脚本家 古谷壮志の
現象学的人間論と、うずまき
この物語はフィクションであり、
登場する人物、団体名は実在のものとは
一切関係有りません。

らせん編その1
 夏休みも明け、授業が始まって数日後。私は完成したという雑誌を受け取りに渦巻助教授の部屋を訪れた。蛇足ではあるが、彼が何故「教授」ではなく「助教授」に拘っていたのか私は今だに解らないでいる。是非教えて欲しいものである。

 渦巻助教授の住まいというのは、暗雲立ち篭める空の下、雷鳴が轟き、枯れた木々が立ち並ぶ森を抜けた所にある、小高い断崖の上に建っていた。鉄の丈夫な門扉の上には悪魔の彫刻が飾られている黒い洋館で。

その地下室では夜な夜な悪魔の実験が繰り広げられている。といった様な、まんまマッドサイエンティストの住まい。と言うような所では無く。普通の六畳に住んでいた。部屋には先客がおり、部屋にあった座椅子にもたれ掛かる様に座っていた。

よく見ると妙な人物で、異常に大きい緑の頭をしており。手足も細く、背丈も1メートルに満たなかった。
「誰ですか?」と聞くと、ベガ星系の第三惑星から来た友人らしく。名前は地球人には発音出来ないらしかったので、私は彼を漱石君と名付け、呼ぶことにした。

ちなみに教授は彼のことを緑の小人と呼んでいた。不勉強だった私は、ボネガットに引っ掛けて「トラファマドール星人ですか?」と茶化してみたら。「あれは異次元人だからぼく達からは見えないだろ」と冷静に返されてしまった。

 どうやら雑誌はまだ完成していないらしかった。私たちは授業の時間まで教授の部屋で映画を見ていた。見ていたのは「インディペンデンスデイ」で、教授は「ここでゴジラのオモチャで子供が遊んでるんだよ」と解説してくれた。

そうこうしている内にまた部屋に誰かがやって来た。漱石君は何時の間にか居なくなっていたが私はそのこと気付かずにいた。

「お前等なにやってんだよ?」やってきたのはフルイ君で、彼は「フルイズム」という独自の表現技法を追求しており。自らを「フルイスト」と呼称していた。後に解ったことだが、この「フルイズム」なるものは単に女の子をナンパしまくる事にその本質があるというよく解らないもので。私には理解できないものであった。

「ちょうどいいや、君お腹すいてるかね?」と教授はフルイ君に言った。というのも、その少し前、私たちは漱石君が持ってきたサンフランシスコのお土産「金門橋饅頭」と「パワーバー」というお菓子を食べていた。

金門橋饅頭というのは名ばかりの温泉饅頭で、結構おいしかったので私と教授とで平らげてしまった。しかしもう一つの「パワーバー」というのが曲者で、一応バランス栄養食らしかったがアメリカらしく喉が焼けるほど甘いうえに、かなり不味かったので、教授も私も少し手を付けただけでうっちゃていた。

教授はこの食べかけの「パワーバー」の後始末をフルイ君にさせようと言うのである。結構酷いことするなあと私は思ったが、同時にフルイ君なら大丈夫だろうとも思った。しかし私の心配は無用であった。

フルイ君は不味い「パワーバー」をぺろっと平らげてしまったのだ。「もう無いのか?」と彼が言ったので私は自分の分を差し出した。フルイ君はそれも平らげてしまった。                  

 つづく

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