菅民主党の主張の中心は、アメリカ追従と消費税の更なるかさ上げ                      
                      川端康夫                                         

読売社説―六月二十日から二十六日までの感想

読売新聞は菅内閣を暗黙に支持している
菅民主党の主張の中心は、アメリカ追従と消費税の更なるかさ上げ
私は菅内閣を支持できない

 菅総理大臣の冒頭所信表明は完全に鳩山内閣での諸表明とは相反する。言うならば、新たな日米同盟再形成路線とも言えるものだった。沖縄名護市への海兵隊基地の建設・移設という前首相の最後の苦肉の決断を当たり前の決まったものとしつつ、同時に財政再建のための消費税引き上げを目玉として打ち上げた。その前提には法人税の更なる引き下げが据えられ、首相本人は否定するが、どう見ても「法人税引き下げ=消費税引き上げ」という「グローバル・スタンダード」への日本経済の構造転化が意識されている。読売新聞は消費税引き上げは当然だとしつつも、食料品課税への減少・撤廃など化粧的に低所得層への配慮にも言及する。だがそれ化粧でしかない。10%というのは少なすぎる数字だ、と結論として主張するのだ。
 以下にそのあたりの文を引用しよう。
 「問題は、肝心のPBの赤字半減と黒字化に、早くも黄信号がともされていることだ。内閣府によると、名目成長率が1%台後半の「慎重シナリオ」で推移すれば、20年度はなお約22兆円の赤字だ。3%台の「成長戦略シナリオ」でも、約14兆円の赤字が残る。
 試算は消費税率の引き上げを想定していないが、菅首相が言及するように、2〜3年後に税率10%を実現したとしても、どちらも黒字にはならない計算だ。しかし、税率を13〜14%にすれば、目標は達成できそうだ。菅首相はこうした数値を勘案しながら財政の舵(かじ)を取る必要があろう。(2010年6月23日01時01分 読売新聞)」
 さらに社説は大衆収奪をさらにさらに拡大することも主張する。
 「 危機的な財政事情を念頭に、社会保障の安定財源として消費税の重要性を強調している。極めて妥当な指摘だ。反面、所得税改革に関し、所得が増えるほど税率が高くなる累進構造の強化に力点を置いているのは問題だ。…確かに消費税には、低所得層ほど税負担が相対的に高まる「逆進性」が指摘されている。だからと言って、累進税率の強化につなげて考えるのは筋違いだ。消費税の逆進性の解消は、生活必需品への軽減税率導入などで対応すべき問題である。
 所得税は、2009年度の税収が27年ぶりに13兆円を割り込み、ピーク時のほぼ半分になる。国民所得と対比した日本の個人所得課税の負担率は7%にとどまる。10%以上の欧米を下回り、基幹税としての役割が低下しているのは事実である。しかし、累進構造を強めたとしても、負担する高所得層の数は限られるため、国の税収全体から見て、増収分はわずかなものだ。所得税と住民税を合わせた個人所得課税の最高税率は、1980年代には88%に達していた。「こんなに税金が高いと働く意欲がなくなる」。そんな声に押されて、米国や英国の税制改革に歩調を合わせるように日本でも最高税率が引き下げられた。現在は50%だが、それでも米ニューヨーク市の47・6%、フランスの48%などを上回っている。
 むしろ、今考えるべきは、課税最低限の引き下げだ。日本の課税最低限は標準世帯で年収約325万円である。国際水準に比べてかなり高く、それだけ多くの人が税金を納めていないことになる。各種の控除を縮小すれば最低限が下がり、より幅広い層に税負担を求めることになるが、国民が広く薄く負担するという税の原点からみてやむを得まい。専門家委員会は、累進構造を強化する理由として、税の所得再分配機能が衰え格差の拡大を招いたこともあげている。だが、行き過ぎた累進強化は大衆迎合路線そのものだ。所得再分配を考えるなら、年金や医療、介護といった社会保障政策の充実が先決である。(2010年6月24日01時07分 読売新聞)」
 こうして読売社説は現在の「グローバル・スタンダード」を背景に、日本もその水準に合わせよ、と言うのである。

 さらに社説は菅の所信表明が鳩山的な「東アジア論」をまったく欠如していることを大歓迎し、その目線をさらに強化することを求めている。
 「鳩山前首相のお粗末な外交による日米関係の悪化を、韓国や東南アジア各国が本気で懸念していたのは、日米同盟を「公共財」とみなしている証左でもある。前首相の「離米」ともとれる言動は皮肉にも、多くの国民が日米関係を再考する機会となった。過去の歴史と経緯を踏まえ、この先、同盟をどう深化、発展させるかを考えることが肝要だろう。

