1. 死 後 、 不 幸 に な っ た 人
ある霊魂の他界後の足跡を、
なるべく分かりやすいように、物語風に記述します。
川上聡(仮名)は死後の世界を信じてはいなかった。
そんな川上が他界したのは病院のベットの上であった。川上が他界した時は、なぜか何も分からず、しばらくは夢を見ていた。
夢から覚めた時、彼はなぜか見知らぬ場所にいた。一度も見たことのない景色に戸惑ったのだが、それよりも自分がなぜそこに居るのか分からなかった。
どうして良いのかも分からず、しばらくぼうっと立っていた。
それからしばしの時が流れた。急に、自分は病院にいたはずだ、と思うようになり、なぜ、病院にいないのか、と考えた。その上、彼の体は一人で立てるはずがなかった。彼は自分が死んだのではないかと疑っていた。
彼が自分の死に気が付いたのはそれからすぐであった。歩いてみると感触が違うのである。なんとなく変なのである。おまけに足が痛くない。その上、地面に触ってみても何か違うのである。
彼は自分が死んだと知り、一層戸惑うことになった。
これからどうして良いのか分からなかったのである。見たところ、神や仏が迎えに来ている様子もない。回りには何の建物も見えない。
(砂漠でもあるまいし、いったいどこなんだろう。)
彼の不安はどんどん募っていった。
ただ、立っていてもどうにもならない。そう考えた川上はとぼとぼと歩きだした。どれだけ歩いても何もない。このままでは死んでしまう、そう考えてはっとした。彼はすでに死んでいたのであった。
「食事や住まいはどうなるのだろうか。」
彼はとにかく誰かに会いたかった。
いくら歩いても無駄だと考えた川上は立ち止まって叫んだ。
「神様ーー、助けてください。」
しかし、誰も答えてはくれなかった。
不思議なことに川上の目には太陽も映っているし、山も映っているのだが、動いているものが一つもないのである。
せめて動物でもいないものか、そう思って回りを見回してもみるが、居るのは自分だけなのであった。
やがて、夜になる時間が来た。それなのに太陽の位置は変わらない。
「どうしてなんだ。一体どうなっているんだ。」
川上はもう気が狂いそうになっていた。それでも何一つ変わることもなく、どんどん時間だけが過ぎて行った。それなのに、なぜか腹は減らず眠くもならない。
川上はこの時初めて、宗教を信じていれば良かった、そう本気で思ったのであった。
どれだけの時間が流れたのか、彼にはさっぱり分からなかった。一日の境がなく、一日中昼なのである。何をするでもなく、彼はただ、寝そべっていた。テレビもなく、話し相手もいない。襲ってくる獣さえいない。
草木は見当たらないし、気を紛らすものが何もないのである。せめて、自分の置かれている状況が分かっていれば、それでも安心していられるかもしれない。ところが、何も分からないのである。
これから一体どうなってしまうのか、彼はすでに心の安定を保てなくなっていた。
随分と長い時間が経った。
彼はまだ、そこにいた…。
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