■マリア

 

 

 

 

 ■山田君ノ布団

 

音楽家 水野 真人

   この度「山田君ノ布団」 「マリア」を相次いで鑑賞できた事は大変幸運でした。「マリア」は短編ながら監督がどんな記憶をここに刻み付けたのか、あるいは浮かび上がらせたのかという事がよくわかる作品だと思いました。伴野さんの生き方、いや「生きざま」が伝わってくる思いが致しました。正直に申しまして身を切るような痛みさえ感じる作品だと思いました。何がどのように痛いのかは言葉では表現できませんが、そのように感じました。確かに「記憶」が甦ってくる映画です。

  伴野さんがおっしゃる「記憶」とは、日記などに書かれた内容のような「記録それ自体としての事実」ではなく、「記録の向こう側」あるいは「記録というデジタル記号を窓口とし、それをアナログに還元した世界」であるように思いました。「記録」と「記憶」は違うように思います。「記憶」はもっと人間の根源的な心理面のように私は思いました。

   ビデオケースの中に入っていた解説書も拝見いたしました。伴野さんはなんと繊細で鋭敏なお方なのでしょう。そのような若さでこういう映画を創り、また鋭い視点で物事を見るという事は驚きと共に何か恐ろしいような気持ち(悪い意味ではなく)さえ感じました。どちらの作品も映画の原点を兼ね備えながらも同時に21世紀型映画の可能性を内在させた映画であるように思いました。伴野さんは短編の方に関心がおありのようですが、スタッフの方や作家の高橋克彦氏もおっしゃっていたように、私もファンの一人として長編にも期待している次第です。勿論、短編も素晴らしいという事は言うまでもありません。

  伴野作品には「目を閉じた時に思い浮かぶ光景」が映し出されていると思います。どこか懐かしい印象はそのためでしょうか?非常に厳しい内容が含まれているにもかかわらず、心に不思議なやすらぎを感じるのはそのためでしょうか? こういった光景は昨今流行のCGでは困難であるように思います。たしかにCG映画を制作される方々のご苦労は相当なものだと思いますが、「目を閉じた時に思い浮かぶ光景」とはまた別物であるような印象を受けます。伴野さんが「映画 = 記憶」とおっしゃった事が、私にもよく解ります。

 また、伴野作品には空気が描かれていると思います。空気は目に見えないにもかかわらず、煙や湯気を利用しなくても、伴野作品には空気が描かれております。さらに、伴野さんが撮影した雲や空やその他の風景は、「目を閉じた時に思い浮か
ぶ光景」を蘇生させます。郷愁さえあります。伴野作品には人の心を安定させる不思議な特徴があります。

 ところで伴野さんは「マリア」の解説書の中で、「覗き窓」という言葉を使用されておりましたが、私もその言葉が好きです。実は私もさるコンサートのプログラムにおいて自作に関するメッセージの中で拙作の事を「自らの心を省みる窓口」という言葉で説明しました。伴野さんと同じような捉え方だと思い、「マリア」の映画と解説を拝見して大変共感を持ちました。伴野さんと私には何か精神的な接点があるような気が致しました。

 これは想像ですが、私はたぶん伴野さんと共通した苦しみや傷を負っていると思います。それが何であるのかという事を直接説明しなくても、監督の映画およびご発言を通してそのように感じました。また、あとで振り返ってみれば、そういった苦し
みや傷も創作のインスピレーションの一角を成しているように思われます。監督はそれを映画で表現し、私は音楽で表現しているのではないでしょうか。そういった表現上の違いはあるにせよ、伴野さんとの心理的共通性を感じました。

 伴野さんの映画に対する真剣かつ深い情熱には強く感服致します。幻燈舎映画の益々のご発展を期待しております。どうか昨今の「芸術界」に新風を吹き込み、未来への突破口を開いてください。伴野さんにはその才能と使命があると私は確信致します。

2001年 夏 水野真人 
国際芸術連盟、日本音楽著作権協会、日本作曲家協議会、 各会員

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水野 真人 様

お手紙を拝読いたしました。感動のあまりに、涙が出ました。ここまで光栄なお言葉を戴いたことは、今までありません。水野さんに作品をご覧いただけたことで、すべての苦労が報われた思いです。また、私の未熟な作品でも、人の心を動かす価値があるのだと大きな励みになりました。

そして、とても不思議な気持ちになりました。私が作品に込めた思いを、極めて的確に受け止めてくださっているのです。私が今、辿っている道は、水野さんが先に歩まれてきた道なのかもしれません。水野さんは音楽で、私は映画。ただ、それだけの違いなのかもしれないと感じました。

私は映画会社に勤める平凡なサラリーマンです。毎日ハリウッドの娯楽映画と接し、予告編や宣伝番組を作るのが仕事です。時には観客に迎合し、そして動員することを考える人間です。けれども、いつか本当に価値ある表現をこの世に残したいという思いは強くなるばかりです。私は決して芸術家と呼ばれるような者ではありませんが、ひとりの人として生まれてきた意味を自ら問い続けたい。

幻燈舎映画 伴野 智

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