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脚本家 古谷壮志の 「わーるど・いず・のっといなふ」 |
「忘れる前にもう一度」 ついこの間の公演「街はRAINをCALLして」のアンケートを見ていて少し奇妙な印象を受けた。全て目を通した訳ではないんだが、幾つかのアンケートに「忘れていた事を思い出させてもらいました」という意見があった。 観客が作品に対してどういった感想を持とうがそれは勝手なので、それをどうこう言うつもりは無いんだが、ちょっとそれが奇妙に見えたのだ。 何通か同じ意見のアンケートを調べてみると、そういう感想を書いてくれた方の半数以上が妙に若いのだ。高校生だとか、まだ十代の子が多かった。 どうしてなんだろうか?何を忘れてたんだろう?自慢じゃ無いが、私がまだその年齢だった頃。「忘れていた何かを思い出す」なんて事は先ず無かったし、そんなこと考えたことも無いようなバカな子供だった。 今の子供は忘れるような事があるというんだろうか?それとも私はそれに気付かないバカ(というか単純)だったんだろうか?どうにも解せない。そこで、今現在の自分についても考えてみたのだが。 どうにもその「忘れていた何か…」というのが思い当たらない。よくドラマにあるように「あの頃の俺はまだ若くて…」ってな具合に考えても見たが、今でも十分若いのに昔の(ちょっと前の)事を思い出しても別に今と変わった所はない。 かく言う私も別に平坦な人生を送って来た訳ではなく。人並みに色々と経験したし、喧嘩や失恋、挫折の経験だってある。にもかかわらず何だか自分より若い子達の方が大人に見えるのだ。 大人っていうよりは妙に達観していて気持ちが悪い。逆にこっちが説教されそうなのだ。 「近頃の若い奴はなってない!」って意見は紀元前に書かれた書物にも出てくる位だから何時の時代も言われてることなんだろうが、現状を見ると「なってない!」どころか「大丈夫か?」とこっちが心配になるような印象の方が強い。 それもファッションやライフスタイルというよりは内面的な、考え方がである。その印象の原因はおそらく精神的な「老い」だろう。つまり、言うところの「悟り顔の若年寄」が増えたのだ。さらにたどると、それは最近の「癒し」ブームにあるように思う。 「癒し系」のブームは、不景気もあって、厳しい社会情勢にさらされる大人達に向けられたものの筈なのに、子供にも影響を及ぼし始めたのだ。疲れていないのに「癒されたい」という願望だけが増大している世代が産まれつつあるということだ。 何時までも癒されてて良いんだろうか?癒されてる割には全然元気になっていないんじゃないか?堕落させる為の癒しなら、そんな物はいらない。少なくとも私はそう思う。 癒されるのも結構だが、癒されたんなら元気になるべきなんじゃないだろうか?元気にならず何時までも癒されていたら、きっといつか本当に何かを忘れてしまうだろう。そして気付くに違いない。あの意見を書いてくれて子も、自分が実はまだ何も忘れていなかったことにである。忘れるほどの時間はまだ経っていないのだから。 |