snowdogが対戦したもの、それは、親不知です。
産れてからコッチ、社会の取り決め、例えば、バンジージャンプに成功するとか、
はたまた、大きな岩を飛び越えたり、単独での狩りに成功する、前髪を下す、最近
の流行りでは、お酒を頂きながら大騒ぎをして選挙権を貰うなどの取り決めを越え
るまでの間、親に隠れて、コッソリとする事とは、なんと甘美な秘密の匂いのする
ものなのでしょう。それらの中でも、最も高年齢になって、初めて許される秘め事
といえば、親不知をおいて他ならないと言えるでしょう。
snowdogは、この秘め事中の秘め事たる親不知において、現在まで、勝利を収め、
その愉快さを実感してきたのです。思えば、数年前から、可愛い可愛い親不知くん
は、真っ直に成長を遂げてきていました。まず、顔を覗かせて、産みの苦しみを味
あわせたのは、右の下の親不知くんでした。誰でも最初の時には、動転するもので
す。これは、ヤバいかなとは思ったのですが、世間では、親不知という大人にしか
分らないものがあるという事を、既に知っていた、おマセなsnowdogは、はああ、
これが世に言う親不知なのだなあと、思い至った訳でした。当然の事ですが、今ま
さに、やっと世に出ようと(正確には口ですが)している新しい仲間を疎んじて、そ
の排除を企んだりはしませんでした。歯医者へ行く事が嫌だっただけとも言えるの
ですが(^^;;。その暖い愛情に育まれた親不知くんは、スクスクと真っ直に成長し
てゆきました。同じ様に、右の上、左の上の親不知くん達も、みごとに成長をとげ
ていったのです。まあ、単に、生えるべき場所に生えただけなんですけどね(^^;;。
しかしながら、末っ子たる左の下の親不知くんだけは、残念ながら、定位置から
少しズレた場所、ちと外側に生えてしまったのです。末っ子だからsnowdogが甘や
かしたという訳ではないハズです。兎に角、この末っ子は、ひねくれて生えて
しまった事を恨んだのか、snowdogの頭痛の種でした。まあ、頭痛になる程に酷く
痛んだ訳ではないのですが、何度か痛み止めを飲むハメになったのは、まぎれもな
い事実です。しかし、たとえ正しい場所でないからといって、それが、どうしたっ
ていうのでしょう。何、ちょっと外側ってだけの話、生えてしまえば、大丈夫なハ
ズです。その予想はみごとに当り、生えてしまった後からは、ちょっと食事の後に
ものが詰りやすいのと、磨き難いのを除けば、問題も起さず、いい子でした。ただ、
場所が悪いせいか、時折、痛む事もありましたが。
嗚呼、それが、この末っ子からの、分り難いメッセージだったのです。snowdog
は、そのメッセージの意味に気がつかなかったのです。いつの間にやら成長を遂げ
た末っ子が、まるで小さい頃のように時折伝えてくるメッセージは、深刻な病魔に
犯されたというメッセージだったのです。知らぬは親ばかり、ウチの子に限ってと
は、よく言われる言葉ですが、表面的には、真っ白な無垢に見えた末っ子は、ぢつ
は、とりかえしのつかない病魔と闘っていたのです。その闘いに疲れ果てたのか、
とうとう、昨日、ポッキリと割れてしまったのです。ああ、なんて事だと、慌てて
歯医者さんに駆け込んだsnowdogに、医師は、原因は、産れた場所が悪かったせい
で、一部が隠れてしまっていたので、磨ききれなかった事だろうとの事でした。
snowdogは、そんなシャイな末っ子を救うべく、医師に治療の見込みを尋ねたとこ
ろ、残念ですが、と首を振るばかりなのです。そして、親不知は抜くしかないとの
最後通告を突き付けたのでした。せめて、正しい場所に生えていたのならば、もし
かしたら、帽子を被って生き長らえる選択肢があったのでしょうか?いや、そうは、
ならない様です。秘密から産れたものは、秘密に葬られる、嗚呼、この世は、なん
と残酷な世界なのでしょう。折角、産れてきても、立派に育っても、社会の事情に
よって、処分されてしまうのです。
口内社会の平和と秩序の為に、末っ子は、旅立ってゆきました。せめて、最後に
と抜かれた後に見送ったその姿は、大きな歯根を持った立派な姿と、それと気がつ
くまでの病魔との闘いの後の残る健気な姿でした。せめて、通夜をしてあげたい
ところなのですが、お酒を飲むと出血が酷くなるので、駄目との事で、代わりにと
いって、お医者さんは、何錠かの薬をくれました。これで、痛みも少しは楽になる
だろうと。
かくして、snowdogの親不知との対戦成績には、拭い難い1敗の文字が、刻ま れたのです。もはや、この喪失を埋め合せる手立ては無いのです。もし、snowdog が化石として発掘されたならば、下顎の歯の数が非対称なものとして、考古学的な 問題とされるやもしれません。発掘途中に喪失したに違いないといって、その周辺 をくまなく捜索しても、無駄なのです。大切な親不知を一本失なったばかりに、遠 い未来の考古学へ人類に対する疑問を生じさせてしまったのです。なんて大変な事 でしょう。snowdogが化石となって見付かりませんようにと、願わないではいられ ません。そして、残った親不知の兄弟達が、更に失なわれる事が無いように、歯磨 きや、キシリトール入りのガムを噛むなどの注意を怠らないようにするのが、末っ 子に対するせめてもの供養でしょう。
みんないい位置に生えたと思ったんですけどねえ(^o^)。
snowdog 2003 5/26