頭 MOTO HAGIO
萩尾望都

プロフィール
1949年福岡生まれ。
手塚治虫の「新撰組」に感銘を受け、漫画家を目指す。
69年「ルルとミミ」で商業誌デビュー。
76年には第21回小学館漫画賞を受賞。
中学の頃から培われたSFを初めとする幅広い作風とそのクオリティの高さから、「少女漫画界の手塚治虫」と言われるくらい、絶大な支持を集めており、後続への影響も計り知れない。
現在も衰えないその実力は、本物中の本物の風格。

 

 

レビュー

ポーの一族
(全5巻)小学館
ポーの一族
■私は何故生きているのか、と考える時、私は何故死なないのか、というもうひとつの疑問が立現れる。
はてしなく長く想われる、あてのない遠くへ、何故向かおうとしているのか?
行き着く果てには何が待っているというのか?
そんなことに、今ここで答えが出せないことは承知の上だし、出せないから、まだ生きている。
いまわの瞬間にまで辿り着けないところに、しかし、そこに辿り着くことだけが確かだから、逆に、我々は生きていけるとも言えるだろう。
どんなことがあっても、そこへは辿り着かざるをえないから。
その瞬間まで、全ては決定されていないから。
僕は死ねないのだ。

ポーの一族は、人間が言うところの吸血鬼の一族であり、胸にくいを打たれない限り死ぬことはない。それはあらかじめ決定された永遠の苦しみである。
その無限の、人間には想像のできない時世界を生きる彼等は、しかし、私達と大差なく、悩む。
あらかじめ決定されているという点で、限りある命と不死は、同一だから。
私は何故生きているのか。
そして、何故、死なないのか。

先へ向かわねば、見えてこない景色があるから、ひたすら遠くへ、遠くへ、歩いていく物語り。
人間が存在するから、そして自分とは決定的に異なる他者がそこにいるから生まれる哀しみ、せつなさが構成するナイフだらけの空間が、あまりにも美しい。
ページ数を割かずとも、自然と大きくなるスケールに呑み込まれた頃には、心は既に奪われてしまっている。

果てはある。だから、果てしない。(雅)

 

 

モドル
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