頭 KAZUICHI HANAWA
花輪和一

プロフィール
1947年生まれ。
主に青林堂やペヨトル工房発刊の雑誌などで執筆。
華麗かつ異様に描き込まれた画面の中に、諦観とそこから生まれる悲喜こもごもを映し出す、
漫画史上においても、希有な存在感を放つ漫画家。
舞台が幻妖な中世であれ、現代であれ、そこには常に、深く人間と自身を見つめる眼が潜む。

 

 

レビュー

刑務所の中
(全1巻)青林工藝社
刑務所の中
■銃砲刀剣類不法所持により、三年間の獄中生活を過ごした花輪和一が、記憶をたよりに再現した獄中記。(それにしても花輪和一の画力には敬服する)
普段の日常を綴るかのように、穏やかに淡々と、獄中の日常が、執拗に描写される。

異様なほど細部に執着して描かれる刑務所の中は、陰惨でもなく、むしろ刑務所の中の有様、ものごとに対し、好奇心と興味を全開にする花輪和一の眼を通しているため、しばしば楽しげにすら見える。
不自由の中から生まれる自由が、ここには在り、普段、滅多に気づきようもないことへの気づきが在る。
だから読者は普段気づいているつもりで、見逃していた驚きを随所に再発見することになる。

大上段に構えず、自分の眼と心が記録(記憶)したありのままを、自分の手によって再現する。
それが背筋が寒くなるほど自然に行われているゆえ、この獄中記は、他に類を見ない訴求力を持っている。
「食って、寝て、起きて、食う」
「夢を見て、起きて、寝て、夢を見る」
どうでもいい(と勝手に思っている)ことの中に、普遍的で、絶対的な本当のことが潜んでいる。そのことを、花輪和一は本質的に無意識に、実感しているのだろう。
冴え渡った感覚に基づく実感のなんと確かなことよ。

当たり前に見えて不可思議な日の常に、思いを馳せる。(雅)

 

 

モドル
copyright(c)1999 MANGA JIDAI