそれが正しいことを検証していますが、残りはわからないということです。この中のある部分は懸念するに値しないようなもの、たとえば、炭疽菌。イラクが炭素菌を一杯作ったのは一九九一年。そして九六年には査察団が完全に施設を破壊していますから。そして液体炭疽の貯蔵寿命というのは三年です。それらについては懸念するに及ばない。化学兵器も同じで、イラクがさかんに作った八三年から八八年の間の化学兵器は非常に品質が悪くて五年くらいしか持たない。それをとりあげてどうこういうようなものではないのです。
 結論を一言で言えば、現在イラクの地上に査察団が入って自由に査察活動が実行しているという状態では、イラクは有効な大量破壊兵器を持ったり、作ったりすることはできない。
 現在の再開された査察活動は、私が参加していた時よりも十倍も恵まれている状況にあります。われわれは、この査察を全力で支援するべきだと思います。
 
・亡命者の証言は信用できないといわれましたが、それはどのような根拠から言っておられるのですか。
・酔っぱらいの友人のアメリカを止めるのに、今私たちは具体的に何をしたらいいでしょうか。
・リッターさんご自身に対する質問ですが、なぜ多くの査察経験者の中で、あなただけが声を上げているのですか、他の人はあなたと意見が違うのでしょうか。

リッター アメリカも核兵器査察を受けるべきです。皆さんの力で国連決議案を採択出来るようにして欲しい。
 なぜ私が他の査察団員と違うのかちょっとわかりません。一人知っているのは九一年から九七年までUNSCOMの委員長やっていたノールウエイの査察官で、彼は私と同意見です。次の日曜日には昔の仲間とビールを飲みながら語りますが、彼らもまったく私と同意見で、支持しています。私が他の査察官と違うのは、私がアメリカ人だからだと思います。アメリカ人として唯一というくらい十年に渡る査察の知識、経験を持っている人間は。いまこれはアメリカの新聞ですからアメリカ人として言えることを言うのは私の責任なのです。
 亡命者についてはちょっと私の言い方が悪かったかもしれません。一部には意味のある証言をする人たちもいます。最近の亡命者の言っていることの八〇%は検証が出来ないし、その意味で信憑さにかける。特に戦争か平和かという決定をする際には、基準とできるようなものではありません。私は同僚のアメリカ人たちが戦争に突き進んで沢山の命が失われる前に、私としては亡命者の証言というよりも、なにかもう少しまともな根拠の元に議論をしたいと思っています。



 会を終わる前に、リッター氏の市民的勇気に敬意を表したいと思います。最後にまとめとして、リッターさんのこの本のある部分を読み上げさせていただきます。そしてアメリカ人という言葉を日本人として読み替えますと、いったい私たちはどういうことをすべきかということが書かれていると思いますので、その箇所を三十秒で読みます。
 戦争の旗を振る人々がその理由を国民にはっきり示さないとしたら、アメリカ国民は戦争の理由があいまいだということを知っておく必要がある。戦争の荷担をする国の人のことも考えてみましょう。これはアメリカ人であることの核心に迫る問題であり、われわれの責任があるかという問いに深く関わっています。われわれの第一の責任は、選挙で選んだ代表たちがワシントンで好き勝手な発言をするのに、ただ黙ってうなずくことではありません。われわれの義務と責任は、アメリカの民主主義を機能させることであります。アメリカ民主主義は市民が関与しない限り、そして市民が規律を厳正とする力を持たない限り機能しないのです。日本の民主主義も同じです。私が声を上げるのは、ひたすら民主主義の力になりたいからであって、反****とは縁もゆかりもありません。以上。

 池田香代子さんからの挨拶
 この会を開いてくださった東大教官有志の皆さん、そしてお集まりの皆さん、お礼の言葉を知りません。地獄は本当にいつまで続くのでしょう。これがイラクの普通の人々を苦しめているということを忘れないでください。そしてリッターさん、ありがとう。あなたの言葉をイラクの普通の人々に届けます。私は今日のようなことができて本当に幸せです。本当にありがとう。


以下はHPからの引用。
 リッター氏から挨拶
 戦争はゲームではなく、人を殺し殺されるという現実です。平和への欲求を感じられるが、百二十円出してお茶を飲むのも欲求です。戦争は欲求ではなく、意志で止めるものだ。皆さんはこの戦争を止める意志がありますか?
 


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