−今日だからこそ−
『おめでとう。美由紀。』
「あけましておめでとうございます。」
『ありがとう。でも、お正月早々おじゃましてゴメンね。』
「いいえ。そんなことはありません。わざわざ逢いに来てくれてとっても嬉しです。』
『ホント?そういってもらえると嬉しいなぁ。でも、お店のほうも忙しいんじゃない?』
「はい。ホントは忙しいんですけど、一応受験生ですから。それに...、」
『それに?』
「今日はお正月ですから、今日くらいはゆっくり休んでも...。」
『うん、そうだね。ところで美由紀はどこを受験するの?』
「えっ...?」
『いや、ほら...。美由紀のことだから、美大に進むのかなって思ったから。』
「いえ...。あの...。」
『...あ、そうか...。ゴメンね。変なこと聞いて。』
「いいんです。こうやってあなたに心配してもらえるだけで嬉しいです。」
『でもあともう少しだね。はかどってる?』
「まあ、ぼちぼちってところですね。」
『じゃあさ、夢が叶うように、初詣にでも行かない?』
「そうですね。じゃあ、ここでちょっと待っててもらえますか?」
『えっ...?なにか用事でもあるの?』
「いいえ。そうじゃないんです。けど...。」
『けど?』
「いえ、何でもないんです。ちょっと待っててもらえます?」
『うん、分かった。じゃあ、ここで待ってるね。』
「ごめんなさい。すぐ戻りますから。」
「ごめんなさい、遅くなっちゃって。」
『いや、別にいいんだよ。犀川をこうやって眺めてるのも...!?』
「うふっ...。ビックリしました?」
『そ、そりゃあ...ね。』
「母がお正月に着なさいって、この反物をくれたんです。」
『そうなんだ...。でもさすがだね。良く似合ってるよ。』
「ホント?」
『うん。でも、着物に仕上げるの大変だったでしょ?』
「まあ、大変って言えば大変なんですけど、ある程度型は決まってますし。勉強の合間に少しずつ作りました。」
『それはそうだけど、それを縫い上げるのが大変だったでしょ?』
「はい。でも、今日じゃなきゃ意味がないんです。」
『えっ...?』
「今日着ないとだめなんです。」
『...そりゃあ、お母さんからそう言ってもらったからかもしれないけど...。』
「いいえ、違うんです。」
『違う、って...?』
「あっ...。いえ、何でもないんです。早く行きましょう!」
『う、うん...。そうだね。』
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