脚本家 古谷壮志の
現象学的人間論と、うずまき
この物語はフィクションであり、
登場する人物、団体名は実在のものとは
一切関係有りません。

らせん編その5
 教授は先に述べた位相変換技術について私に説明してくれた。
「例えて言うなら今我々が目にしているのはアナログ波内に存在するデジタル波のようなものなんだよ。デジタル信号と言うと、論理によって1と0に分けられた信号だと思いがちだが、電波として飛んでいるデジタル信号は、変調されたアナログの波形なんだ。

それは位相変調という方式で、位相の上に信号が乗っかった形なんだ。4値PSK波は普通サイン波から90度づつ位相が遅れた信号を乗せる。最初の信号を第一信号、次を第二信号とすると、第一と第二は90度ずれた形になる。

このように周波数に対して90度づつ位相をずらしたものを4つ用意して、その4つの信号の大きさをA/D変換することによってデジタル信号として扱うんだ。それがデジタル無線の位相変換技術だよ」
 私には教授の説明はさっぱり解らなかった。私は言った。
「先生、私には何の話かさっぱり解らないんですが」
「困ったねえ。じゃあこれはどうだい?」そう言って教授はペンでメモ帳になにやら書いて私に見せた。

そこにはこんな文句が書かれていた。
「ぼたぬきくはたぬきおなたぬきかがたぬきすいたぬきた」私は首を傾げた。
「なんですこれ?」
「その文章から「たぬき」というフレーズを抜いてみたまえ」私は教授に言われた通りにやってみた。

するとこんな文句が現れた。「ぼくはおなかがすいた」私は成る程と感心した。教授は言った。

「解ったかね?その文章から任意に選択されたフレーズである「たぬき」を抜き出すと別の文句があらわれる。これは暗号化の初歩の技術だがこれで解ったかい?」

「つまりは我々には普段目に見えていないものが見えていると」

「そういうことだ」私は少し考え込んだそして、
「というと、トラファマドール星人?」

「それに近いね。あれは確か五次元だか四次元の宇宙人だったろう?」

「確かそうですね。とすると…今現在我々もそう言う存在ということですか?」

「調べてみよう」
 というわけで、我々は渦巻助教授の独自の理論である「なると式」のフィールドワークも兼ねて本格的な調査に乗り出したのであった。 
                    つづく

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