Epilogue −White color−
ようやく答えを見つけた俺は、その後の7年間をここで過ごした。
そう。俺が選んだ道は「北海道大学経済学部」だった。
別に経済学部なんて入る気もなかったし、将来それをどう生かそうと思ったわけでもない。
ただ、俺のこの頭脳で唯一入ることのできた学部だった、とだけ言っておこう。
ほのかにはずっと黙っていたが、ほのかの真実の声を聞くその数週間前、アパートを探すために母と来たのだった。
母は「寒がりのあんたがねえ...」と不思議がっていたが、それ以上何も言うことはなかった。
そして別れ際にそのことをほのかに伝えた。
その時のほのかの笑顔は今でも忘れることができないほど、ホントに嬉しそうで、そしてとても輝いていた...。
しかし、俺がもっとも驚かされたのは、そのほのかの変貌ぶりだった。
あれほど男に対して警戒心を持っていたほのかが「変った」と気付いたのは、大学に通い始めてから半年程経ってからだった。
そう。人に言うのは恥ずかしいが、「同棲」をはじめてからしばらくして、ほのか自身からそれを求めてきたのだ。
...。はっきりいって俺は戸惑った。
そりゃそうだ。いくら分かりあえた、といっても、その溝を埋めたのはほんの半年前のこと。
それに同棲したからと言って、それは義務でもないし、俺が最初に求めた訳でもない。
何がそうさせたのかは良く分からなかったし、その理由は結局ほのかには聞かなかった...。
そして大学を卒業してすぐ、籍を入れた。
それは俺に就職先が決まって、ようやくほのかを食わせて行ける自信がついたからということもあったが、なによりもほのかがそれを強く望んだということもあった。
「俺はずっとほのかと一緒だし、これかも絶対離さないから。」といったこともあった。
が、昔のように理由も言わず、「お願い」と求めた欲求が満たされたあとに必ずそう言った。
「ねえ、待ってよー!」
「ほら。待ってるから、早くおいで。」
そして今、俺はまもなくこの地を離れようとしている。会社の命令で、東京に転勤を命じられたのだ。
実は転勤の話は俺がほのかと結婚してからすぐに持ち上がった話だったが、
「妻が妊娠しているので、子どもが生まれて、少し落ち着いてから」ということで今までその話を延ばしてきた。
がこの娘ももうすでに3歳。りっぱに歩いて、きちんと話もできるようになった。
そして会社の方から「これ以上待つわけにはいかない」と最後通告を受けたこともあったからだ。
俺としてはどうしてもこの地を離れたくはなかった。
妻が愛して止まなかったこの地を。
思い出深いこの地を。
二人で新しい命を育んだ、この地を...。
だが、会社をクビになれば、それどころではなくなってしまう。
「もしそうなったらオヤジの後でも継ぐか」とも考えたことはあったが、今の俺には、それは辛くてとてもできない。
それと、できるだけこの娘と一緒にいてやりたいとも思うからだ...。
そして、一つだけ周りの人の反感をかったことがあり、今でもその溝は埋まっていない。
まあ、オヤジの後を継がない理由の1つでもあるのだが、俺はこの子に、「ほのか」と名前をつけた。
そう、母と同じ名前をこの娘に...。
でも、色を失くしてもなお、昔のままの笑顔を浮かべる彼女も、きっと賛成してくれていると思う...。
「さよなら...。」
Fin...
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