櫻の樹の下には


 

『櫻の樹の下には屍體が埋まつてゐる!
 これは信じていいことなんだよ。』 (梶井基次郎)


白き月影の森で 樹の根を 掘れば
幾百という 女たちの 屍を
見つけることが できるだろう

それはあなたを 思いすぎて
変わり果てた 女たちの 姿

白き月影の凍てつく森で
水晶のような 液をたらたらたらと たらしながら
樹の根に採り込まれていく あたしの姿

あなたが あたしに気づく頃
いつのまにか 透き通った あたしの体は
悲しみの根に 覆い尽くされる

そして
あたしの 血液が 櫻を 見事に染めあげた頃
櫻の森の満開の下を あなたは 通りすぎていく


ねがわくは 花の下にて春死なむ
そのきさらぎの もち月の頃      (西行)