新年に当たっての『読売』の決意と菅政権の進路
民衆にとっての菅内閣打倒のスローガンが必要となるか?
   
                   
                      川端康夫                                         


 首相年頭会見 指導力を発揮して有言実行 (1月5日)
 菅外交と安保 危機克服へ日米同盟の深化 (1月6日)
 世界経済混迷 通貨安競争の回避に具体策 (1月7日)
 揺らぐ国際秩序 どう築くアジア太平洋の時代 (1月8日)

 以上の項目が何から引用したものと見えるだろうか。菅首相の新年の記者会見演説のようにも見えてしまうのではなかろうかと、私は新年に当たっての読売新聞の社説の見出し一覧を見てそう思ってしまったのであった。
 前原外務大臣の訪米と日米同盟論の「現代化」への言明、自衛隊勢力の南西諸島(つまり沖縄)方面への移動の方針化、日韓安保(=同盟)構想の提唱、消費税引き上げを中心とする財源問題での与野党協議の提起、などなど、菅内閣は前の鳩山時代の正反対を政策構造化して提出しているのには驚きを感じない人はいないではずである。
 というのも、自民党自身が驚きを表現しているからである。自民党の三役である石破茂政調会長が昨年暮れに次のような趣旨を述べた。すなわち、菅内閣は歴代の自民党政権が実行できなかった政策路線を実現化する方向へ向かっている。自民党は野党が反対、抵抗したから政治的妥協ややりくり(密約などを含む)を繰り返したが、現在の菅政権には、その公然とした安保・外交路線に対する(有力な)野党が存在しないから、全面的政策展開ができるのである、と。
 石破の立場はまったく正しい。そして『読売』社説は、菅政権に対して、社民党など相手にするなと檄を飛ばしているのである。
 『読売』社説を見てみよう。新年に当たって『読売』は、菅政権が日米同盟路線の全面化、消費税増額を中心とする財源手当の二つを中心に政権運営を進めよと「号令」をかけた。以下はその引用である。

 「迷走日本政治 安定政権へ政界再編が必要だ(1月3日付・読売社説)
 内外の懸案に機敏に対処できない政治体制が続いている。このままでは国民の政治不信は一層増大し、日本は国際社会の競争からとり残されてしまう。危機的な状況にあるのに政府・与党には切迫感がない。課題は、はっきりしている。
 一、米軍普天間飛行場問題を解決し、日米同盟を立て直す。
 一、安定した社会保障制度を築くため消費税率を引き上げる。
 一、環太平洋経済連携協定(TPP)に参加する。
 国の行方を左右する喫緊の課題を、迅速かつ適切に処理できる政治体制を築かねばならない。衆参で与野党逆転の「ねじれ国会」ではそれができまい。政界再編が今ほど求められている時はない。」

 そして次のように続く。

「◆政権公約全面見直しを◆
 ねじれ国会で予算関連法案や重要法案を成立させるためには、多数派工作が不可欠である。
 鳩山内閣が外交・安保政策で判断を誤ったことの一因は社民党にあった。菅首相は、社民党との連携を考えるべきではない。日米同盟の強化は中国、ロシアとの外交でも必須であることを首脳外交で身にしみたはずだ。
 自民党や公明党などと連携するには、民主党が一昨年の衆院選で掲げた政権公約(マニフェスト)の見直しが前提条件である。」

 こうした『読売』の主張は菅内閣が進めようとしている方向性を全面的に支持しつつ、だが同時に、「菅首相は、昨年9月の民主党代表選で「実現困難な場合は国民に説明し、理解を求める」と政権公約の見直しを掲げた。だが、一向に実行する姿勢がない。きちんと国民に説明する必要がある。菅首相に、決定的に欠けているのは、困難な状況を何とか打開しようという強い意志と果断な実行力だ。政権公約の見直しこそ、首相自ら言うように「有言実行」すべきである」、ということを付け加えて、さらなる努力を求めている。

