脚本家 古谷壮志の
現象学的人間論と、うずまき
この物語はフィクションであり、
登場する人物、団体名は実在のものとは
一切関係有りません。

らせん編その4
 私たちは徐に大仏の頭に歩を進めた。大仏の頭は青銅らしき物で出来ており、恐らく相当な重量があると考えられた。そのため、地面にめり込んでいるのも納得がいった。
「随分と重いんでしょうねえ」私は教授に言った。
「地面にめり込む位だからね。でもこれは自重のせいじゃないんじゃないかな?」
「と言いますと?」
「恐らくこれは落下してきたせいじゃないかな?此処の地面は別に液状化している訳じゃないだろう?」
「そう言えばそうですねえ。此処の地下に空洞が有るかどうかは知りませんが、余り考えられませんからね」

そう言って私は大仏の頭をペタペタと触った。大仏の頭は出来立ての様にピカピカで、表面には私の指紋が幾つも着いた。それを見て教授は言った。
「ふうむ、この頭は出来立てなのかな?こんなに綺麗なのは変じゃないかね?」
「それもそうですね。それに、相変わらずみんなこんなにでっかい物が気にならないみたいですね」

そこで教授は何か思い当たったようで、まじまじと大仏を見上げた。
「そうか・・・もしかすると・・・」
「もしかすると、何ですか?」私は尋ねた。
「もしかすると皆にはこれが見えていないのかもしれない」
「ええ?クソ真面目な顔して何を言い出すのかと思えば。何を馬鹿なことをいってるんですか?」私は笑いながら言った。

「いやいや君、これまでの状況を考えると、あながち外れてるとも言えないよ」
「本当ですか?」
「ああ、まず第一にこの大仏の頭に気付いているのは我々だけだ。第二にこれが出来立ての様にピカピカと言うことが何よりの証拠だよ」
「どう言うことですか?」
「君はこの大仏に近づいたときに触ってみたろう?恐らく他の人間がこれに気付いていれば同じ事をしたろう。きっとまず触ってみたはずだ。だがこの頭には見たところ君のもの以外に指紋は見受けられない。つまり君以外にこれまでこの大仏に触れた人間が居ないということになる」
「成る程、やはりこれに関心を持ったのは我々だけということですね」
「そう言うことになるね」
「何で又?」
「君はデジタル無線機の位相変換技術というのを知っているかね?」
「デジタル無線機の位相変換技術う?何ですかそれ?」
「アナログ波を使ってそれを位相変換してデジタル信号とする技術だよ」
「すいません、よく解らないんですけど」私のその言葉を聞いて、教授はやれやれといった感じでため息を着いた。 
                    つづく

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