選挙後に感じ取れる読売新聞の変化―菅内閣応援・激励か                      
                      川端康夫                                         

 
 八月のど真ん中、猛暑と「終戦」記念日、そして甲子園高校野球が中心話題となったマスメディア新聞だが、民主党政権の今後について、九月に代表選挙が予定されていることもあり、マスメディアが意識的に取り上げる課題でもあった。その特徴を結論的に述べれば、明瞭に打ち出した『朝日』と並んで『読売』も相当に「菅内閣」への応援姿勢を明瞭にし始めたということだ。参議院選挙以前の民主党政権に対する厳しい「対決姿勢」とはまったく別の感覚のようである。
 以下に引用する社説を見ていただきたい。

 「来月1日の民主党代表選の告示まで2週間を切り、各グループの駆け引きが活発化している。19日には鳩山前首相がグループ研修会を開き、党内最大勢力を率いる小沢一郎・前幹事長も出席した。小沢氏は、鳩山グループなど党内の幅広い支持が得られることを条件に、出馬を検討しているという。研修会への出席も、そのための布石とみられている。一時は政界引退を表明していた鳩山氏も、約150人の国会議員を研修会に集め、党内への影響力を誇示した。
 再選をめざす菅首相、出馬の可能性を探る小沢氏の双方から秋波を送られる状況を利用し、政治的復権を果たすつもりなのだろう。挙党一致を条件に首相続投を支持している鳩山氏は、研修会でも、挙党態勢の構築を求めた。しかし、小沢氏も鳩山氏も、代表選をにらんで動く前に、なすべきことがあるのではないか。
 鳩山氏には、米軍普天間飛行場の移設問題の迷走で、日米関係に亀裂を生じさせた重い責任がある。「政治とカネ」をめぐる問題では、両氏とも十分な説明責任を果たしていない。「小鳩」政権時代への反省と厳しい総括をしないまま、合従連衡に走る姿が、国民の目にどう映るだろうか。
 特に小沢氏の場合、「政治とカネ」の問題で検察審査会の審議が継続中だ。代表選に出馬するなら、どうけじめをつけるのか、具体的に語る必要があろう。
 一方、菅首相の対応も、問題なしとは言えない。先月末の記者会見で、消費税率引き上げを代表選の公約に掲げないとの考えを示したが、参院選で敗北したからといって、財政健全化の旗まで降ろしてよいのか。 むしろ代表選を機に、消費税問題の党内論議を深めるぐらいの攻めの姿勢が求められよう(以下略)(2010年8月20日01時25分 読売新聞)

 「小鳩と対抗する菅」という図式を設定し、参議院選挙で菅が暗示した「消費税引き上げの自・民大連立」ムードが選挙の結果後退したことに対する「激励・叱咤」の論調である。さらに『読売』社説は、外交的な三つの指摘を行っている。

 その第一は
 「パキスタン洪水 対テロ前線国に支援を急げ」(8月21日付・読売社説)であり、核心点を引用すれば、「パキスタンが80年ぶりという甚大な洪水被害に見舞われている。
 国連総会が特別会合を開催し、加盟国にパキスタン支援を促す決議を満場一致で採択した。被災地域が広範囲に及び、深刻な被害になっているにもかかわらず、国際的な支援が集まらないためだ。
 パキスタンは対テロ戦争の最前線国だ。国内のイスラム系武装テロ組織は、災害支援を口実に影響力を拡大しようと動いている。自然災害がテロを助長することのないよう、国際社会の早急な支援が求められる。
 国連は今回の被災規模から、4億6000万ドル(約391億円)の支援を各国・機関に呼びかけている。しかし、経済不況のもと、各国とも反応は鈍い。米国、欧州、豪州などを合わせても半分にしかならない。
 日本は、国連会合で藤村修外務副大臣が1440万ドル(約12億3000万円)の支援に加え、陸上自衛隊のヘリコプター部隊を派遣することを表明した。
 課題は国際緊急援助隊派遣法に基づく派遣のため、自衛隊員が武器を携行できないことだ。パキスタンの治安状況を考えれば、全く危険がないとは言い切れない。
 「自然災害での支援だから武器は不要のはず」という発想の援助隊法に問題がある。以前から法改正を主張している自民党などと協力し、治安の悪い場所には武器を携行できるよう改めるべきだ。」

