バイクとの出会い

 


1979年、当時15歳のワシが初めて乗ったバイクがウチにあったモンキーだった。
なにもかも初めて。キーを兄貴の机の引き出しからコッソリ取って、裏庭のガレージへ。
しかしイグニッションキーをヒネってもエンジンはかからん。

キックで始動である。

 

ブルルルン・・・。

かからん。

 

 

ブルルルン・・・。

かからん!!!

ブルルルン!!!

かからん!!!!!

 

神はいきなりワシに難問を与えたもうた!!

 

しかしキーをもう一段階ヒネるのを知らなかっただけであった。
ハンドルロック解除しただけでエンジンはかからん。

再度、キック!

 

ブロロロロロロン!!!

 

かかった!!

 

これがエンジンなのか!(まだそんなレベル)

 

 

ガレージから引っ張り出して裏庭で乗ることにする。

もちろん兄貴にバレたら生きて帰ることは出来ない。
兄貴は単車や車を人に触られるだけで眉間にシワを寄せる男である。
これが「無断で乗った」などとわかれば、日本刀でも持ち出してくるかもしれない。
しかしワシの欲望は日本刀の恐怖も超越するほどのものであった。
爆乳の金髪美女の誘惑と双璧を成すほどの欲望にワシは勝てなかったのである。

 


いちおうギアとアクセル、前後のブレーキを確認。知識は本を読んで入ってるから
すぐに乗れるという自信がなんかしらんけどあった。

 

「オーケー。ブレーキさえ確実なら大丈夫やろ。」

 

跨る前に、ギアを1速に入れる。アクセルを回さないと動かない事くらい15の俺でもわかる。
(ここでその認識はすでに間違っている)
尾崎豊なんか15でバイク盗んでたくらいやから、ワシなんか遅いくらいだ。
余談だがワシは尾崎と聞けば紀世彦が浮かぶ年代である。
今、頬の緩んだあなたは確実に30代である。





「なるほど、クラッチもないしこうやって踏むだけか・・。んで、次は・・と。アクセル回すんか」

 


パカッ!(アクセル開ける音)

 

 

ブモモモモモモモモ!!!!!!

 

 

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「ひえーーーーー!!!!!!」

 

ワシはまだ跨っていない!!なのにバイクは走り出す!!フライングもええとこ!!
ワシは両手でハンドルを押さえるが慌てて余計にアクセルを開けてしまった!
バイクが前に行き、それを右手で押さえようとすればするほどアクセルは開く。
しかしそんな理屈はわかっていても、実際はパニック状態である。
人間、パニックになったらしがみつくので精一杯だ。

 


両足は地面を踏ん張るが単車の馬力にワシの脚力が勝るワケもない!
「どう、どう、どう!」と言ったところでなだめられるものでもない!
そのまんま真っ直ぐ進み、庭にあった棗(ナツメ)の木に激突!!!
そしてなおもアクセルを緩めれずに、全開!全開!全開!
もうエンジンが断末魔の悲鳴を上げるほどの全開である!

 

するとモンキーはナツメの木をうまい具合に上がっていくではないか!
さすがはHONDAの猿!! だてにモンキーという名前ではない!!
いや、感心しとる場合でもない!!

 

 

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家にいるハズのおかんを半泣きプラス大声で呼ぶ俺。暴走モンキーにいいようにやられてる俺。
この滑稽な姿を見せる恥ずかしさと、壊したら兄貴に地獄の洗礼を受けることが俺の脳裏をかすめる。
しかしこの姿はちょっとしたコントである。

 

結局このまんま横倒しになり、どこも壊れずエンジンも止まって一件落着であった。
幸いおかんにもワシの悲痛な叫びは届くことなく、この事件は今の今までワシの小さな
胸の中に大切にメモリーしておくことになったのであった。

 


「こいつは生半可なテクじゃ乗りこなせねえぜ」

 

荒野の少年イサムが暴れ馬のサンダーボルトに乗った時に吐いた懐かしのセリフそのままに、
ワシは額に浮かんだ玉の汗をぬぐったのであった。
もっともテク以前の問題であるが、無理矢理そう思わねばワシの男がすたる。
こじつけと言い訳はワシの十八番だ。

たぶんここを読んでる諸君は荒野の少年イサムなんか知らんとは思うがまあええやろう。
それはワシが中年ということで堪えてほしいところだ。なんせ一番最初に買ったレコードが
黒猫のタンゴで、その次は浅田美代子の赤い風船やった時代やからね。ゴメンね。
ちなみに浅田美代子にファンレターを書いたがハガキに鉛筆書きで出した俺であった。
さすが小学生。レターの意味をわかっていない。

話が横道にそれた。

 

こうして、何度か同じ失敗をしたが、ついに乗れるようになり(ほんの1時間ほどだが)
ワシは外に出る決意をした。まあ、家の近くが阪神競馬場であったので、その空き地で
乗れるということでそこで地獄の特訓をした。(そこは公道ではないので違反にはならない)
苦難を超えて、そこまで辿り着いた時の気持ちは格別なものであった。

 

これがワシとバイクの初めての出会いである。

 

出会いというものは、ほろ苦く、しかし甘い思い出なのである。

数々のバイクと出会い、そして別れ、いつしか乗用車に変わっていき、

やがてまた、単車に乗りたい時がやってくるものである。

 

 

 

 

こういうのは人間に応用してはイカンよ。

 

 

 

おわり