脚本家 古谷壮志の
現象学的人間論と、うずまき
この物語はフィクションであり、
登場する人物、団体名は実在のものとは
一切関係有りません。

らせん編その10

「トンネルを抜けるとそこは雪国であった」これは川端康成。私の場合は、「電話線をたどってみると、そこには冷蔵庫があった」

アホみたいな表現ではあるが、これは適切な表現である。私と教授が電話線をたどって庭を掘ってみると、そこには冷蔵庫が埋まっていたのだ。

冷蔵庫の閉ざされた扉の隙間からは黒い電話線が伸びている。ベルは相変わらず鳴り続けていた。教授はおもむろに冷蔵庫の扉を開くと、そこには黒い電話が入っていた。

黒い電話、今は余り見かけなくなった文字通りの黒い電話である。教授はやや今の電話よりは重いその電話の受話器を手にした。そしてそれを耳に当てると、当然の事ながらこう言った。
「もしもし?」
こんな変な状況なのに意外に月並みな反応するんだなあ。と私は思った。

教授はというと、電話の向こう側の相手に対してやや拍子抜けしたような感じで、しばらく話すと受話器を置いた。
「誰だったんです?」私は教授に尋ねた。すると、驚くほど意外な答えが返ってきた。
「僕の母上からだよ」
「はあ?」この答えには私も驚いた。これほど妙な状況でかかってきた電話は教授の母からだったのだ。

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