 その第二。
 「国際的な海上輸送の要衝である南シナ海で、中国が海軍力を背景に高圧的な姿勢で進出しつつあり、米国やアジア諸国が警戒感を強めている。
 米国防総省は16日に発表した年次報告書で、南シナ海などでの中国の軍事力拡大を「東アジアの軍事バランスを変える主要な要因」と位置づけた。
 エネルギーの9割、食糧の6割を海上輸送に依存する日本にとっても、看過できない動きだ。政府は、問題解決に向けて米国やベトナム、インドなど関係各国と連携を深めるべきだ。
 海南島では、大規模な潜水艦基地を建設中だ。石油などの海洋権益の確保だけでなく、台湾有事の際に米軍の介入を阻止するなど、軍事的な理由からも、南シナ海全域を中国の勢力下に置こうとしているとみるべきだろう。
 中国が、台湾やチベット問題で使ってきた「核心的利益」という表現を、最近は南シナ海にも使い始めたことも、そうした懸念を裏付けるものだ。
 南シナ海は、中東と北東アジアを結ぶ海上交通路(シーレーン)である。この海域で排他的な動きを取ることは認められない。中国には強く自制を求めたい。
 ベトナムなどアジア各国は、多国間協議で問題解決を図るよう求めている。これに対し中国は、領有権を主張する国同士が2国間協議で話し合うべきだ、という立場を崩していない。
 領有権争いが軍事的な衝突などに発展すれば、この海域をシーレーンとして利用する国々にも甚大な影響が及ぶ。懸念を共有する国も参加する多国間協議で、緊張緩和策や信頼醸成措置を検討するのが筋だろう。
 新たに米国も加わる予定の東アジア首脳会議(EAS)で討議するのも一案ではないか。
 多国間協議に中国を呼び込むためには、懸念を共有する国が相互に協力し合うことが肝要だ。
 政府は昨年末にはインド、先月にはベトナムとの間で、外務、防衛両省が参加する戦略対話を発足させた。こうした協議の場を積極的に活用し、緊張緩和に向けた共同行動を進めてもらいたい。」(2010年8月18日01時43分 読売新聞)(部分略)

 そしてその三。
 「日本と韓国の産業界は共に、自由貿易協定(FTA)に関する交渉の早期妥結を望んでいることがわかった。
 読売新聞社と韓国経済新聞社が実施したアンケート調査で、双方の主要企業200社の8割超が、2004年から交渉が中断している日韓FTAについて、「必要だ」と答えている。
 日韓併合100年という節目を迎え、両国の企業が未来志向で関係を深め、競争と共存を図ろうとする姿勢を歓迎したい。
 FTAは、特定の国や地域間で鉱工業品や農産物の関税を引き下げたり、撤廃したりすることだ。貿易を拡大する効果がある。
 世界貿易機関(WTO)の多国間の貿易自由化交渉は、利害の対立で暗礁に乗り上げた。そこで世界で急増しているのが、FTAや投資拡大などに協力分野を広げた経済連携協定(EPA)で、すでに約200が発効した。
 ところが、日韓交渉はそうした流れに取り残され、行き詰まっている。日本が農水産物の市場開放に抵抗し、韓国は対日赤字全体の拡大を警戒しているためだ。
 約6年にも及ぶ中断は余りにも長い。両国は9月にも、交渉再開に向けた実務協議を開くが、産業界の期待に応える必要がある。
 日本の経済連携の動きは、対韓国ばかりでなく、他国・地域との間でも出遅れが目立つ。
 EPA発効・署名国は、シンガポール、メキシコなど11か国・地域にとどまり、農業大国の豪州やインドとの交渉も難航中だ。米国や欧州連合(EU)については、交渉のメドさえたたない。
 農業分野の市場開放について、日本国内の抵抗が強いことが、いつも足かせになっている。
 民主党政権は、コメ農家を対象にした戸別所得補償制度を導入した。しかし、バラマキ政策では、貿易自由化に備えた農業の競争力強化にはつながらない。
 政府は所得補償制度を漁業などにも拡充する方針だが、こうした保護策を市場開放に向けて活用する道を探らねばなるまい。
 民間出身の丹羽中国大使は、日中FTA交渉の開始に意欲を表明した。日韓FTAを前進できれば、日中や「日中韓」のFTA交渉の足がかりにもなる。
 韓国は米国やEUとFTAで合意した。韓国が中国とのFTAで先行すれば、日本には痛手だ。
 菅政権は、アジアの活力を取り込む新成長戦略をまとめた。それならば、自由貿易を加速する政治的な行動が求められよう。」(2010年8月19日01時59分 読売新聞)

 猛暑の三日間、『読売』社説は、「小鳩」の特徴でもある中国重視、東アジアの協同構造の見通しと正反対のアメリカべったりの路線に菅内閣が接近するのではないかと期待し、そうした「政治姿勢」を応援する、気合いをかけるということを当面の視点として示したといって良いのだろう。
 これは、冒頭にも述べたが、『朝日』の立場と基本的に変わらないのだが、『朝日』が船橋らを中心として露骨に「新自由主義」路線の菅支援を表明しているほどに、開けっぴろげに開き直りにくいという参院選直前までの経過のための表現の差であろう。
 アメリカ依存主義、中国への対抗・対立意識―今やこれらがブルジョア大マスメディアの共通性だ。右翼オピニオンの代表である産経新聞は相変わらずの反共主義で満たされている。
 こうした二〇世紀の東西対立型発想を越える東アジア共同へと突き進む必要があり、大新聞、マスコミ全体との対抗意識をさらに研ぎ澄まさなければならない時である。猛暑の中でも頑張りが必要だ。読売社説―六月二十日から二十六日までの感想


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