−秋−
お気に入りのリュックを背負って彼女が駆けだしてゆくは
秋晴れの日に休日を過ごすにはもってこいの
彼女が最も大好きで
彼女の最もつらい思い出のある場所
でもなぜそこに向かうのかは彼女自身判る訳もなく
「ただなんとなく行きたいたけ」だと
すれ違う町の人たちに明るく振る舞った
大事そうに背中に背負ったリュックには
何も入っていなかった
彼女と同じように背中で弾むそれを見た人たちが不思議そうにたずねたが
彼女はただ黙って笑顔で答えた
そしてそれは忘れたわけではなく
彼女が自ら何も入れなかったから
そしてそこに何かを取りにいくわけではない
それは彼女にとってはとても重い
大事な忘れ物を取りにいくためのものであることを
彼女自身がまだ気付いていなかったから
秋晴れの暖かい日差しをあびながら
彼女はただ走る
それは彼女自身もどこにあるのか分からない
大事な思い出のかけらを集めるために
〜Image Artworksより〜
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