 「菅首相は、民主党代表だった2003年11月、「米海兵隊基地と兵員が沖縄にいなくても極東の安全は維持できる」などと発言したことがある。現在は、日米合意を順守すると明言しているが、その場しのぎの「現実主義」であってはならない。米側と信頼関係を築くには、過去の立場との決別が必要だ。日米両国が戦略的な対話を重ねることも重要である。いかに朝鮮半島を安定させ、中国に政治、経済両面で大国としての責任ある対応を求めるのか。地球温暖化、テロとの戦い、軍縮などの課題に、日米がどう協力し、関係国とも連携するのか。こうした議論を深めつつ、日本が国際的な役割を一層果たしていくことが、より強固な同盟関係の構築につながろう。
 同盟の中核は安全保障にある。北朝鮮は核ミサイルの開発を進め、韓国軍哨戒艦を攻撃した。中国は急速に軍備を増強・近代化し、海軍の活動範囲を広げ、周辺国との摩擦を起こしている。日本の安保環境は楽観できない。
 ◆防衛協力強化が重要だ◆
 自衛隊と米軍が平時から緊密に連携し、緊急事態に対処できる態勢を整えておくことが、結果的にそうした事態の抑止力になる。同盟関係は時に、自転車の運転に喩(たと)えられる。慣性力が働いている間は自転車は前に進むが、きちんとペダルをこぎ続けなければ、いずれ失速し、最後は倒れてしまう。同盟を維持するには、両国共通の目標を設定し、その実現に向けた共同作業に汗を流すとともに、両国間の懸案を一つ一つ処理していく不断の努力が欠かせない。「日米同盟が日本外交の基軸」といった言葉を単に唱えるだけでは済まされない。(2010年6月19日01時33分 読売新聞)」 
 
 このように、読売新聞は、菅が「小鳩」路線から離脱し、日米同盟中軸、大資本優先の「本来の保守政治」の実現へと進むことを期待している。そして私も、菅の内閣が読売がそう期待する方向へと向いていることを否定する気にはならない。「宇宙的夢」から「現実主義へ」という菅の立場は、仮に『読売』がボロボロになってしまった自民党に代わる「健全な保守党」を求めるとなった場合の最適の候補者への道である。
 「小鳩」路線は想いとしては違っていた。そして小沢は依然として独自的動きを中止してはいない。次期総裁選挙での正面からの争いも、参院選の結果次第ではありうるかもしれない。

 さて、結論的にまとめると、まず第一に上げた点、すなわち日本の所得・法人税制は世界的にもまだ高い、という理屈であるが、世界が急激にそれらの税額を引き下げたのはレーガン・サッチャー以降の時代である。わたしはこうしたレーガン・サッチャー型の資本主義の行き方には真っ向から反対すべきだと思う。
 第二、日本経済の将来性をどこにむけるのであろうか、という点である。アメリカか東アジアか―の将来性の選択である。東アジア共同体=AUが公式的に最初に提起されたのは、一九九〇年代半ばの大阪大学名誉教授でロンドンに永らく研究活動をおくられたケインズ学者、故森嶋通夫教授の諸著作である。これらは「岩波」からかなり出たが現在はほぼ絶版である。それらの中でも印象的本名は『日本はなぜ没落するか』である。教授はこうした考えを持って日本財界を説得しようとしたようであったが、ご本人が述べたように「ぜんぜん反応はなかった」のであった。だが、今はどうだろう。森嶋さんの説に賛同するか否かは別にしても(さまざまな理由から、提案それ自体総体への賛同は難しいだろうが、問題は視点にある)、「小鳩」路線はその視点の一部に東アジアを含んでいたのである。
 アメリカから離れて、東アジア(の共同開発)に「入れてもらえ」―森嶋氏の説はこういうことだ。森嶋氏は第二次大戦を学生兵士として経験しているが故に、大東亜共栄圏の印象を絶対に思い起こさせないような方式のために相当の筆を使っていた。
 それはさておき、私個人は、東アジアの何らかの共同体(社会主義共同体と言いたいが、今は押さえておく)の実現を大局で見通すところに二一世紀の日本における左翼の復興の可能性を見たいのである。
 この点で、私は『読売』社説とは正反対の立場であるし、菅とも明確に異なると思い始めている。(六月二十七日)


ホームへ戻る    投書・投稿へ戻る