頭 IOU KURODA
黒田硫黄

プロフィール
93年「蚊」でデビュー。
その後すぐ「月刊アフタヌーン」で連載が始まった第一長編「大日本天狗党絵詞」で、新人離れした圧倒的な実力を披露し、話題を呼ぶ。
その奔放な発想や、描線は、最近全般的に失われかけていた漫画のダイナミズムに満ちている。
オリジナル作品はもちろん、よしもとよしともと合作したり、「ネオ・デビルマン」(さまざまな漫画家による永井豪「デビルマン」のトリビュート)や「メトロポリス」(オリジナルは手塚治虫)などのカバーの傑作を次々発表し、徐々に認知度も上がっている。
今現在、最も注目すべき漫画家の筆頭。

 

 

レビュー

大日本天狗党絵詞
(全4巻)講談社
大日本天狗党絵詞
■「コミックキュー」第4号にて、よしもとよしともと合作し、その雑なようで、パワー溢れる画風を見せつけた黒田硫黄の、傑作長篇。
  まず、この作品の一番の魅力は、そのダイナミズム。最近の漫画全般に、失われかけていた躍動感。それぞれにキャラ立ちした登場人物の、パーソナリティのぶつかりあいから、必然的に生まれるドラマ展開が見事。
  下手すれば、観念的になったり、小難しくなりがちな台詞劇も、その演劇的演出や、心の動きの表現の巧みさで、見事にわかりやすく、かつ深い仕上がりになっている。何よりも、さりげなく、日本という国の現代を、絶妙に世界観の中に織り込んでるところが凄い!
  と、まあ、なんか文章の下手な評論家みたいな文になってしまったけど、とにかく一度読んでみてほしい。今まで見たこともないような漫画の世界を間見れること間違いなし。もっとも、超マイナーで、全然売れてなくて、ゆえに本屋で見かけることも稀な本なんで、大きな書店で探して下さい。今なら注文も可能。絶版になってしまう前に、一読を。(雅)

 

 

大王
(短編集)イーストプレス
大王
「蚊」

■この作品を含む4つの短篇で四季賞大賞を受賞した黒田硫黄が、いかに凄いか。それは、この「蚊」を読めば明らかだ。
まず、漫画を読み慣れた人は、その描線に目が止まるだろう。
明らかに誰にも似ていない、独特な構図、タッチ。
そして次に台詞回し。大傑作長篇「大日本天狗党絵詞」(別項参照)で輝いていたのは、実は、絵よりも、演出よりも、設定よりも、まずストーリーなのだが、そのベースとなる台詞回しが実にうまい。テンポがいい。
はっきりいって、なんだかよくわからん話なのに、だからおもしろい。そして読み終わって誰もが思う事だが、この「何にも似ていない」完成度は、これだけ漫画文化が爛熟した現代において、本当に凄いことなのだ。
しかもデビュー作。(逆に言うとだからデビュー作、か?)そして、黒田硫黄の現時点での最大の功績は、「オリジナルなものなんてもう作れない」だの、「全てはやりつくされた」だのの言説が、いかにただのエクスキューズだったかを、作品ではっきりと証明したことにある。
他の作品も全て紹介していきたいくらい素敵だ。奇想天外だ。漫画でしかできない表現方法だ。(雅)

 

 