 こうした『読売』の主張は、民主党が政権に到達した政治的地平をすべて投げ捨てよ、という主張であり、その方向性を採用している菅政権は批判的分子を切り、政策実現に必要な政界再編に踏み込むべきだ、と付け加えるのである。すなわち、いわゆる「保守勢力の大連立」が公然と要求されているのだ。

 徹底的な中国への対抗策の提唱

 社説はその上で、鳩山・小沢が掲げた「東アジア共同体構想」の発想を完全に放棄せよと迫る。

 「その意味で、今年10月、インドネシアで開催される予定の東アジア首脳会議には期待したい。6回目を迎える今度の会議で、ASEAN10か国と日中韓、ニュージーランド、オーストラリア、インドの16か国に、米露が初めて加わる。従来の経済分野での協議と並行して、政治・安全保障分野での取り組みが強化される。
 新しい国際秩序作りには、日米中韓などと並ぶ主柱の一つとしてインドの存在が欠かせない。
 中国に匹敵する巨大な市場を持ち、地政学的には中国を牽制(けんせい)できる。何より、民主主義や法の支配という価値観を日米などと共有している大国である。
 日本は、インドとの関係を一層緊密にする必要があろう」。

 このインドやオーストラリア、ニュージーランドなどを含む大アジア的共同の構想は自民党が安倍政権時代に画策した考え方である。単純化して言えば、アメリカと同盟し、それを支えるアジアの構造を目指せ、ということだ。それには、「新たな開国」を評価し、日本農業を放棄せよ、といわんばかりの主張も加わるし、アフガンへの医官派遣をもまた主張していることも付け加えなければならない。
 そして同時に社説は、小沢切りを断固とせよ、とも主張する。

 「小沢一郎元代表の政治とカネの問題で首相は、強制起訴された段階で「出処進退を明らかにして、裁判に専念されるのであればそうされるべきだ」と語った。
 小沢氏の議員辞職まで想定しているのなら、党代表として、離党勧告などの手順をためらうべきではない。ここでも、首相の「有言実行」が試される。」(一月五日社説)

 要するに、『読売』は菅の打ち出す政策の体系そのものを支持するのであり、菅は「有言実行」を行えない軟弱な体質を乗り越えて政策を断行せよ、というわけである。
 このような『読売』の論調を読んで私は、最近地方政治の一部で流行を始めている「維新」論とも皮一つで結びついていると思ったし、またヨーロッパでのネオ・ナチズムやアメリカ共和党の右派路線などの世界的な右翼主義傾向の浮上とも基盤的な共通性が示されているとも感じたのである。

 社説は言う。

 「昨年末に浮上した、たちあがれ日本との連立構想は頓挫したが、従来の枠組みを超えた良識ある勢力結集の試みなら歓迎できる。連立は理念・政策優先で、しかも「衆参ねじれ現象」を解消できる規模が望ましい。1年、ないしは2年の期限を切った、非常時の「救国連立政権」とし、懸案処理後に、衆院解散・総選挙で国民の審判を問えばいいのだ。
 国のあり方を大きく変える、いわば「平成の改新」を実現するための、党派性を超えた構想力と大胆な行動力が、今の政治に求められている。(2011年1月1日 読売新聞社説)
 
 読売新聞社説の立場は「平成の改新」であり、菅の現在の立場、とりわけ松下政経塾出身者が多い菅内閣推進者たちの動きは、まさに『読売』が支援するそのものだと言わなければならない。その流れは小沢に対する動きと同じく、大マスメディアの総体的な同一歩調でもある。これらは「引き下げデモクラシー」(元東大法学部教授丸山眞男のマスメディアのあり方についての造語の一つ)の現れそのものであり、その上で『読売』社説は、「小沢切り」、社民党切りが、「平成改新」の中心的基盤だと言っているのである。
 まさに歴史は繰り返す。資本主義の危機が右翼路線を形成するのである。
 『読売』が檄を飛ばす方向に菅が動くのであれば、民主党内外から菅内閣打倒のかけ声が起きてくることは不可避であるし、また起こさなければならない、と私は考える。今週の民主党、両院議員総会、大会という一連の「行事」を通じて状況の行方が明らかとなる可能性が大である。(1月10日)


 

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