黒船
(短編集)イーストプレス
黒船
下記、再び来航した黒船に乗って観た光景聞いた噺感じた何かの個人的記録。

「わたしのせんせい」…ままならぬ世界の中でままならぬ激情が、終わりの季節の朝 焼け空の到来と共に炸裂。恋愛と終わりの前にあまりにも無力な人間は、それでも自 転車を、壊れたら乗り換えてでも漕ぎ続ける。しょっぱなからいきなり問題作にして 傑作。「大日本天狗党絵詞」と共通する重層・多面的な魅力あり。何も教えちゃくれ ないまま、ああ遠ざかるわたしのせんせい。
「海へ行く」…「2人のシリーズ」第1弾。漫画の謎、想像力の謎、眼前にある動かざる謎、動く謎。謎だらけでほんと嬉しくなっちゃうよなあ。黒田硫黄の漫画ってのもほんと謎だ。だからこそ魅力的。
「トゥー・ヤング」…どうでもいいっちゃ、ほんとどうでもいい小咄の中に潜む天然と意図。それにしてもへんな漫画だ。いつものことながら色彩が実に良い。
「鋼鉄クラーケン」…正直言って、個人的にはオチがピンとこないのだが、そこに至る道程は圧巻の一言である。ダイナミーック!スペクタクール!しっかり読まないと置いてけぼりにされそうなくらい「はやい」。見事なまでの不器用なすれ違いと出会い再会別れ。翻弄されているようで、してるようで、やっぱりされている人間関係の蠢きのグルーヴ。すごくおもしろい。ジェット帆船漫画。
(今気付いたけど、ここまでの4編って、オチから次の話の冒頭が、微妙につながってるような?そこまで考えて編集されたかは知らないけれど。)
「自転車フランケン」…「2人のシリーズ」第2弾。当たり前のようにへんな漫画。おもしろすぎる。休日っていうのは、やっぱりひたすら楽しまなきゃね。おもしろい漫画もね。
「年の離れた男」…「2人のシリーズ」第3弾。とんでもないことはよくあることで、よくあることなんてのはとんでもない。あいかわらずへんな漫画で惚れ惚れ。
「ナイト・オブ・ザ・リヴィングデッド」…「2人のシリーズ」第4弾。立体的に配置された伏線が全部バッチリ決まって気持ちよすぎる小咄。しかも構築されてる感ゼロ。ざぶとん何枚でもあげたくなる。タイトルからして、多面的で素晴らしい。
「課外授業」…小原愼司原作。このぶつ切りな後味は、なんと言ってよいやら。じんわりと衝撃的。生きるってそういうことなんやろね。不思議な漫画。それにしても黒田硫黄ってオリジナルは当然のこと、コラボレーションもほんとおもしろいなあ。カバーもうまいし、言うことほんとなくて悔しいなあ。読まないとちゃんとおもしろさが伝わらないという点で典型的かつ理想的な漫画すぎて、俺はこんなとこでわざわざ何書いてんだって気になってくる。悔しいからまだまだいっぱい言うぞ。
「肉じゃがやめろ!」…主旨に賛同。料理したくてしかたなくなる愉快な小品。料理というのは、何も食べ物だけにとどまらない。あと、「食べる描写のうまい作家の作品はおもしろい」という法則は、やっぱり正しいと思う。これも食べる描写だけにとどまらないか。そうか。
「最近どうよ?」…ビバ!黒田硫黄(肉→味噌)ターリホウ!(と、幕間のこのあたりでフライング気味にスタンディング・オベーション)
「象の股旅」…史実に基づき、せつなくてヘヴィな漫画を展開。黒田硫黄は、あるのっぴきならぬ状況の中に置かれた人々の蠢きを描くのが本当にうまい。そしてその蠢きはけして綺麗ではないが、美しい。ヒト、(クロダイオウノ)マンガ、アウ、ホレル、ショガナイ。
「さらばユニヴァース」「2人のシリーズ」第5弾。画面の白っぽさが実に良い。常に作品の雰囲気と描線をきっちり合わせてくるのは流石。おだやかなからっぽの世界にふわふわ漂うのは風船のような2人。

追記。もうとっくに黒船のことは見聞きしてたんで、、今更びっくりしないと思ってたけど、いざ乗ってみたらやっぱりびっくりした。驚きがいっぱいで、不思議で謎だらけだ。おもしろい。なんでこんなにおもしろいと思うのか、ほんと自分でもまだよくわからないのだけど。だからおもしろいんやろね。きっと。(雅)

 

 

モドル
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